媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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大仕事①

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 翌朝、アウルの家の前に降り立つ人影があった。クロウだ。

 先日持ってきた仕事の手伝いの為に、朝早くにやって来たのだ。

「どうせまだ起きてないだろうなー」

 クロウはそう楽しそうにつぶやきながらアウルの家の前に足を進めた。

 しかし、思いがけず、家の中からアウルの声が聞こえてきた。

「え、意外。もう起きてる……」

 やっぱり誰かと一緒に暮らすと生活サイクルが変わるんだねーと思いながらドアを開けようとした。その時だった。



 家の中からアウルの声ではない、ジャスの少し息切れしたような声が聞こえてきた。

「……おい、やめろ……なんでそんな所……」

「……」

「おい、黙ってないで……そんな……あっ」

「ここがいいって、テメェが言ったんだろ」

「あっ……あぁ……やめ、さっきは言ったけど…でも今は無理だ…」

「無理じゃねぇ。ほら、良くなってきただろう」

「全然良くねぇよ!ああ、辞めろ、そんな太いモン入るわけ無いだろ!」

「大丈夫、ほら、お前の方は力抜くんだ」

「無理無理無理、今は力抜いたら……ああぁ!!」




「ちょっと!!!展開が早すぎるんじゃないの!?」

 顔を真っ赤にさせたクロウがアウルの家に勢いよく突入した。



 中では、大きなカバンから大量の荷物が今にも飛び出そうになっているのを必死で押さえているアウルとジャスがいた。突然入ってきたクロウにぽかんとしている。

「なんだテメェ急に入ってきて展開がどうのって」

「何してたの?」

「アウルが無理やりカバンに荷物詰め込むのを止めてたんだよ」

 ジャスがカバンを押さえながら言う。しかしアウルの方も不満そうに言い返す。

「テメェがさっき、ここならいい、まだ入りそうだっつったから入れてんだよ」

「さっきは入りそうだったけど、もう入りません!なのにまだそんな太い瓶入れようとして……」

「テメェが強く押さてるからだろ。そこ弛ませればなんとかなるだろ」

「僕が押さえてないと全部あふれでるからな!」

 ケンカしている二人をみて、クロウは目を覆った。

「んもー!紛らわしい!」


 結局、クロウの説得もあり、荷物はほぼ半分にまで減らされた。アウルは不満顔だ。

「さあさあ、いつもいっぱい荷物持っていってもほとんど使わないでしょ。早く準備して行こうよ。朝ごはん食べた?」

「俺ははコーヒーを飲んだ。でもコイツはまだ食ってねぇ」

 アウルは不貞腐れながらもジャスを指差す。

「後で食べるよ。今度はちゃんと火を通すし」

「何いってんだよ。テメェも来るんだよ」

「は?どこへ?」

「仕事現場に決まってんだろ」

 アウルはそう言ってジャスにさっきの大量の荷物が入ったカバンを投げてよこす。思わず慌てて受け取った。

「僕が行くなんて初耳だけど!」

「荷物持ちだ」

「なんかこう…魔法で持っていけるだろ!てか、どうせ飛んだりとか瞬間移動とかできるだろ!」

「いや、ノロノロ汽車で現場まで向かう。魔力の温存だ」

 本当かよ、とクロウに目で訴える。

 クロウは苦笑いしながら言った。

「本当だよ。まぁ、魔力温存っていうか……まぁなんて言うか。ま、仕事の為に遠出する時にアウルはいつも汽車で行くんだよ」

「そういう事だ。さあサッサと準備しろ」

 アウルはそう言ってジャスにパンを投げてよこす。

「これはいらない。自分で持ってきた保存食まだあるから」

 ジャスはいちおう受け取ったパンを静かに返した。アウルはまた険しい顔で文句を言おうとしたが、それを遮るようにクロウが脳天気な声でたずねる。

「えー、ジャスくんパン嫌い?」

「そういう訳じゃないけど」

「食べた方いいよー。このアウルの用意したパンね、王室御用達の高級パンなんだよ~」

「……そんなの……尚更」

 尚更食べられない。そんな大切な花嫁の為に用意されたようなものなど。

 ジャスが黙ってしまったのを見て、クロウは優しい声で聞く。

「どうした?お兄さんに話してごらんよ」

「それは、俺の為のものじゃない」

 ジャスは、アウルに聞かれないように小さな声で呟いたが、クロウにはちゃんと聞こえていたようだ。そして察しがいいようで何を言いたいかもなんとなく分かったようで、クスリと小さく笑い、笑顔で言った。

「考えすぎだよ」

「それは花嫁の為に大事に用意されたもんだ」

「だから考えすぎ。意外にジャスくんロマンチストなのかな」



「おい、テメェらだけで話すんじゃねぇよ」

 しびれを切らしてアウルが二人に声をかける。しかしクロウが意地悪そうな顔をしてみせる。

「デリカシーの無いヒトは少し黙っててくださいね。今大事な話してんだから」

「なっ!」

 アウルは思わずキレかけたが、クロウの少し真面目な目を見て、逆らわないほうがいいと判断したらしい。ブスッと黙ってそっぽを向いてしまった。


「あのね、本当に花嫁の為に心込めて用意するなら…俺なら例えば、マリカちゃんの好物とか調べてそれを用意しちゃうかなー。でもアウルは、とりあえずパンなら腹も膨れるし誰でも食うだろ、そんで高級なもんなら文句ねぇだろ、位の気持ちで用意してると思うよ。腹空いただの不味いだの言われたら気に入らねぇからな、みたいな?」

 アウルの口調のマネをしながらクロウは説明する。

「誰かの為に気持ちを込めて、なんて無い無い。それに、パンは保存魔法かけてるからそんな早くにカビたりしないだろうけど、アウルはパン食べないしジャス君が食べないならそのまま捨てることになっちゃうよ?勿体なくない?美味しいのに」

 それを言われるとちょっと考えてしまう。確かに昨日無理やり詰め込まれたパン、美味しかった。


 結局、昨日あんなに決心したのにクロウの言葉に流されてしまいそうだ。

「ま、じゃあとりあえず持っていきなよ。お弁当代わりに。あんまり長々話してると、アウルが機嫌悪くなっちゃうしな」

「もう充分悪くなってる気はするけど」

 ジャスは、苛ついたように足を揺らしているアウルを見た。

「ごめんねー、もう話終わったからー」

 明るくクロウが声をかけると、アウルはギロリとこちらを睨んだ。

「終わったならサッサと準備するんだ。汽車の時間はすぐだ」

 アウルはジャスの方は一切見ずに淡々と命令すると、自分は荷物も持たずに先に家を出てしまった。



「ありゃ、完全に不貞腐れちゃってるね」

 クロウは肩をすくめた。

「ま、あんまり気にすることないよ。アウルは考える事苦手だからすぐに忘れるよ」

 そんなことより早く準備してーと言われ、ジャスは急いで出かける準備をした。

 そして、アウルの分の大きなカバンと自分の小さなカバンを持った。

「お、重…」

「あら、アウル、荷物軽くする魔法かけ忘れたのかな?」

「……絶対にわざとかけてないと思う…」

「そうかもね」

「あの、クロウ…その、荷物軽くする魔法、かけてくれないか?」

「え?俺に頼むと高額だけど払える?」

「……いや、じゃあ大丈夫です…くっそ」

 ジャスはヤケクソになりながら大荷物を持って外に出た。


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