媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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呼笛③

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 準備が終わった。



「汽車で行くの?」

 ジャスが尋ねると、アウルは呆れたような声を出した。

「んな悠長なことしてられるかよ。魔法で行くわ」

 そう言ってアウルはジャスの肩を抱いた。

「な、何すんだよ」

「しっかりつかまってろ」

「なっ!」


 ジャスが何か言う前に、ふと気づくと見知らぬ土地にいた。

「これが、魔法か……」

 汽車なんか使う必要全く無いんだな。とジャスは思った。


 ぼんやりと辺りを見渡す。

 以前訪れた御神木の村よりは栄えているような町だ。

「おい、早く来い」

 アウルに言われて、ジャスは荷物を持ってついていった。



 一軒の家の前に着くと、アウルはノックもせずに乱暴に中に入った。

 ジャスは慌てて後を追う。

 中には、一人の小柄な男性がいた。

 この人がドロップの父親か、とジャスは思った。

「お待ちしておりました!」

「いいから、早くドロップの様子を見せろ」

 イライラを隠さずにアウルは言う。

 アウルに言われて父親は、二人を奥の部屋に案内した。


 部屋の中には、眠っているかのような女の人が横たわっていた。

 やせ細って、病死というのが一目瞭然でわかる。

 そしてほんのり……

 ――マリカに、少し似ている。

 ジャスはそう思った。そう思った瞬間、彼女に変な同情心が湧いてきた。

「本当に、やるの?」

 ジャスは、思わずアウルに聞いた。アウルは眉をしかめて答えた。

「仕方ねぇだろ」

「本当に、やせ細ってる。生き返らせても、病気のままだから、またすぐに死んじゃうんでしょ」

「……ああ」

「そんな、何のために……」

「欲望の為だ」

 アウルは吐き捨てるように言った。

 アウルは同情心に苛まれているジャスの事を無視して、ドロップの側に立ち、カバンから水晶を取り出すと、何やらブツブツ言う。

 そしてジャスに呟くように伝えた。

「ドロップの体の時間を、1日戻す」

「1日だと、生き返らせても病気のまま?」

「ああ。病気前まで戻すとなると、2年以上時間を戻す必要が出てくる」

「ちなみに、1日戻すと、どれくらい魔法が使えなくなるの?」

「だいたい、一週間だな」

「そんなに?」

 ジャスは驚いた。以前御神木を生き返らせたときは、何日戻したのかはわからない。しかし数日は戻しているはずた。それで3日魔法が使えなかった。

 今回はたった1日なのに一週間も魔法が使えなくなるとは……。

「人間の時間を戻すのって、本当に大変なんだ……」

 それでは、病気前までなんて、戻す気にならないのはわかる気がする。

 そんな事を考えていると、部屋のドアからヒョコッとドロップの父親が顔を出した。

「あのー、どうですか?ちゃんと生き返ります?」

 まるで玩具でも直してもらうかのような気軽な口調に、ジャスはモヤモヤするものを感じた。

 アウルは父親の顔も見ずに冷たく言った。

「すぐにでもやるから、あっちにいってろ」

「わかった。出来るだけ早めにお願いするよ。もうすぐドロップの旦那が帰って来てしまうんだ」

 父親の言葉に、アウルはポカンと聞き返した。

「旦那?」

「ええ、長期出張で別の都市にいるんだ。ドロップが死んだのを聞いて、すぐにでも帰ると連絡があって。
 ただ、多分旦那はドロップを生き返らせるのには反対するだろうと思って」

「まあ、二度死なすことになるからな。まともな神経なら反対するだろ」

 アウルは冷たく言う。

「ええ、だから旦那が帰ってくる前に、生き返らせて、財宝の在処を聞き出して、まぁ、また元通り……」

「どういうこと?」

 ジャスは父親の言葉に反応した。

「財宝?財宝の在処を聞き出すために生き返らせるの?そして、また元通りって……二度死ぬことを何とも思っていないのかよ!!」

 ジャスは父親に食って掛かる。

「命を何だと思ってるんだよ!」

「ジャス、やめろ」

 アウルはジャスを、父親から引き離す。

「こいつには何を言っても無駄だ。そういうやつだ」

「でも……」

 ジャスは歯ぎしりをする。

 アウルは父親に向かって言った。

「悪いな。すぐにやる。ドロップの旦那が帰ってくるのはいつ頃だ」

「今日の夕方までには」

「わかった」

 アウルは短く言うと、カバンから液体の入った大きな瓶を取り出し、ドロップの寝ている周りに振りまいていく。

「あぶねぇから離れてろ」

 そういうと、両手をドロップの肩に置いた。



 強い光がアウルとドロップを包み込む。

「ドロップ、目を開けろ」

 アウルの小さな声が光の中から聞こえた。

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