媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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気遣い

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「ドロップ!」

 突然部屋のドアが開いた。

 ドロップと同い年くらいの男性が飛び込んできた。

「ああ!ドロップ!どうして」

 ジャスが戸惑っていると、少し遅れて部屋に入ってきたアウルが声をかけてきた。

「ドロップの旦那だ」

「旦那さん…思ったより早く着いたね」

 ジャスはドロップの旦那の顔を見る。

 顔を真っ赤にして、息を切らしていた。相当急いできたようだ。

 旦那はやせ細ったドロップの顔を見ると、泣きそうな顔を見せた。

「泣かないで……」

 ドロップはそっと旦那の頬を痩せた手で包み込む。

「間に合ってくれた。最後に会えて、よかった」

「最後だなんて」

 旦那は青い顔で呟く。

 ドロップの父親は、旦那にドロップが死んだと伝えたと言っていた。しかし今旦那はこの状況をどうみているのだろうか。ドロップが一度死んで生き返ったということを知っているのだろうか。ジャスは胸が締め付けられた。

「水でも、飲ませてやれ」

 急に、アウルは旦那に水差しを押し付ける。

 旦那は突然のことにポカンとしたが、すぐに頷いて水差しを受け取った。

 ジャスは胸騒ぎがした。

 アウルが気遣いをしている……。

 嫌な予感がした。

 ジャスは旦那から水差しを急いで取り上げた。

「ごめんなさい、さっき、この水に虫が浮いていて。新しいの入れ直してきます。旦那様は彼女の側にいててください」

 ジャスに言われて、旦那は黙って頷いてドロップに向き合った。

「おい、ジャステメェ……」

 何か言おうとしたアウルの腕を強引に引っ張って、ジャスは部屋から一緒に出ていった。



 外に出ると、ジャスは水差しの水を勢いよく捨てた。

 アウルはジャスを睨みつけた。

「おい、それは」

「何か、水に入れた?」

 ジャスはアウルに睨み返す。

「もしかして、治療魔法薬を水に入れた?」

 ジャスの問に、アウルは何も言わなかった。図星のようだ。

『何するかわからねぇ』とここに来る前アウルは言っていた。ジャスは、それは父親に対してだと思っていたがそうでなかったようだ。ドロップに対してだったか。

「さっき自分で言ってただろ。運命がネジ曲がるって。ドロップの身近な人が死ぬかもしれないって!彼女はそれを望んでないこともわかってるだろ」

「あくまでも『可能性が高い』だけだ。それに旦那じゃなくてあの父親が死ぬだけかもしれない」

 アウルは悪びれもなく言う。

 ジャスは悲しそうに首を振った。

「父親でも飲まないって彼女本人が言ってたじゃないか。それにもし旦那さんが死んだら?自分のせいで旦那さんが死んだなんて知ったら、彼女はどうなるのかわかるでしょ?」

「……俺には身近に親しい家族もいねぇからわからねぇ。ドロップを助けてぇだけだ。おかしいことねぇだろう」

 アウルの目は冷たかった。

「おかしくはない、けど!」

 ジャスは一生懸命考えた。

 どうしたらわかってくれる?どうしたら分かり合える?

「……ねえアウル、親しい家族がいないかもしれないけど、クロウの事を考えてみなよ。クロウがもし自分のせいで傷ついたら嫌だって思ったことはない?」

 ジャスは言った。

 アウルは少し目をそらした。

 何を考えているのかは、ジャスには分からなかった。

「………………わかった。薬は飲ませねぇ」

 しばらく黙ったあとに、アウルはポツリとそう告げた。

 ジャスはホッとして、水差しを丁寧に洗って新しい水を汲み、また部屋に戻った。

 その後は最後の時間をふたりきりにしてあげよう、と思い、すぐに部屋を出た。




 次の日、ドロップは二度目の死を迎えた。

 結局、ドロップの父親はどこへ行ってしまったのか戻っては来なかった。


「ありがとうございました」

 ドロップの旦那は、アウルに丁寧に頭を下げた。

「ドロップから聞きました。私が死に際に間に合うように延命してくださったのだと」

 違う。生き返らせたのだ。ドロップに二度も死を味あわせたのだ。

 しかしアウルもジャスも何も言わなかった。

「アイツは幸せだったか」

 アウルは旦那に問いかけた。

 旦那は少し困った顔をして言った。

「どうですかね。ただ、私はドロップと一緒に過ごせて、幸せでした」

 そうか、とアウルは小さく頷いた。

 そして、ジャスにしか聞こえないような小さな声で呟いた。

「今回は、疲れたかもしれねぇ」

 多分、精神的に相当きたんだろうな、と顔色の悪いアウルを見て、ジャスはおもった。

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