媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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魔法の無い三日間②

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 午前中にはもどる、とクロウは言ったはずなのに、午後になっても戻ってくる気配は無かった。


 まあ、どこかで知り合いにでも捕まったんだろうと初めは気にしていなかったアウルだが、夕方近くになってくるとさすがに気になって部屋中をウロウロしだした。


 電気も火も出せない家で、アウルは少し肌寒くなってきた。熱宝石と電気宝石を持ってきて暖を取り、明かりをつける。

「どこで油売ってやがる」

 アウルはイライラし始めた。


 ふと心によぎるのはさっきのパイソンの霧の人型の千切れる様子だ。

 ジャスは大丈夫だ。印の腕輪をつけた人間はどんな魔法使いでも手を出せない。その為にわざわざジャスにつけたのだから。

 ジャスの身は大丈夫だが……

『クロウなんかで試して見せようか』

 そう言っていたがあれは単なる嫌がらせ。実際にクロウに危害を加えたりなんかしない、はず。はずだ。

 アウルは自身に言い聞かせる。一方で不安に苛まれる。

 じゃあなぜこんなに遅い??何かあったのでは?

 しかし、クロウは何かあっても対応出来る力を持っている。パイソンに殺られているかもなんて心配する事自体がクロウをバカにしている事になる。

「ああ!クソ!面倒せぇこと考えたくねぇ!!早く帰ってこい!」

 アウルが思わず一人叫んだ時だった。



「ごっめーん!すっかりおそくなっちゃった!!」

 玄関から元気よくクロウが入ってきた。

「いやー、納品に時間かかっちゃった上に、話好きの魔女に捕まっちゃってさー……ってどうした?」

 クロウは戸惑って言葉を切った。

 帰ってきたクロウの腕をアウルは両手で掴んできたのだ。そして顔、首、体、と順番に存在を確かめるかのように触って、ようやく手を離した。

「……遅えよ!」

「ごめん、心配かけちゃったね」

「心配してねぇよ」

「俺がいない間に何かあった?」

「別に」

 アウルは短くそう言ったが、目ざといクロウには通じなかった。すぐに壊れた戸棚と、少し残っていた片付け損ねていたガラス片を見つけた。

「どうしたの?これ」

「あー」

「誰が来たね。もしかしてまた意地悪おじさんが来たんだね?」

「意地悪おじさんって……」

「来たんだね、パイソン」

 クロウの追求に、アウルは仕方なく頷いた。

 アウルはハーっとため息をついた。

「もー、しつこいんだねあのおじさん。アウルに嫉妬しすぎ。いっつも魔法使えなくなる度に嫌がらせしにくるんだから。アウルの魔力万全の時には全然来ないくせに」

「いや、俺が万全の時にも来てるんだがサッサと追い返してるだけだ」

「そうなの?さすがアウルー」

 クロウはナチュラルにアウルをおだてて見せる。そして、指を軽く動かして床に少し残っていたガラス片を片付け、戸棚を直した。

「いつも一人でよく対応できてるよね。仮にも元大魔法使い相手に」

 エライエライ、とアウルの頭を撫でる。アウルは迷惑そうな顔をするが、大人しく撫でられていた。


 アウルがあまり動揺していないのを確認してから、クロウは暖炉に火を起こして部屋に灯りをつけた。

 コーヒーを入れて二人は向かい合って座る。

「で、今回何されたの?」

「先に砂糖……」

「それは自分で入れて。で、何されたの?」

 有無を言わさぬクロウの口調に、アウルは大人しく砂糖を取りに行きながらポツリと答えた。

「何もされてねぇけど。ただ、パイソンにジャスの事を知られてた」

「ナルホド、ジャスくんになんかしちゃうぞーって脅された系か」

「……あー、でもジャスは大丈夫だからな」

「腕輪あるから?まあそうだろうけど。じゃあまだありそうだね」

「あの……テメェの事も……」

「俺の事?」

 クロウは顔をしかめた。


 アウルはポツリポツリとさっきの事を話す。話終わってクロウの顔を恐る恐る見ると、クロウは怖い顔になっていた。

「それは、無いんじゃないの?」

「悪い。別にテメェの実力を見くびってたわけじゃねえ。ただその……」

「違う!!」

 クロウは言い訳するアウルのおでこに強めのデコピンをする。

「痛ぇな!何だよ違うって」

「違うよ。違うじゃん!何で俺の心配優先してんの?」

「は?だから、ジャスには腕輪があるから……」

「違うんだって。そういう事じゃないよ」

 クロウはなだめるように、そして丁寧に説明するように言う。

「俺とジャスくんの危険度は、同じでしょ?ジャスくんには腕輪がある。俺は魔法が使える。それなら、アウルが一番に心配しなきゃ駄目なのは、これから花嫁になるジャスくんなんだよ」

「そんなもん……」

「そんなもんじゃないよ。これからアウルにとって花嫁が一番になるの。俺じゃないの。そうするべきなんだよ」

 クロウの言葉に、アウルが何か反論したかったがうまく言葉に出来なかった。

「まあ、元はと言えば俺が遅くなっちゃったのが悪いんだけどね」

 クロウは暗くなった雰囲気を変える様にパッと明るい口調にした。

「そりゃあこんなに遅くなっちゃったら誰でも何かあったかなーって心配しちゃうよね。ごめんごめん。ただですらアウル今すぐに不安になっちゃう時期なのに」

「うるせぇ」

 クロウが雰囲気を変えてくれたおかげで、アウルもまた調子を取り戻せた。

「大丈夫だよ。明日はずっと俺がいるし。明後日には魔力も戻るし」

「べつにテメェがいなくても大丈夫だったぞ。面倒せぇやつが来ただけだ」

「はいはい」

 クロウはそう微笑む。

 夜が更けていった。こうして今日も1日が終わる。



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