媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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本気で

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 しばらく待っていたが、アウルはなかなか戻ってこなかった。

「あいつ、ほんと途中でへばったんじゃないか」

 ジャスはふと外に出てみた。


 そして泉の方へ行ってみる。

「ああ、なんだいるじゃないか」

 屈んで水を汲もうとしているアウルを見つけて声をかけようとしたときだった。

「あっ!」

 アウルは体勢を崩して泉の中に腕ごと突っ込んでしまった。

 ジャスは急いでアウルの元に駆け寄って身体を支えた。

「なんだよ。何しに来た」

 アウルが上半身を濡らしたまま、ジャスをギロリと睨む。

「何しにって、アウル落ちそうになってんじゃないか」

「落ちそうになんかなってねぇよ。わざとやってんだよ」

「はあー??」

「泉の端よりも、真ん中の方が透き通った水だろ。飲水なら真ん中から取るべきだろうが」

 なるほど、とジャスはため息をついた。

 アウルは少しでもキレイな場所の水を取ろうと、四苦八苦していたわけだ。

「あのさ、別に端からとっても大丈夫だよ。どこからとっても軽く濾過したりなんやかんやするんだから」

 そう言って、ジャスはアウルの手から桶を取った。

「説明ちゃんとしなかった僕も悪いけどさ、困ったら呼びに来てよ」

 そう言って適当に水を汲むと、自分の上着を脱ぎ、それでアウルの上半身を軽く拭く。

「あーあ、また風引いたらどうすんのさ。馬鹿は風邪引かないっていうのも限度があるぞ」

 アウルはされるがままに身体を拭かれながら、あからさまにムスッとした顔で黙りこくっていた。

「テメェ、少し休んだか」

「は?」

 突然言われてジャスはキョトンとする。

「ちゃんと寝たか?自分の飯は食ったか」

「え?まあ、これから食べる予定だけど」

「昨日、世話かけた。ちゃんと今日は休めよ」

 それだけ言うと、アウルはジャスの上着を持ったまま、先に立って歩き出した。

 水の入った桶も持って、さっさと家に向かって行ってしまった。

「な、何だよ」

 ジャスは一瞬ポカンとしたが、慌ててアウルの後を追った。


 家に戻ると、水の桶は台所に置かれ、アウルは湯浴みをしているようだった。

 ジャスは桶の水を確認してから、釜戸に鍋をおいて火を点けようとした。その時だった。

「おい、教えろ」

 アウルが後ろから現れて、ジャスの手から燐寸箱を取り上げた。

「え、えっと火の点け方?アウルは魔法が戻ればまた魔法で火が点けれるんだから別に教わらなくても」

「テメェだけに、やらせるわけにもいかねぇだろ」

「別に大丈夫だよ」

「大丈夫じゃねえ」

 アウルはブスッとした顔で言う。

「今後、もしまた魔法が使えねぇ時に、今度はテメェが具合が悪くなったら、どうすんだ」

「今後?」

 今後なんて……、とジャスは動揺した。しかしすぐに気を取り直して言った。

「まあ、そうだよな。今度クロウが紹介してくれる子も人間だもんな。今後こういう事があったときのために覚えておくべきだよな」

「クロウが紹介……ああ……そうだったか」

 アウルはぼんやりとした様子で答えた。

「まあ、とりあえず今回は早くにやっちゃいたいから、後で教えるよ」

 ジャスが言うと、アウルは大人しく燐寸箱を返した。


 ジャスは手早く朝食を完成させた。もう遅くなっていたので、昼食と兼用させようと、多めに用意した。

「おい、なんで二人分だ」

 アウルが、自分の目の前にも置かれた皿を見て言った。

「だって、コーヒー無いでしょ。完全栄養食の。魔法も使えないから新しくも作れないし。だったら普通の食事しなきゃでしょ」

 当たり前のように答えるジャスに、アウルは困惑したように目の前に並べられていく食事を眺めていた。

「もう何年も普通の食事なんてしてねぇ」

「でも食べなきゃ」

 そう言って、ジャスは先に食べ始める。

「ほら、あのお粥よりはおいしいよ」

 ジャスに言われて渋々アウルは席についてスプーンを持って食べ始めた。

「悪くないでしょう?食事も」

 ジャスが言うと、アウルは「ああ」と短く答えた。


 アウルが食べ終わるのはかなり時間がかかった。食事自体が久しぶりで、食器の使い方もなれていなかったからだろう。

 ジャスはアウルにコーヒーを入れた。

「完全栄養食じゃないけどね」

 そう言ってジャスは自分もコーヒーを入れる。

「砂糖は」

「そんなもん自分で取ってこいよ」

 ジャスは呆れたように言うと、意外にアウルは大人しく自分で立ち上がった。


 コーヒーに砂糖を入れると、ジャスの目をじっと見つめて言った。


「ジャス。本気で。本気で、花嫁になってくれないか」


「は?」


 ジャスはコーヒーを吹き出しそうになった。
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