媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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恐ろしい衝動

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※※※※

 アウルがジャスにキスをした日から一週間程が経った。


 アウルの部屋の掃除をしていたジャスは、一息着くと家の外に出た。目的地は、近くにある小さな泉だ。

 きれいで冷たい水が湧き出ているそこが、今のジャスには必要だった。


 泉に着くとしゃがみ込み、勢いよく顔を泉の水の中に顔を突っ込んだ。

「ぷはぁ!!」

 冷たい水で頭が冷える。

「よっし!!大丈夫!」

 ジャスは自分の頬を強く叩いて気合を入れた。

「大丈夫、気の迷いなんて起きない」

 ジャスはそう自分に言い聞かせ、また来た道を戻っていった。



 ジャスはあの日、アウルのキスを受けた日から、たまに恐ろしい衝動に駆られるようになった。

 ――また、キスがほしい。

 そんな訳がない、と何度も自分に言い聞かせた。

 普段生活している分には大丈夫なのだが、アウルが近くに来たり、アウルの部屋や持ち物など、匂いがついているものを嗅ぐと、衝動に駆られてしまうのだ。


「絶対に、迷いを起こしたらだめだ!」

 何度も自分にそう言い聞かせる。


 家に戻り、少し椅子に座って気持ちを落ち着かせる。

 今日アウルは外出していたので、いつもより気が楽だ。

「そうだ、今のうちにちょっと探ってみようかな」

 何かアウルの弱点になるものでもあればラッキーくらいの気持ちで、ジャスは立ち上がった。



 いつも掃除している部屋は、もう知り尽くしてしまっているので、いつも入らない部屋を覗いてみよう。

 ジャスは、「そこは掃除しなくていい」といつも言われている部屋を覗くことにした。

「うっわぁ……」

 ジャスはあまりの汚さにドン引きした。

 薬品や本などが無造作に置かれている。思ったよりホコリは被っていないので、普通に使われている部屋のはずだが。

「足のつき場もない。何がどこにあるかわかんないじゃん」

 ジャスは呆れた。ここを探るのはドミノ倒しが発生しそうなので諦めることにした。


 じゃあ次の部屋…、と思ったその時、玄関にアウルが戻ってきた音がした。

「ちぇ、戻ってくるの早すぎだ」

 ジャスは舌打ちをした。


「おい、ジャス手伝え」

 アウルが玄関から呼ぶ。

 ジャスが玄関に向かうと、びしょ濡れのアウルが立っていた。

「な、どうした?」

「近くで依頼があって、嵐を起こす魔法を使ってきた」

「乾かせるでしょ、魔法で」

「あー、荷物だけ乾かした。これをテメェは片付けておけ。俺は湯浴みする」

 アウルはそう言ってジャスに荷物を乱暴に渡した。

「ちょっと、そんな乱暴な」

 ジャスは文句を言うがアウルは気にしない。サッサと濡れた服を脱いでしまった。

「……!!」

 ジャスは慌てて息を止めてアウルから目をそらした。濡れた服を脱いだことで、アウルの匂いが湿った風に流されてくる。

 ――これはマズイ

 ジャスは受け取った荷物もそこそこに、自分の部屋に逃げ込んだ。



「おい、荷物片付けておけっつったろうが」

 アウルが怒鳴りながら部屋に入ってくる。ジャスは布団を被ったまま返事をした。

「ごめん、ちょっと体調が悪くなって」

「ああ、そうか。どこが悪い」

 アウルが布団を剥ぎ取ろうとするのを、ジャスは慌ててとめる。

「いや、ちょっと目眩がしただけ。休んでれば大丈夫」

 布団越しに、アウルが湯浴みの時に使うハーブの匂いが漂う。その匂いだけで反射的に何かを求めたくなる欲求が湧き上がる。

「悪い。少し出ていってもらってもいいかな」

「わかった。後でまた来る」

 アウルが素直に引き下がったので、ジャスはホッとした。


 暫くすると、アウルがまた部屋に入ってきた。

「なっ、少し出ていってって……」

「飲め」

 慌てるジャスを無視して、アウルは湯気の出ているミルクのようなものをジャスの口に無理やり流し込む。

「アッツ!!何だ、熱いって!!」

 ジャスは文句を言い、咳き込みながら全部飲み干した。

「何なんだよ急に……」

「俺がいつも飲んでいるコーヒーと同じ、魔法で完全栄養食にしたミルクだ。飲んだらすぐに寝ちまえ。明日には治れ」

 それだけ言うと、アウルはサッサと部屋から出ていってしまった。

「優しさが、粗すぎる……」

 残されたジャスはポカンとしながら、口の周りのミルクを拭った。

 その日はお言葉に甘えて早めに寝ることにした。

 寝てしまえば変な欲情もわすれられる。

 ジャスは静かに目を瞑った。

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