媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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呼笛④

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 強い光が消えた。

「ドロップ?」

 父親が静かにドロップに近づく。

「なぁ…に」

 掠れた、弱々しい声が聞こえた。

 そしてゼホゼホと咳をする。

「あら、……あなた誰だっけ……あー、昔、大魔法使い、アウル……」

「ドロップ、今俺はお前を生き返らせた」

 アウルはそれだけ言った。

 そしてその場を立ち去ろうとした。

「待って……ゲホッ、何故生き返らせたの……?あなたに払えるようなお金も…無い…ゲホッ、はずなのに」

「私が頼んだんだ」

 父親がドロップの側にしゃがみこんで言った。

「お前の持っていた、アウル様との契約書を使って」

「ああ……あれ……」

 ドロップが何を考えているのかわからなかったが、ボーッとしていた。


「ドロップ、ところですぐに聞きたい事があるんだ。昔、アウル様から貰った財宝があるだろう?それの在処を教えてほしいんだ」

「そんな!!こんな状態の彼女に、よくそんな」

 ジャスは、また父親に食ってかかろうとするが、すぐにアウルに引っ張られた。

「ざい、ほう?」

 ドロップは静かに父親の方をみる。

 父親は必死の顔でいった。

「ああ、以前に御前が旦那に言っていただろう。金に困ったときには、アウル様から貰ったものを売れば、村一つ買えるくらいのお金になると」

「ああ……あれ」

 ドロップは死んだような目をして父親を見た。

「そのために私を生き返らせたの……。ふふふ、あは、あはははははははははははは」

 弱々しい声で、ドロップは長く長く笑いだした。

「馬鹿ね。あなたはいつもそうなんだわ。ゴホッゴホッ」

「ド、ドロップ……?」

「村一つ買えるくらいの財宝、あなたが、ハァ、使ってしまったじゃない」

 ドロップはニヤリと笑った。

 父親は、何も察せずにオロオロしている。


 アウルとジャスは気づいた。

 何が、村一つ買えるくらいの財宝なのかを。


「いつでも希望すれば一度だけ、蘇りの魔法を使う、という契約書と、アウル様を呼び出す呼笛よ。
 アウル様の蘇りの魔法は、依頼するのに大金が必要になる上になかなか依頼するのも難しい。だから、その契約書は、売れば恐ろしい程の値段になるのよ」

 ドロップの言葉に、父親は真っ青な顔になった。何も声が出ないようだ。

「私なんかに使って、馬鹿ね……」

 追い打ちをかけるようにドロップが言うと、父親は声にならない叫び声を上げて、部屋を出ていってしまった。


「ドロップ、テメェあれを売るつもりだったのか」

 アウルはドロップの枕元に立って言った。

「あれは、テメェだけの為に渡したものだ」

 少し、悲しそうな声だった。

 それに気づいているのか気づかないのか、ドロップは小さく笑った。

「使う、つもりは、一切無かったから。売るつもり、も、無かったけど、とりあえず財産と、して持っておくつもり、だったのよ」

「そうか」

 アウルは短く答えると、カバンから小さな瓶を取り出した。

「俺はテメェを生き返らせた。でも病気はそのままだ。このままだとすぐにまたテメェは死ぬ」

「わかるわ、なんとなくね」

「ここに、治療魔法薬がある。これをお前に飲ませれば、その病は治る」

 そんな方法があるのか!とジャスはホッとした。しかし、アウルの様子がおかしい。何かを躊躇っているかのようだ。

「ただ、これは魔法のねじれを引き起こす。だから俺はこの方法を使わないと自分に誓っている。だが、今回は……。
 ……俺の蘇りの魔法…実は時間を戻している魔法だが……、それとこの最高級の治療魔法薬は相性が悪くてな。あー、うまく説明が出来ねぇが……つまり、運命がネジ曲がる」

「うん、めい」

「代わりにテメェの近くの誰かが死ぬ可能性が高い。あの父親ならよかったんだが……。お前に旦那がいるなら……」

 言いづらそうに話すアウルを見ながらジャスは、前にオーブの妹の為に治療魔法薬を渡した際にもそんなことを言っていたのを思い出した。強い魔法と一緒に使うな、とか何とか。あれはこういう意味だったのか。

「そうか、それじゃあその薬は…ゴホッゴホッ、飲むわけにはいかないわね」

 ドロップは静かに目を閉じた。

「勘違い、しないでね。死ぬのが、あの馬鹿父親でも、飲まなかったわ」

 それだけ言うと、ふう、と1つため息をついた。

「俺は、少し外に出てくる。ジャス、テメェはドロップの様子を見ていろ」

 それだけ言うと、アウルは部屋を出ていった。


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