17 / 114
大仕事⑦
しおりを挟む
一方、置いていかれたジャスである。
ジャスはトボトボと村を歩くが、元々ほとんど人が歩いていない上に、かなり暗くなっていた。一体どうしろというのか、とジャスはアウルの傍若無人ぶりにイライラしていた。
誰がに泊まるところが無いか聞こうと思ったが、なんせ無一文だ。テントでも持ってくればよかったのだが、なんせアウルの荷物で手一杯だった。アウルはオーブのところにでも泊まればとは言っていたが、さっきの騒動で気まずいに決まっている。
「困った」
ジャスは頭を抱えて座り込んだ。その時だった。
「どうしたの?」
その声に顔を上げると、オーブが立っていた。
「さっきからあっちにウロウロこっちにウロウロして……大魔法使いはどこに行ったの?」
「ちょっと、置いてけぼりにされて」
さっきのこともあり、二人はお互いに少し気まずそうにしていた。しかしジャスはこのチャンスを逃すまいと急いで言った。
「本当に、こんなこと頼める立場じゃないのはわかってるんだけど、今日1日君の家に泊めてくれないかな?」
「いいわ」
思ったよりもあっさりとオーブが承諾したので、ジャスは少し拍子抜けした。オーブはジャスの顔も見ずに言った。
「妹、見てくれるって、さっき言ってた」
「あ、ああ!見る!見ます!」
ジャスはコクコクと頷く。
こうしてなんとかジャスも、泊まるところを確保できたのだった。
オーブの家に入ると、小さな部屋の隅に小さなベットがあり、そこにはオーブをそのまま小さくしたような少女が眠っていた。
「お邪魔します」
「どうぞ。何も夕食とかは出せないけど」
「大丈夫。全然!」
ジャスは慌ててそう言った。
そしてゆっくりオーブの妹の顔を見た。かなり痩せこけて顔色が悪い。医療に明るくない人が見ても、かなり症状が悪化しているのはわかる。
「先生から貰った薬、よかったら見せてもらえる?」
ジャスが言うと、オーブはすぐに渡してきた。慎重にこぼさないように薬包紙を開き、数粒、掌に載せて観察し舐めてみる。
ハッキリはわからないが、恐らく栄養剤と吐き気止を混ぜたものだろう。初期の北部型細菌性栄養失調には効くが、こうも症状が進んでしまっているのではほとんど効果はない。吐き気止が少し楽にしてくれる程度か。
「でも、これしかないもんなぁ」
ジャスは小さく呟く。ここまで進行してしまっている病に効果的な薬はかなり高価だ。とてもじゃないが、彼女には買えないだろう。
「どう?」
「あー、えっと」
「やっぱり無理でしょ?お金が無いと」
「やっぱりって」
「わかってるの。もうここまで来ちゃったら、高価な薬に頼るしか無いって」
オーブは寂しそうに言う。
「わかってるのに。私は考えなしで行動しちゃうんだ。お前を使って大魔法使いを脅そうとしたことも。本当は病院が残ったって妹が助かるってわけでもないのに……」
オーブは声が震えていた。
「さっきだって、大魔法使いから治療薬を貰うの、拒否するべきじゃなかった。何言われても、土下座してでも貰うべきだったのに……。私はいつもいつも感情で行動しちゃうんだ」
オーブは泣いていた。ジャスは困ってしまい、何も言えなかった。
そんなジャスにオーブは泣き顔のまま縋り付いた。
「ねえ、何でもするからやっぱりあの薬貰えないかな……。何でもする……お金は無いけど……」
「ぼ、僕には何もわからないんだ、ごめん。アウルは僕の言う事を聞いてくれるわけでも無いし……」
ジャスは心底申し訳なさそうにオロオロと言う。オーブは首をふる。
「うん、いい大丈夫。無理言ってるのはこっちの方なのはわかってる。確かに、人の言うこと聞いてくれそうなタイプじゃないよね、大魔法使いだし」
オーブは少し落ち着いたようで、泣くのをやめて笑顔を作ってみせた。その笑顔はまだ引きつってはいたが。
「ごめん、変なところを見せた。物置で申し訳ないんだけどそこで寝てもらってもいい?ここだと、たまに妹が吐いたりするから」
「全然、本当どこでも!トイレでもどこでも!」
「トイレで寝られちゃかえって邪魔だよ」
オーブはケラケラ笑ってみせた。
そうして、ジャスはその日はオーブの家で眠った。確かに何度か妹が起きてオーブが世話しているような声が聞こえてきた。これが彼女の毎日なんだな、とジャスは思った。
ジャスはトボトボと村を歩くが、元々ほとんど人が歩いていない上に、かなり暗くなっていた。一体どうしろというのか、とジャスはアウルの傍若無人ぶりにイライラしていた。
誰がに泊まるところが無いか聞こうと思ったが、なんせ無一文だ。テントでも持ってくればよかったのだが、なんせアウルの荷物で手一杯だった。アウルはオーブのところにでも泊まればとは言っていたが、さっきの騒動で気まずいに決まっている。
「困った」
ジャスは頭を抱えて座り込んだ。その時だった。
「どうしたの?」
その声に顔を上げると、オーブが立っていた。
「さっきからあっちにウロウロこっちにウロウロして……大魔法使いはどこに行ったの?」
「ちょっと、置いてけぼりにされて」
さっきのこともあり、二人はお互いに少し気まずそうにしていた。しかしジャスはこのチャンスを逃すまいと急いで言った。
「本当に、こんなこと頼める立場じゃないのはわかってるんだけど、今日1日君の家に泊めてくれないかな?」
「いいわ」
思ったよりもあっさりとオーブが承諾したので、ジャスは少し拍子抜けした。オーブはジャスの顔も見ずに言った。
「妹、見てくれるって、さっき言ってた」
「あ、ああ!見る!見ます!」
ジャスはコクコクと頷く。
こうしてなんとかジャスも、泊まるところを確保できたのだった。
オーブの家に入ると、小さな部屋の隅に小さなベットがあり、そこにはオーブをそのまま小さくしたような少女が眠っていた。
「お邪魔します」
「どうぞ。何も夕食とかは出せないけど」
「大丈夫。全然!」
ジャスは慌ててそう言った。
そしてゆっくりオーブの妹の顔を見た。かなり痩せこけて顔色が悪い。医療に明るくない人が見ても、かなり症状が悪化しているのはわかる。
「先生から貰った薬、よかったら見せてもらえる?」
ジャスが言うと、オーブはすぐに渡してきた。慎重にこぼさないように薬包紙を開き、数粒、掌に載せて観察し舐めてみる。
ハッキリはわからないが、恐らく栄養剤と吐き気止を混ぜたものだろう。初期の北部型細菌性栄養失調には効くが、こうも症状が進んでしまっているのではほとんど効果はない。吐き気止が少し楽にしてくれる程度か。
「でも、これしかないもんなぁ」
ジャスは小さく呟く。ここまで進行してしまっている病に効果的な薬はかなり高価だ。とてもじゃないが、彼女には買えないだろう。
「どう?」
「あー、えっと」
「やっぱり無理でしょ?お金が無いと」
「やっぱりって」
「わかってるの。もうここまで来ちゃったら、高価な薬に頼るしか無いって」
オーブは寂しそうに言う。
「わかってるのに。私は考えなしで行動しちゃうんだ。お前を使って大魔法使いを脅そうとしたことも。本当は病院が残ったって妹が助かるってわけでもないのに……」
オーブは声が震えていた。
「さっきだって、大魔法使いから治療薬を貰うの、拒否するべきじゃなかった。何言われても、土下座してでも貰うべきだったのに……。私はいつもいつも感情で行動しちゃうんだ」
オーブは泣いていた。ジャスは困ってしまい、何も言えなかった。
そんなジャスにオーブは泣き顔のまま縋り付いた。
「ねえ、何でもするからやっぱりあの薬貰えないかな……。何でもする……お金は無いけど……」
「ぼ、僕には何もわからないんだ、ごめん。アウルは僕の言う事を聞いてくれるわけでも無いし……」
ジャスは心底申し訳なさそうにオロオロと言う。オーブは首をふる。
「うん、いい大丈夫。無理言ってるのはこっちの方なのはわかってる。確かに、人の言うこと聞いてくれそうなタイプじゃないよね、大魔法使いだし」
オーブは少し落ち着いたようで、泣くのをやめて笑顔を作ってみせた。その笑顔はまだ引きつってはいたが。
「ごめん、変なところを見せた。物置で申し訳ないんだけどそこで寝てもらってもいい?ここだと、たまに妹が吐いたりするから」
「全然、本当どこでも!トイレでもどこでも!」
「トイレで寝られちゃかえって邪魔だよ」
オーブはケラケラ笑ってみせた。
そうして、ジャスはその日はオーブの家で眠った。確かに何度か妹が起きてオーブが世話しているような声が聞こえてきた。これが彼女の毎日なんだな、とジャスは思った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる