媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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殺意

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「パイソン!テメェいるんだな!」

 アウルが叫ぶ。


 ふ、と音もなくパイソンが現れた。

「やあ、ジャスくん。お久しぶりですね。お望み通り、その腕輪外してあげましたよ」

 パイソンは、アウルに見向きもせずにジャスにニッコリ笑いかけた。

「え?」

 ジャスは思わず自分の腕を見る。

 そう言えばあのとき言われていた。

 少しでもアウルの血が付けば、腕輪を解呪してあげる、と。

「テメェ……やっぱりそそのかしていやがったか」

 アウルはパイソンをにらみつける。

 しかし相変わらずパイソンはアウルを無視するようにしてジャスに話しかけた。

「ねえ、アウルがなぜあんなにも怯えているかわかりますか?」

「怯えてねぇよ」

 アウルが口を挟むがパイソンは意に介さない。

「呼笛はね、どんなところにいても魔法使いを呼び出す事ができる。つまり、結界を張って誰でも入れない所にも呼び出す事ができる。
 ジャスくんがここで笛を吹けば、いくらアウルが強い結界を張っていても、私はこの家に現れる事ができる。そして私は魔法の使えないアウルを攻撃しにやってくる、と思っていたのですよ」

 そう言ってパイソンは、アウルの方を見ないまま指先だけを向けた。

 アウルのすぐ近くの棚が激しい音を立てて弾け飛んだ。

 ジャスはヒッと声にならない悲鳴をあげた。

 驚いて腰が抜けて座り込んだ。

 しかしアウルは一切動揺せずにパイソンから目を離さないでいた。


 アウルがパイソンを毛嫌いしていることは、ジャスにも理解はしていた。しかしまさか攻撃するされるの間柄だったとは。

「攻撃……?アウルは僕が裏切ってると思った……?」

 だからあんなにも取り乱したようだったのか。

 でも。

「僕は何もしてない」

 笛は一切吹いていない。

 さっきまで呼笛を貰ったことすら忘れていたのだから。パイソンがこの結界のある家に入

 る手引などはした覚えがない。

「何もしてない!」

 もう一度、今度はアウルに訴えるように言った。

 しかしパイソンはニヤァと口だけ笑顔を作り、ジャスに近づいた。

「またまたぁ。何もしてないなんてご謙遜をー。君のおかげで私はここに入れたんですよ。だからお礼に腕輪を外してあげたのですよ。ちゃんと言いつけ通りアウルを傷つけたんですもんね」

「知らない!!違う!」

 ジャスは真っ青になって後ずさる。


「ジャス、うるせぇ。テメェは黙ってろ」

 アウルが静かに口を開く。

「黙って、パイソンから離れろ」

 恐ろしい声だった。

 ジャスは絶望的な気持ちになりながら、言われた通りパイソンから離れようとした。

 しかし身体が全く動かない。何か魔法をかけられているようだ。

「聞こえねぇのか!早く離れろよ!」

 アウルが苛々と怒鳴る。

「違……身体が動かない……」

 ジャスは声にならない声で訴える。

 恐る恐るパイソンを見ると、ニヤリと笑っている。

 その目に、ジャスにでも理解できるほどのあからさまな殺意を見た。


 パイソンの指が軽く動くのを見た瞬間、ジャスは目の前が真っ暗になった。

 何かが切り刻まれるような音がした。

「アウル!!!」


 ………

「アウル、君は一体何をしているんですか」

 パイソンの、蔑んだような声がする。

 ジャスは、自分の目の前で険しい顔をして立っているアウルを見て震えた。アウルはゆっくりと膝を折り、倒れ込んだ。

「おい、アウル!!」

 ジャスは慌ててアウルの身体を支えるように抱えた。

 アウルの背中には大きな切傷が出来ており、破れた服の隙間から血が次々に滲み出てくる。

「うるせぇなあ。黙ってろ。大した攻撃じゃねえ」

「でも」

 確かに深い傷では無さそうだが、かなり広い範囲に渡って切られている。すぐに何とかしたほうがいいのは明らかだ。

「全く、裏切り者を庇うなんてつまらない事を。こんな形で君に勝ちたく無いです」

 忌々しそうにパイソンが言う言葉に、アウルは笑ってみせた。

「これで勝ったと思ってんのか?おめでたいやつだな」

「勝ったなんて思ってません。まあアウルならこれくらいの傷、すぐに治せるでしょう」

 冷たくそう言うとパイソンはマントを翻して立ち去ろうとした。

 その後ろ姿に、アウルは何かを投げ捨てる。

「忘れもんだ。持って帰れ」

 パイソンは、アウルの投げた自分の呼笛を拾って、ふん、と鼻を鳴らした。

「テメェにも、プライドがあるなら、俺に直接来い。俺の周りにちょっかい出すんじゃねぇぞ」

 アウルが最後にパイソンに叫んだのが聞こえたかどうかわからなかった。

 パイソンはその時にはすでに煙のように姿を消していた。



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