媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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大仕事⑧

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 次の日、クロウが起きるともうすでにアウルは身支度をしていた。

「わぁ、珍しいじゃん。そんなに俺にチューされたくなかった?」

「テメェのチューは関係ねぇ」

「それはよかった」

「ちょっと仕事の前に行くところがある。先に出るぜ」

 そう言ってサッサと部屋を出ていく。

「待って!俺もすぐ行くから」

 クロウは慌てて支度を始めた。


 ~~~

 一方ジャスは早くに起きて、オーブに向かって説明していた。

「もしこの薬がなくなったら、この薬草を煎じて飲ませて。あの御神木の近くにたくさん生えてたよ。薬無いよりましってレベルだけど一応吐き気止の成分のある薬草だから」

 ジャスの説明をオーブはメモを取りながら必死に聞いていた。

「一泊のお礼、僕にできるのはこれくらいだから」

「ありがとう。助かる」

 オーブがお礼を言ったその時だった。


 オーブの家のドアが勢いよく開いた。

「テメェ、こんなところにいやがったか」

 現れたのはアウルだ。無表情に部屋の中を見渡す。

「ちょっと、なんでここに……てか鍵かかってなかった?」

 驚くジャスを無視するようにアウルはズンズンと部屋の中に入っていく。

「全く、勝手にうろつきやがって、どこに行ってたか心配したんだぜー」

 アウルはジャスには近づき、気持ち悪い作り笑いを浮かべた。

「いや、お前が僕を置いていったんだろうが」

「ここに泊まってたんだな。全く、勝手なことしやがって」

 アウルはジャスの事をまるっきり無視して話を進める。そしてオーブに向かって不自然な笑顔を向けた。

「悪いなぁ、俺の連れが勝手な行動で迷惑かけたな」

「あ、いや。そんな事は。あの、昨日は…」

 オーブは昨日の事を謝ろうとして、頭を下げかけた。しかしアウルはオーブの事も無視して話を続ける。

「あー、アイツが勝手に此処に泊まったから、宿泊料払わねぇとだな」

「いや、あの、大丈夫それは」

「あー、でも持ち合わせに余裕がねぇ。困ったなぁ」

 全く困った顔をしていない。むしろ棒読みだ。

「金ねぇから、金目のもんでもいいか」

「あ、あの」

 アウルはカバンから小さな瓶を取り出した。昨日の治療魔法薬だった。オーブはそれを見て息を呑む。


「これを宿泊代にさせてもらう」

「……!これ…」

「宿泊代だ。施しじゃねぇからな。その薬は最高級品だ。一瓶飲めばどんな大病でも治る。つまり、単なる栄養失調症なら10分の1くらいの量で治るだろう。
くれぐれもその薬は単品で使えよ。魔法と一緒に使えばねじれが起きる……ってもこの貧乏村に魔法使いが来ることなんてもうねえだろうがな」

 そう言って瓶をテーブルに置いた。

「さあ、ジャス行くぞ。今日は忙しい。こんなところで油売ってる暇ねぇ」

「わ、わかった」

 ジャスは慌てて、オーブの家から出ていくアウルの後を追った。



「ま、まって!」

 外に出たアウルとジャスに、後からオーブが叫んだ。

「あの、ありがとう!」

 オーブは土下座する。

 アウルは険しい顔をしてオーブを乱暴に立たせる。

「やめろ、気持ち悪いことすんじゃねぇ。あれは宿泊代だっつってんだろ」

「でも、私の気が収まらない!」

「テメェの気なんてどうでもいい」

 アウルは立たせたオーブを、そっけなく付き離す。そして不自然に
「ああ、そうだ」
 と言い、オーブとは目も合わせないで話しだした。

「俺の知人なら、さっきの薬の使った後の余りで、村を乗っ取れる」

「は?」

 オーブは急に何の話かとポカンとする。

「独り言だ、黙って聞いてろ」

「あ、うん」

「知人なら、その薬を使ってなんやかんや、病人助けたり売って金にしたりして、自分の支持者を増やして、村の偉い立場になる事ができる」

「……なんやかんや?」

「まあ、別に偉い立場なんかなりたかねぇだろうけどな」

 それだけ言うと、またアウルはオーブに背を向けてサッサと行ってしまった。

 ジャスは慌ててその後を追った。



「村に不満なら、自分でなんとかしろってことね?その材料もくれたんだわ」

 アウルの小さくなる背を見つめながら、オーブは薬の瓶を抱きしめた。




「ちょっと、人の商売手口、暴露しないでくれる?」

 どこからともなく現れたクロウがアウルに苦情を言う。

「なんだ、聞いてたのか」

「知人って俺のことでしょ?十年前くらいにやった、町の偉い人総取替した仕事のやり方」

「どうせ表面的にやり方知ったって、実際簡単にできるもんじゃねえだろ」

「まあね。あの鉄砲玉みたいな彼女に、繊細な駆け引きができるとは思えないし」

 クロウは肩をすくめる。

「まあ、でも、人間の可能性は無限だからね。意外に何年かしたら、彼女が村長になってたりしてね」

「どうかね」

 アウルはもう興味を失っているようだ。

「それにしてもおせぇなぁアイツは」



「アウルが早いんだよ」

 ハアハアと息を切らしてジャスが追いついてきた。

「それにしても、お前いいやつだったんだな」

「は?」

「いや、さっきの薬の」

「そんなもん、テメェにバカにされたから俺の気が収まらなかったからな」

「意外に気にしてたんだ……」

 ジャスは少し拍子抜けした。クロウは二人の間に入って、パンパンと手を叩いて言った。

「ま、アウルの気も晴れた事だし、サッサと本題の仕事に向かうよ」






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