媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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花嫁

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「さて、話がまとまったところで、お仕事の話をしてもいいかな?」

 クロウがニッコリ笑ってアウルに向かい合う。

「急ぎのお仕事持ってきたからこんな時間に来ちゃったんだから」

 数枚の羊皮紙をハイ、と渡すと、アウルは顔を歪めて読んだ。

「ふん、三日後までに幻覚剤の発注、来週までに電気宝石の発注、別にすぐできる。急ぎの必要なんか感じねぇな」

「さっすがアウルー!でも大事なのはそれじゃないの。最後の羊皮紙の依頼見てよ」

 クロウに言われてアウルは最後の一枚の羊皮紙を見る。するとみるみる険しい顔になっていく。

「ああ、確かにこれは1日でも早い方がいいが…クソ」

 アウルはしかめっ面のまま羊皮紙を持って別な部屋に向った。



 取り残されたジャスとクロウはお互いに気まずそうに黙っていた。

 ようやく口を開いたのは、ジャスだった。

「あの…あれは?」

「ん、ちょっと面倒な案件」

「そうか」



 また少し黙ってから今度はクロウの目を見ながら口を開いた。

「あの、あなたは本当はアウルの事、あの、想って…」

 スッと手が伸びてジャスの口が塞がれる。

「何の意味もない事なんだよ。魔法使い同士なんて」

 クロウは優しく答えた。

「俺はただ、あの大魔法使いアウルに、魔力を失ってほしくないんだ。それに幸せになってもらいたい。だから、素敵な花嫁を早く見つけてもらいたいって思ってたんだけどね。まさか男の子で来るかぁってビックリしちゃった」

「あー、男の花嫁ってよくある事なのか?」

「ま、無くもないかな。まあ俺的にはまさかアウルが…って感じ。それもまさか、俺のチューが大丈夫だったからだなんて…」

 クロウは寂しそうに苦笑する。

「きっかけは俺なんだもんな…。ちょっとだけ、ごめんね」

「あ、いや…」

 ジャスは答えに詰まった。こんな言い方されて謝られると怒る気になれない。

「アウルは男だし、ジャス君の言う価値観が狂ってる魔法使いだし、人付き合い慣れもしてない不器用だけど、優しい人だよ。拒否る気持ちもわかるけど、少しだけ、考えてあげて」

 そう言われてジャスは困惑しながらも頷くしかなかった。



 すぐにアウルが別な部屋から戻ってきた。いくつかの薬品を手にしている。

「少し準備が必要だ。明日はむりだが、明後日にやる。クロウ、テメェも行けるな」

「もちろんもちろん」

 クロウはニコニコしながら即答する。

「じゃぁ明後日迎えに来るから、俺は帰るね。ジャス君、アウルの事よろしく~」

「よろしくって!」

 次の瞬間にはスッとクロウは消えていた。



「ま、面倒な仕事は入っちまったが…花嫁問題は解決したし良しとするか」

 アウルは頭をかきながら言った。ジャスは慌てた。

「待ってくれ、解決じゃないだろ。ていうか早く姉の魔法を解けよ」

「ん?じゃあこれから今夜にでも契結んでくれんのか?」

「いや…今夜は…」

「テメェが契を結んだら解いてやる。逃げられたらかなわないからな」

 くそ、とジャスは唇を噛む。

「ああ、そうだ忘れるところだった」

 アウルはジャスの左手首を突然掴んだ。

「いっ!痛、何すんだよ!」

「少し待ってろ」

 アウルは口の中で何か呪文を唱える。

 すると、何も無かったジャスの手首に、シルバーの腕輪が出来ていた。

「何だよこれ」

「印だ。こいつはもう魔法使いの花嫁の予約が入ってるから、取るんじゃねぇぞ、っていう。まあ、テメェら人間でいう婚約指輪みたいなもんだな。指輪だとすぐテメェ取っちまうだろうが腕輪なら簡単に取れねぇだろ」

「婚約指輪……?」



 ジャスはふと、姉のマリカの事を思い出す。婚約者から貰った木でできた手作りの指輪をはめて嬉しそうにしていた。今はお金が無いからこれでごめんね、でもいずれ素敵な金の指輪を贈るから、と言われて。

 ――とっても素敵だから別に金の指輪なんていらないわ。

 幸せそうなマリカと婚約者の愛の証の婚約指輪……。


 それに比べてこれは。

「婚約指輪っていうか、まるで手錠じゃないか…」

 ジャスはやけにキレイに磨かれたシルバーの腕輪を眺めて呟いた。

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