48 / 114
本気で拒む
しおりを挟む
汽車が駅に着いた。でもアウル専用駅ではないので、家まではまだまだ遠い。
「歩ける?」
ジャスがたずねると、アウルは
「少し休む」とだけ言って、駅のベンチに横になった。
ジャスは少し駅を出て様子を見る。見たことの無い駅だ。
アウルの道案内無しに家に帰れないだろう。ただ、本人がどうしてもつらそうだ。
「クロウなら、すぐに家に家に連れていけるんだろうけど」
ジャスは自分の無力さに歯痒くなった。
その時だった。
スッと小さな竜巻が起こり、目の前に大きな人影が現れた。
「やあ久しぶり」
「えっと……」
ジャスは目の前に現れた男をみて思い出す。
「パイソン、でしたっけ」
「覚えてて頂いて何より」
パイソンはニコニコとジャスに近づいた。
「大変そうですね。大魔法使いが風邪を引くなんて、情けない。これくらいの体調、何とかできるでしょうに」
「あー、まあ色々ストレスかかっちゃったんじゃないですかね。まあ」
ジャスは少し警戒して言葉を選ぶ。そんなジャスに、パイソンはニヤニヤ笑いながら言った。
「ああ、大丈夫。私は知っていますよ。彼が今魔法が使えない状況なのをね」
「ああ、それは」
ジャスは少し考えてからパイソンに頼むように言った。
「突然こんなことお願いするのもなんですが、魔法とかでアウルを家まで送ってくれませんか……?」
「ふぅむ、出来ないこともないですがね」
パイソンはニヤリと笑う。
やっぱり魔法使いに何かを頼むのは大金が必要なのかとジャスは警戒した。
「報酬は別にいらないですよ」
パイソンはジャスの考えを見透かしたように言う。
「えーっと……では」
「ただねぇ、私は君に魔法をかけることはできないんですよ」
パイソンはそう言ってジャスの左手首についた銀の腕輪にそっと触れた。
「この腕輪はね、君への危害をすべて弾き飛ばすのです。君に魔法をかけると、魔法自体を危害と認識して弾き飛ばします。つまり、君には魔法がききません。まあ腕輪を付けた本人であるアウルの魔法なら効くのですが」
「へぇ、そうだったのか」
アウルも、ちゃんと教えてくれればいいのに、とジャスは思った。
「だから、アウルを家まで魔法で飛ばせても、君を飛ばしてあげれないんですよ。そうすると、君は知らない土地に一人ぼっちになりますよね」
パイソンは、さも残念そうに言ったあと、ニヤリと笑った。
「でもね、その腕輪を外す方法がありますよ」
「なんですか?」
ジャスはたずねる。
「君がアウルを本気で拒めばいいのですよ」
「は?」
ジャスは思わず聞き返した。いつもアウルを本気で拒んでいたつもりだったが。
「例えば、アウルを傷つけておいで。その腕輪に少し血でも付けば、私が解呪してあげることができますよ。今なら弱っているので絶好のチャンスです!」
パイソンはニヤリと笑ったままジャスの肩を強く掴む。
「さあ、ナイフでも必要ですか?」
「いりません。やりません」
ジャスは真っ青な顔で言った。
パイソンは心底理解できないという顔になった。
「なぜ?君はアウルが嫌いでしょう?」
「……アウルだけでいいです。魔法で家に戻して布団に突っ込んでおいてください」
ジャスはパイソンの目を見ずに言った。
「家に帰ればアイツは何とか自分でなんとかできるでしょう。僕は、まあ、なんとかします」
ジャスの言葉に、パイソンはため息をついた。
「弱っているアウルを傷つけたくないとでも?優しすぎますねぇ」
そう言いながらも、パイソンは、アウルが寝ているはずの駅に向かって指を軽く動かした。
「はい、これでアウルは家に帰りましたよ」
「ありがとう」
ジャスはホッとした顔でお礼を言った。
パイソンはジャスに近づき、優しい声で言った。
「さぁて、君はどうします?」
「どうしましょうかね」
ジャスは苦笑いをしてみせた。確かに、ここから帰る道が全く分からない。
「後悔してるんじゃないですか?アウルを傷つけなかったこと」
パイソンはそっとジャスの顎を軽く掴んで顔を自分の方に上げさせた。
ジャスは少し笑ってみせた。
「まあ、少しだけ。でもどうしたって無理ですから。弱った人を傷つけるのは」
「嫌いな大魔法使いでもか?」
「嫌いだからって傷はつけないよ」
ジャスは笑ってパイソンから距離をとって、背を向けた。
パイソンはニヤリ顔を辞めて無表情で苦々しげに小さな声で言った。
「焦っては逆効果かな」
「……え?」
「なんでもありませんよ」
パイソンはすぐ笑顔に顔を戻した。
「えっと、これからどっち側行けばいいですかね?」
ジャスはパイソンに困ったようにたずねる。
パイソンはニッコリ微笑んで言った。
「さっきは意地悪を言いました。君もちゃんと帰す方法がありますよ」
パイソンがパチンと指を鳴らすと、どこからともなく大きな蛇が現れた。
「私の使い魔です。この子に乗って行けばいいですよ。君自身に魔法をかけるわけではないのでこれなら大丈夫」
「わあ!何から何まですみません」
ジャスは丁寧に頭を下げた。
「その代わり、これを君に受け取ってもらいたい」
パイソンはそっとジャスに何かを握らせた。
「えっと…これは」
「呼笛。これを吹けば必ず私が君の元へ行こう」
「これを、受け取るだけでいいんですか?」
「そうですよ」
パイソンは満面の笑みを浮かべる。
「別に使わなくてもいい。持っていてくれるだけでいい」
「はあ、そんなことでいいんですか」
ジャスは首を傾げた。まあよくわからないが、これを受け取るだけなら特に問題あるまい。
ジャスは呼笛をポケットに入れた。
そしてパイソンに促されて冷たい大きな蛇に乗った。蛇は信じられないスピードで動き出し、あっという間に姿を消した。
蛇に乗ったジャスの姿が見えなくなったのを確認すると、パイソンは大きな声で笑いだした。
「アウルがあの呼笛を見つけたとき、どんな反応をするか楽しみだ!」
「歩ける?」
ジャスがたずねると、アウルは
「少し休む」とだけ言って、駅のベンチに横になった。
ジャスは少し駅を出て様子を見る。見たことの無い駅だ。
アウルの道案内無しに家に帰れないだろう。ただ、本人がどうしてもつらそうだ。
「クロウなら、すぐに家に家に連れていけるんだろうけど」
ジャスは自分の無力さに歯痒くなった。
その時だった。
スッと小さな竜巻が起こり、目の前に大きな人影が現れた。
「やあ久しぶり」
「えっと……」
ジャスは目の前に現れた男をみて思い出す。
「パイソン、でしたっけ」
「覚えてて頂いて何より」
パイソンはニコニコとジャスに近づいた。
「大変そうですね。大魔法使いが風邪を引くなんて、情けない。これくらいの体調、何とかできるでしょうに」
「あー、まあ色々ストレスかかっちゃったんじゃないですかね。まあ」
ジャスは少し警戒して言葉を選ぶ。そんなジャスに、パイソンはニヤニヤ笑いながら言った。
「ああ、大丈夫。私は知っていますよ。彼が今魔法が使えない状況なのをね」
「ああ、それは」
ジャスは少し考えてからパイソンに頼むように言った。
「突然こんなことお願いするのもなんですが、魔法とかでアウルを家まで送ってくれませんか……?」
「ふぅむ、出来ないこともないですがね」
パイソンはニヤリと笑う。
やっぱり魔法使いに何かを頼むのは大金が必要なのかとジャスは警戒した。
「報酬は別にいらないですよ」
パイソンはジャスの考えを見透かしたように言う。
「えーっと……では」
「ただねぇ、私は君に魔法をかけることはできないんですよ」
パイソンはそう言ってジャスの左手首についた銀の腕輪にそっと触れた。
「この腕輪はね、君への危害をすべて弾き飛ばすのです。君に魔法をかけると、魔法自体を危害と認識して弾き飛ばします。つまり、君には魔法がききません。まあ腕輪を付けた本人であるアウルの魔法なら効くのですが」
「へぇ、そうだったのか」
アウルも、ちゃんと教えてくれればいいのに、とジャスは思った。
「だから、アウルを家まで魔法で飛ばせても、君を飛ばしてあげれないんですよ。そうすると、君は知らない土地に一人ぼっちになりますよね」
パイソンは、さも残念そうに言ったあと、ニヤリと笑った。
「でもね、その腕輪を外す方法がありますよ」
「なんですか?」
ジャスはたずねる。
「君がアウルを本気で拒めばいいのですよ」
「は?」
ジャスは思わず聞き返した。いつもアウルを本気で拒んでいたつもりだったが。
「例えば、アウルを傷つけておいで。その腕輪に少し血でも付けば、私が解呪してあげることができますよ。今なら弱っているので絶好のチャンスです!」
パイソンはニヤリと笑ったままジャスの肩を強く掴む。
「さあ、ナイフでも必要ですか?」
「いりません。やりません」
ジャスは真っ青な顔で言った。
パイソンは心底理解できないという顔になった。
「なぜ?君はアウルが嫌いでしょう?」
「……アウルだけでいいです。魔法で家に戻して布団に突っ込んでおいてください」
ジャスはパイソンの目を見ずに言った。
「家に帰ればアイツは何とか自分でなんとかできるでしょう。僕は、まあ、なんとかします」
ジャスの言葉に、パイソンはため息をついた。
「弱っているアウルを傷つけたくないとでも?優しすぎますねぇ」
そう言いながらも、パイソンは、アウルが寝ているはずの駅に向かって指を軽く動かした。
「はい、これでアウルは家に帰りましたよ」
「ありがとう」
ジャスはホッとした顔でお礼を言った。
パイソンはジャスに近づき、優しい声で言った。
「さぁて、君はどうします?」
「どうしましょうかね」
ジャスは苦笑いをしてみせた。確かに、ここから帰る道が全く分からない。
「後悔してるんじゃないですか?アウルを傷つけなかったこと」
パイソンはそっとジャスの顎を軽く掴んで顔を自分の方に上げさせた。
ジャスは少し笑ってみせた。
「まあ、少しだけ。でもどうしたって無理ですから。弱った人を傷つけるのは」
「嫌いな大魔法使いでもか?」
「嫌いだからって傷はつけないよ」
ジャスは笑ってパイソンから距離をとって、背を向けた。
パイソンはニヤリ顔を辞めて無表情で苦々しげに小さな声で言った。
「焦っては逆効果かな」
「……え?」
「なんでもありませんよ」
パイソンはすぐ笑顔に顔を戻した。
「えっと、これからどっち側行けばいいですかね?」
ジャスはパイソンに困ったようにたずねる。
パイソンはニッコリ微笑んで言った。
「さっきは意地悪を言いました。君もちゃんと帰す方法がありますよ」
パイソンがパチンと指を鳴らすと、どこからともなく大きな蛇が現れた。
「私の使い魔です。この子に乗って行けばいいですよ。君自身に魔法をかけるわけではないのでこれなら大丈夫」
「わあ!何から何まですみません」
ジャスは丁寧に頭を下げた。
「その代わり、これを君に受け取ってもらいたい」
パイソンはそっとジャスに何かを握らせた。
「えっと…これは」
「呼笛。これを吹けば必ず私が君の元へ行こう」
「これを、受け取るだけでいいんですか?」
「そうですよ」
パイソンは満面の笑みを浮かべる。
「別に使わなくてもいい。持っていてくれるだけでいい」
「はあ、そんなことでいいんですか」
ジャスは首を傾げた。まあよくわからないが、これを受け取るだけなら特に問題あるまい。
ジャスは呼笛をポケットに入れた。
そしてパイソンに促されて冷たい大きな蛇に乗った。蛇は信じられないスピードで動き出し、あっという間に姿を消した。
蛇に乗ったジャスの姿が見えなくなったのを確認すると、パイソンは大きな声で笑いだした。
「アウルがあの呼笛を見つけたとき、どんな反応をするか楽しみだ!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる