媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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買い物②

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 次の日の朝、ジャスが少し早めに起きて準備を終えて部屋を出ると、珍しくアウルが咲きに支度を終えてコーヒーを飲んでいた。

「おせぇ」

「ちゃんと起きれるんだ……」

「は?」

「いや。なんでもない」

 ジャスは無理やりコーヒーを流し込まれてから、アウルと一緒に家を出た。


「いつもは魔法で飛んでいくんだが、道を覚えさせる為だ。歩いて行く」

「近いんだ?」

「まぁ、人間の足なら少し遠いかもな。それよりも」

 アウルは少し立ち止まる。

「絶対、俺から離れるんじゃねぇぞ」

「ん?」

「勝手にどっか行ったり、ウロウロすんな」

「はぁ。前は置き去りにしたりしてたのに」

「前とは事情が変わってんだよ」

 訳がわからないが、とりあえず知らないし土地でウロウロしたくてするわけもないので、ジャスは素直に頷いた。

「あ、あと、妙に背の高い派手な魔法使いを見つけたらすぐに俺に知らせろ。絶対に近づくなよ」

「背の高い派手な魔法使い?」

「いいな」

 念を押すように強く言うと、アウルは先にサッサと行ってしまった。

 ジャスは慌てて追いかけた。



 二人は特に話をすることもなく歩いて行く。

「そういえば、前から思ってたんだけどさ」

 なんとなく、ジャスは口を開いた。

「何でアウルって、そんなに食事を取らせたがるの?」

「は?」

 アウルは一瞬ポカンとして立ち止まる。

「そんなもん、人間食わねぇと死ぬからだろ」

「いや、そりゃそうだけど。別に1日食べないだけですぐ死ぬわけじゃないのに。はじめの頃も、パン投げつけてきたり、そのパン食べないと無理やり詰め込んでくるし。この買い物だって食事を取らせるためだろ?」

 ジャスはずっと不思議に思っていた。確かに食事は大事だが、妙にアウルは食べさせる事に関しては心配症のようだ。

「食べねぇと弱るだろ。人間はすぐ死ぬから」

「いや、そこまで弱くないと思うけど」

「弱いだろ」

 アウルは目を合わせないままに言う。

「知ってんだよ。食べることが出来なくて死にそうになった奴」

 アウルの言葉に、ジャスはハッとする。

 アウルはもう既に200年近く生きているのだ。そういう経験があっても不思議ではない。

「そっか。なんか、ごめん」

「別に謝るもんでも無いだろ」

 アウルは事も無げに言うと、またサッサと先に歩いていった。ジャスも慌ててあとを追った。



 結構歩き、着いたのは活気に溢れた商店街だった。

 小さな田舎村で育ったジャスは、その人通りの多さに目を見張った。

「迷子になるんじゃねぇぞ」

「分かってる、けど」

 ボーッとしてたらすぐにアウルとはぐれそうだ。

 そんなジャスを気にかけることなく、速歩きでアウルは進んでいく。

「ちょっと、待ってよ」

 ジャスは慌てる。

「早く来い」

 アウルはイライラしたように、魔法でまたジャスの襟首を掴んで引きずる。

「ホントにそれやめろよ」

 文句を言いながらも、多少慣れてしまった感があってジャスはため息をつく。


 食料が売られている店につくと、アウルはジャスの意見など一切聞くことなく、多めに肉やら魚やらを購入する。

「大魔法使い様、お久しぶりでございます。こちらは生贄用ではなく、食事用の肉でございますがよろしいですか?」

 アウルの馴染みらしい店主が話しかけてきた。

「ああ、構わない。こいつの食料だ」

「ああ、お弟子さんを取られたんですか」

「いや、花嫁だ」

「アウル!!」

 思わずジャスは声を上げて否定しようとしたが、店主は一切動じることなく、

「それは結構でございますね」

 とだけ言って、買ったものを包むのに忙しそうにした。話に興味が無いのか、それともそういう話題を深追いしないプロ意識なのか、ジャスには判断がつかなかった。


 自分だけが食べるものだし、とジャスが払おうとしたが、あまりの金額の高さに思わず目を丸くした。

「高級店だぞ。テメェが払えるようなもんじゃねぇよ」

 アウルはそう言ってジャラジャラと金貨を店主に渡す。

「ありがとうございましたー」

 店主は深々とお辞儀をして二人を見送った。


「もう少しお手頃なお店はないの?」

 ジャスはさっきの値段にまだビビっていた。

「とてもじゃないけど、僕には買えないんだけど」

「買い物に行かせる時は、俺が金を渡すから問題無え。あと、一応魔法薬作る手伝いしてるから、報酬の分け前もテメェに渡すつもりだ」

「いやーそれでも」

「ゴチャゴチャうるせぇな。先に進むぞ」

 アウルはサッサと次の店に向かってあるき出した。


 その後、アウルはパンや野菜等を買った。荷物はジャスに持たせたが、今回はちゃんと軽量化の魔法をかけてくれた。

 それでも、人が多くて慣れないジャスは疲れてしまった。


「悪い。少し休憩させて」

 ジャスは近くにあった大きな切り株に腰をかけた。

「なんだ、もう疲れたのか」

「少し人酔い」

 少し顔色の悪いジャスの顔をじっと見ていたアウルは、自分の小さなカバンから小瓶を取り出すと、乱暴に渡した。

「疲労回復の水薬だ。かなり薄めてるからあんまり効かねえかもしれねぇが」

「あー、ありがとう」

 ジャスは素直に受け取る。するとアウルは一瞬戸惑ったような顔を浮かべた。

「な、何だよ」

「今日は随分と素直じゃねぇか。余計なお世話だって受け取らねぇと思ってたぜ」

「あー」

 正直、疲れて意地を張る余裕がなかっただけだった。

「いつもそうしてりゃあ可愛いもんだがな」

「別に可愛くなくていいんだけど」

「ふん、まぁそこで休んどけ。うろちょろすんじゃねぇぞ。俺はそこの鉱物店を覗いてくる」

 アウルはそう言って近くの店にむかった。


 ジャスは、買った荷物を置き、水薬を一口飲んだ。あまり効かないとは言っていたが、十分にジャスの疲れた身体に効果を発揮した。

「あー、生き返る……」

 そう呟いた時だった。


 ジャスの目の前に音もなく現れた者がいた。


 背の高い、派手なマントをつけた男だった。

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