媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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ヨシヨシ

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 ジャスが目覚めたのは、昼過ぎだった。

「うわ、すげえ明るい……」

 ジャスは眩しそうに窓の外を見る。

 完全に熟睡していた。夢の一つも見なかった。


 部屋から出ると、アウルが居間で一人で本を読んでいた。

「随分と優雅なお目覚めじゃねえか」

「ああごめん。おかげさまでグッスリ寝れた」

 ジャスは笑いながら答えた。

「お腹も空いたな。ジャスは何を食べた?」

「おい、テメェ。今日は何も文句言わねぇのか」

 突然、アウルが問いかける。ジャスはキョトンとした。

「文句?」

「夜の事だよ」

 アウルの言葉に、ジャスは、ああ、と理解したように笑った。

「添い寝のこと?あれはさすがに恥ずかしかったけどさ、おかげでこんなにもグッスリ眠れから文句は言えねぇよ」

 ジャスの言葉に、アウルはポカンとした。

「テメェ、覚えてねえのか……」

「え?」

 アウルの言葉に、ジャスは慌てて考え込む。

 そして昨日一度だけ見た悪夢を思い出した。

「もしかして……僕かなりうなされてたのか?うるさかったか?」

「あー、まあうるさかったな」

 アウルは頭をかいた。

 なるほど。錯乱状態で、起きてるのが寝ているのか曖昧だったか。

 更にその状態で酩酊魔法を食らったせいで、完全に覚えて無いらしい。

「そうか、ごめん、悪かったな」

 何も知らないジャスはそう申し訳無さそうな顔を浮べた。

 アウルは舌打ちをした。覚えて無いなら、こちらからも多少手を出してやればよかった。

 後で嫌な顔すると思っていたから、こちらからは何もしないように我慢してやったのに。

 アウルが明らかに不機嫌なオーラを出しているのをジャスも感じ取った。

「ごめんって。でもアウルが無理矢理添い寝したんだからな。でも、今夜は大丈夫だと思うから一人で」

「駄目だ」

 アウルは被せるように言った。

「どうせまだ怖いだろ。明日には魔法が戻る。その時には悪夢を見ねえ魔法かなんかかけてやるから、今夜も添い寝だ」

「えー嫌だ」

 ジャスは不満げな声をあげた。

「決定だ」

「いらねぇよ。大丈夫だって。ほら、今回グッスリ寝たから、最悪寝れなくても大丈夫だし」

「いや、許さねえ」

 きっぱりと言うアウルに、ジャスは心底嫌そうな顔を向けた。



 その日の日中はつつがなく過ごし、そして夜になった。

 急いで自分の部屋に向かおうとするジャスを、アウルは捕まえた。

「自分の部屋じゃ寝れねぇんだろうが」

「大丈夫だって。掴むんじゃねえよ」

 ジャスはアウルの手を振りほどく。

「だいたい、昨日アウルも狭いって言ってただろ。今度はアウルが寝不足になるぞ」

 ジャスの言葉に、アウルは少し考え込んだ。

「確かに、狭え」

「だろ?」

「よし、テメェは床で寝ろ」

「それはそれで酷いな!」

 ジャスは呆れて言った。

「ほら、またうなされちゃったら申し訳無いし……」

「テメェの寝言なんて赤ん坊みたいなもんだ」

 アウルは言い返す。ジャスはヤケクソで軽口を叩く。

「何?昨晩うなされたときに、赤ちゃんにやるみたいにヨシヨシってあやしてくれたわけ」

「………」

「え、何で否定しないの」

「……ヨシヨシはしてねえ」

「……何はしたの?」

「………」

「え、何で目そらしてんの」

 まあいい。ともかく大丈夫だから。ジャスはそう言って無理矢理自分の部屋に行ってしまった。

「逃げやがって」

 アウルは大きな舌打ちをした。



 仕方なく夜中、アウルはそっと部屋を出てみた。

 案の定、居間で電気宝石の光が揺らめいている。

「寝てねぇじゃねえか」

 アウルがそう声をかけると、座ってボーッとしていたジャスバツが悪そうに振り返った。

「昼まで寝てたもんだから、眠くないんだよ」

「嘘つけ。日中、欠伸してたじゃねえか。まだ寝足りねえんだろ」

 アウルの指摘に、ジャスはぐっと言葉に詰まる。

「部屋にいるより、ここにいるほうが怖くねえのか」

 アウルが、ジャスの目の前に座りながら尋ねる。ジャスは諦めたように言った。

「んー、やっぱりあの部屋が現場だったからちょっとね」

「だから俺の部屋で寝りゃあいいものを」

「嫌だよ」

「頑固者め」

 アウルは険しい顔を浮かべた。

 ジャスは苦笑した。

「今日は寝ねえつもりか」

「寝ないつもりではないよ」

 ジャスは電気宝石の灯りを見つめながら答えた

 アウルは舌打ちを一つすると、自分の部屋に向かった。

 ようやく放っておいてくれるのかとジャスは思ったが、アウルはすぐに枕と毛布を抱えて戻ってきた。

「何してんの」

「ここで寝るぞ」

 アウルは机に枕を置いて、自分の肩に毛布をかけた。

「テメェも自分の枕もってこい。あと、電気宝石はもう消すからな」

「は?自分の部屋で寝ろよ」

「テメェが俺の部屋が嫌だって言ってるから妥協してやってんだろうが。ワガママ言うんじゃねえよ」

「アウルの部屋が嫌なんじゃなくてアウルと寝るのが嫌なんだよ」

「うるせぇ!早くもってこい。灯り消すぞ」

 強引なアウルに、ジャスは渋々自分の部屋から枕を持ってきて、同じように机に枕を置いた。

 電気宝石は消されるとすぐに、アウルの寝息が聞こえてきた。

 寝付き良すぎだろ、とジャスは呟いた。

 ただ不思議な事に、やはり昨日と同じく、人の寝息を聞いているうちに段々とジャスも、瞼が重くなっていくのだった
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