媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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「アウル、大丈夫か?消毒しよう。それとも何か魔法薬がある?」

 ジャスは恐る恐る背中の傷を見ながら話しかける。

 アウルは面倒くさそうに手を振る。

「大したことねぇ。大袈裟に騒ぐんじゃねぇよ。あの糞野郎の思うつぼだ」

 そう云いながら立ち上がると、背中の傷から血が溢れた出てきた。

「じっとしてて!僕が必要なものを取ってくるから。何が必要?とりあえずキレイな水を持ってくる」

「いらねえ。それより、台所の近くの棚に軟膏が入ってあるからそれもってこい。白い壺だ」


 アウルに言われて、急いでジャスは言われた通り白い壺を探してきた。

 ジャスが戻ってくると、アウルは破れた服を脱いで上半身裸になっていた。痛々しい傷が、よりはっきり分かった。

「これを塗ればいいんだな?」

 ジャスは壺から軟膏を取り出して丁寧に背中に塗る。

「魔法が使えれば一瞬なんだがな。まあとりあえず、これでも2、3日もすれば治る」

 アウルは事も無げに言った。


「ごめん」

 ジャスは小さく呟いた。アウルは怪訝そうに後ろを向いた。ジャスは下を向いて、もう一度言った。

「ごめん、僕を庇って……」

「何ふざけた事言ってやがる」

 アウルはジャスを睨みつけた。

「何でテメェが謝る。何もしてねえだろうが」

「でも」

「裏切ってねえことだってわかってる」

「え」

 ジャスは思わず顔を上げる。

「だって、アウルも疑ってたじゃないか。あんなにも怒ってて」

「初めからこれっぽっちも疑ってなんかいねえ」

 当たり前のように言うアウルに、ジャスは戸惑ってしまった。

「じゃあ何であんなにも、話聞いてくれないくらい怒ってたんだよ」

「怒ってねぇよ」

「怒ってたよ」

「…………悪かった」

 アウルは突然謝り、頭をかいた。ジャスはキョトンとした。

「心配だった。テメェが、パイソンに騙されたり、脅されたりしてんじゃねぇかって。怒ってたわけじゃねぇよ」

 それだけ言うと、今度は目をそらすように前を向いた。

「あんなことで、テメェを怖がらせて、悪かった。今後はあんな怖い目には合わせねえようにする」

「いや、その……大丈夫」

 ジャスは、何を返していいかわからず、そっと傷を撫でた。

「とりあえず、新しい服着よう。持ってくる」

 そう言って、ジャスは慌てるように部屋を出た。


 アウルは着替えを終えると、普通にウロウロと動き回っていた。

「ちょっと、もう少し安静にしてなよ」

 ジャスは心配そうに文句を言うが、アウルは面倒くさそうに答える。

「軟膏で血は止まってる。ちょっとだけ痛いだけだ」

「ほら、痛いんじゃないか。俺が出来ることはやっておくから、部屋で寝てなよ」

「今日体調治ったのにまた寝たきりにさせる気かよ。パイソンがどうやって結界を無視してこの家に入れたかもまだわからねぇんだ。少し調べとかねぇと駄目だろ」

「そう言ったってさあ」

 何となくジャスは落ち着かない。あんなに大きな傷だったのにあんなに普通に歩き回ってていいのか?

「まあ、今回は準備時間が無かったから結界が不十分だった可能性がでけえな。そういやぁあの風邪みたいな呪いも、パイソンがやった可能性があるな……」

 そうつぶやきながらアウルは、魔法薬の戸棚を整理する。そして、その近くにおいてあった燐寸箱を手にとって言った。

「ああ、そう言えば早く燐寸の使い方教えろよ。今夜は俺が食事を作ってやる」

「いい、大人しくしててよ今日くらい」

 慌ててジャスはアウルから燐寸箱を取り上げる。アウルは不貞腐れた表情を浮かべた。

 ジャスは少し悩み、そしてため息を1つついてからアウルの顔をしっかり見ながら言った。

「僕も心配なんだ。僕を庇って怪我してるんだから。少し大人しくしてて」

「別に心配なんぞいらねぇ」

「心配させてよ、あのー、えっと……ほら、僕が花嫁だったら、アウルを心配するの当然だろ?」

 ジャスは、自分で言ってから少し後悔した。恥ずかしいし何だか屈したようで悔しい。


 アウルは、ジャスの言葉を聞いて動かなくなった。

「アウル?」

 黙っていられると更に恥ずかしい。

「分かった。大人しくしておいてやる」

 しばらくしてからアウルは偉そうに椅子に座りながら言った。

「思う存分、心配しろ。花嫁としてな」

「そんなふんぞり返って言う事じゃねぇけどな」

 ジャスは苦笑する。まだ花嫁じゃないけど、と聞こえない小さい声でつぶやきながら。

 ともかく、アウルを大人しくさせるのに効果は抜群だったらしい。


 アウルは言われた通り、椅子に座って大人しくしていた。

 たまに結界が気になるのか、家の周りをウロウロしていたがそれはもう放っておくことにした。


 食事をし、パイソンに壊された所を片付け、アウルの背中に軟膏を塗り直した。

「まだ痛かったら、痛み止め飲んで」

 ジャスが手渡した薬を、アウルは今度は大人しく飲んだ。やはり痛みはあるのだろう。


 夜になって早めにアウルを寝室に放り込んで、ジャスは一人ぼんやりとする。

「なんか、今日は疲れた」

 アウルにプロポーズされ、パイソンに襲撃され。それに。

「これが魔法使いの世界なんだな」

 呪いを日常的に受けたり解いたり、当たり前のように危害を加えたり受けたり。

 平和な生活を送っていたジャスには、とうてい理解ができない世界だった。

「それでも一応守ろうとしてはくれてたんだな」

 怖がらせて悪かった、と言ったアウルは、とても悔しそうだった。



    
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