媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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呼笛⑤

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 部屋に残されたジャスは、ドロップの枕元に座った。

「あなた、は、アウル様の……お弟子さん?」

 ドロップは声をかける。ジャスは慌てて言った。

「無理に喋らなくても大丈夫ですよ。苦しく無いですか」

「あと少しの命なら、お喋り、付き合ってちょうだい」

 ドロップは弱々しく笑う。


「みっともないとこ、ゴホッ、を見せたわね……」

「いえ…」

「あなた、怒ってくれたわね」

「いえ…」

 ジャスは下を向く。ドロップの為に怒ったというか、ただ弱ったドロップが見ていられなかっただけだった。

「旦那さんが、今こちらに向かっているそうです。間に合うといいですが」

「そう……。あの人にも苦労かけたわ……」

 そう言いながらも、ドロップの顔は優しかった。

「優しい人だった。私の為に遠くまで働きに出たり、ゴホッ、薬を買い付けに行ったり、もう苦労しなくていいんだわ」

 ジャスは、気の利いたことが何も言えずに黙っていた。


「あなたは、アウル様と、一緒に暮らしているの?」

 ドロップが話を変えてくる。

 ジャスは黙って頷く。

「あの人、変な人よね」

 ドロップは笑う。

「優しいんだか、酷いんだが」

「そう、ですね」

 ジャスも笑って見せる。

「ドロップさんは、アウルに花嫁にされそうになったんですよね」

「ええ。嫌な思い出だわ」

 そう言いながらも、ドロップはとても穏やかな表情を浮かべていた。まるでいい思い出を思い出すかのようだった。

「父親は、私を花嫁にしたがったみたいだけどね。私は魔法使いの花嫁になって何百年も生きるなんてまっぴらだったから。アウル様が嫌とか嫌じゃないとか、そんな次元でも無かった」

「嫌じゃ無かった?」

 信じられない、と言うふうにジャスは聞き返す。

 そんなジャスに、ドロップは笑った。

「ごふふ、あなたはアウル様が嫌いなの?」

「まあ……色々ありまして」

 ジャスは正直に言う。ドロップは楽しそうに笑った。

 笑った事で、またドロップはゼイゼイと苦しそうに咳をする。

「無理しないで下さい。水飲みましょう」

 ジャスは慌てて近くの水差しから水を汲んで、ゆっくりと唇を濡らすように、少しずつ飲ませた。

「ありがとう。上手ね、病人のお世話」

「家が薬売りなんです。薬の飲ませ方も指導してるので」

 そう言いながらジャスはなんどもドロップの唇を水で濡らす。

「アウル様は、とても看病が下手だったわ」

 思い出すようにポソっとドロップは呟いた。

 まあ、そうだろうな。とジャスは頷いてみせた。

「冷めていない飲み物を飲ませようとしたり、薬の飲ませ方も下手くそでねぇ、ゴホッ、挙句の果てに、食べ物を食べれないと人間は死ぬって事も知らなかったみたいでね」

 ドロップの言葉に、ジャスは一瞬手が止まった。

「人間は食べないと死ぬって知らなかった?」

「ええ。魔法使いって、食べなくても、ちょっと力が出なかったり魔法の調子が悪くなるくらいで死なないんですって。人間もそうだと思ってたらしいわ」

「……へえ」

 ジャスは思わず少し笑ってしまう。

「今は、バカみたいに食べさせようとしてきますよ。食べないと死ぬぞって」

「あら、ふふ。ちゃんと学んだのね」

 ドロップも笑った。

「あなたから学んだんですね」

 ジャスは静かにドロップに言った。

 ドロップは静かに目を閉じて、「どうかしら」とだけ言った。


 またドロップは激しく咳き込んだ。ジャスは水を与えるのを再開した。

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