38 / 114
恐ろしい衝動
しおりを挟む
※※※※
アウルがジャスにキスをした日から一週間程が経った。
アウルの部屋の掃除をしていたジャスは、一息着くと家の外に出た。目的地は、近くにある小さな泉だ。
きれいで冷たい水が湧き出ているそこが、今のジャスには必要だった。
泉に着くとしゃがみ込み、勢いよく顔を泉の水の中に顔を突っ込んだ。
「ぷはぁ!!」
冷たい水で頭が冷える。
「よっし!!大丈夫!」
ジャスは自分の頬を強く叩いて気合を入れた。
「大丈夫、気の迷いなんて起きない」
ジャスはそう自分に言い聞かせ、また来た道を戻っていった。
ジャスはあの日、アウルのキスを受けた日から、たまに恐ろしい衝動に駆られるようになった。
――また、キスがほしい。
そんな訳がない、と何度も自分に言い聞かせた。
普段生活している分には大丈夫なのだが、アウルが近くに来たり、アウルの部屋や持ち物など、匂いがついているものを嗅ぐと、衝動に駆られてしまうのだ。
「絶対に、迷いを起こしたらだめだ!」
何度も自分にそう言い聞かせる。
家に戻り、少し椅子に座って気持ちを落ち着かせる。
今日アウルは外出していたので、いつもより気が楽だ。
「そうだ、今のうちにちょっと探ってみようかな」
何かアウルの弱点になるものでもあればラッキーくらいの気持ちで、ジャスは立ち上がった。
いつも掃除している部屋は、もう知り尽くしてしまっているので、いつも入らない部屋を覗いてみよう。
ジャスは、「そこは掃除しなくていい」といつも言われている部屋を覗くことにした。
「うっわぁ……」
ジャスはあまりの汚さにドン引きした。
薬品や本などが無造作に置かれている。思ったよりホコリは被っていないので、普通に使われている部屋のはずだが。
「足のつき場もない。何がどこにあるかわかんないじゃん」
ジャスは呆れた。ここを探るのはドミノ倒しが発生しそうなので諦めることにした。
じゃあ次の部屋…、と思ったその時、玄関にアウルが戻ってきた音がした。
「ちぇ、戻ってくるの早すぎだ」
ジャスは舌打ちをした。
「おい、ジャス手伝え」
アウルが玄関から呼ぶ。
ジャスが玄関に向かうと、びしょ濡れのアウルが立っていた。
「な、どうした?」
「近くで依頼があって、嵐を起こす魔法を使ってきた」
「乾かせるでしょ、魔法で」
「あー、荷物だけ乾かした。これをテメェは片付けておけ。俺は湯浴みする」
アウルはそう言ってジャスに荷物を乱暴に渡した。
「ちょっと、そんな乱暴な」
ジャスは文句を言うがアウルは気にしない。サッサと濡れた服を脱いでしまった。
「……!!」
ジャスは慌てて息を止めてアウルから目をそらした。濡れた服を脱いだことで、アウルの匂いが湿った風に流されてくる。
――これはマズイ
ジャスは受け取った荷物もそこそこに、自分の部屋に逃げ込んだ。
「おい、荷物片付けておけっつったろうが」
アウルが怒鳴りながら部屋に入ってくる。ジャスは布団を被ったまま返事をした。
「ごめん、ちょっと体調が悪くなって」
「ああ、そうか。どこが悪い」
アウルが布団を剥ぎ取ろうとするのを、ジャスは慌ててとめる。
「いや、ちょっと目眩がしただけ。休んでれば大丈夫」
布団越しに、アウルが湯浴みの時に使うハーブの匂いが漂う。その匂いだけで反射的に何かを求めたくなる欲求が湧き上がる。
「悪い。少し出ていってもらってもいいかな」
「わかった。後でまた来る」
アウルが素直に引き下がったので、ジャスはホッとした。
暫くすると、アウルがまた部屋に入ってきた。
「なっ、少し出ていってって……」
「飲め」
慌てるジャスを無視して、アウルは湯気の出ているミルクのようなものをジャスの口に無理やり流し込む。
「アッツ!!何だ、熱いって!!」
ジャスは文句を言い、咳き込みながら全部飲み干した。
「何なんだよ急に……」
「俺がいつも飲んでいるコーヒーと同じ、魔法で完全栄養食にしたミルクだ。飲んだらすぐに寝ちまえ。明日には治れ」
それだけ言うと、アウルはサッサと部屋から出ていってしまった。
「優しさが、粗すぎる……」
残されたジャスはポカンとしながら、口の周りのミルクを拭った。
その日はお言葉に甘えて早めに寝ることにした。
寝てしまえば変な欲情もわすれられる。
ジャスは静かに目を瞑った。
アウルがジャスにキスをした日から一週間程が経った。
アウルの部屋の掃除をしていたジャスは、一息着くと家の外に出た。目的地は、近くにある小さな泉だ。
きれいで冷たい水が湧き出ているそこが、今のジャスには必要だった。
泉に着くとしゃがみ込み、勢いよく顔を泉の水の中に顔を突っ込んだ。
「ぷはぁ!!」
冷たい水で頭が冷える。
「よっし!!大丈夫!」
ジャスは自分の頬を強く叩いて気合を入れた。
「大丈夫、気の迷いなんて起きない」
ジャスはそう自分に言い聞かせ、また来た道を戻っていった。
ジャスはあの日、アウルのキスを受けた日から、たまに恐ろしい衝動に駆られるようになった。
――また、キスがほしい。
そんな訳がない、と何度も自分に言い聞かせた。
普段生活している分には大丈夫なのだが、アウルが近くに来たり、アウルの部屋や持ち物など、匂いがついているものを嗅ぐと、衝動に駆られてしまうのだ。
「絶対に、迷いを起こしたらだめだ!」
何度も自分にそう言い聞かせる。
家に戻り、少し椅子に座って気持ちを落ち着かせる。
今日アウルは外出していたので、いつもより気が楽だ。
「そうだ、今のうちにちょっと探ってみようかな」
何かアウルの弱点になるものでもあればラッキーくらいの気持ちで、ジャスは立ち上がった。
いつも掃除している部屋は、もう知り尽くしてしまっているので、いつも入らない部屋を覗いてみよう。
ジャスは、「そこは掃除しなくていい」といつも言われている部屋を覗くことにした。
「うっわぁ……」
ジャスはあまりの汚さにドン引きした。
薬品や本などが無造作に置かれている。思ったよりホコリは被っていないので、普通に使われている部屋のはずだが。
「足のつき場もない。何がどこにあるかわかんないじゃん」
ジャスは呆れた。ここを探るのはドミノ倒しが発生しそうなので諦めることにした。
じゃあ次の部屋…、と思ったその時、玄関にアウルが戻ってきた音がした。
「ちぇ、戻ってくるの早すぎだ」
ジャスは舌打ちをした。
「おい、ジャス手伝え」
アウルが玄関から呼ぶ。
ジャスが玄関に向かうと、びしょ濡れのアウルが立っていた。
「な、どうした?」
「近くで依頼があって、嵐を起こす魔法を使ってきた」
「乾かせるでしょ、魔法で」
「あー、荷物だけ乾かした。これをテメェは片付けておけ。俺は湯浴みする」
アウルはそう言ってジャスに荷物を乱暴に渡した。
「ちょっと、そんな乱暴な」
ジャスは文句を言うがアウルは気にしない。サッサと濡れた服を脱いでしまった。
「……!!」
ジャスは慌てて息を止めてアウルから目をそらした。濡れた服を脱いだことで、アウルの匂いが湿った風に流されてくる。
――これはマズイ
ジャスは受け取った荷物もそこそこに、自分の部屋に逃げ込んだ。
「おい、荷物片付けておけっつったろうが」
アウルが怒鳴りながら部屋に入ってくる。ジャスは布団を被ったまま返事をした。
「ごめん、ちょっと体調が悪くなって」
「ああ、そうか。どこが悪い」
アウルが布団を剥ぎ取ろうとするのを、ジャスは慌ててとめる。
「いや、ちょっと目眩がしただけ。休んでれば大丈夫」
布団越しに、アウルが湯浴みの時に使うハーブの匂いが漂う。その匂いだけで反射的に何かを求めたくなる欲求が湧き上がる。
「悪い。少し出ていってもらってもいいかな」
「わかった。後でまた来る」
アウルが素直に引き下がったので、ジャスはホッとした。
暫くすると、アウルがまた部屋に入ってきた。
「なっ、少し出ていってって……」
「飲め」
慌てるジャスを無視して、アウルは湯気の出ているミルクのようなものをジャスの口に無理やり流し込む。
「アッツ!!何だ、熱いって!!」
ジャスは文句を言い、咳き込みながら全部飲み干した。
「何なんだよ急に……」
「俺がいつも飲んでいるコーヒーと同じ、魔法で完全栄養食にしたミルクだ。飲んだらすぐに寝ちまえ。明日には治れ」
それだけ言うと、アウルはサッサと部屋から出ていってしまった。
「優しさが、粗すぎる……」
残されたジャスはポカンとしながら、口の周りのミルクを拭った。
その日はお言葉に甘えて早めに寝ることにした。
寝てしまえば変な欲情もわすれられる。
ジャスは静かに目を瞑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる