媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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逃げるんだ

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 ふと目が覚めるともう辺りはうっすら暗くなっていた。

 台所へ行ってみると、空っぽだった魔法のコーヒーの容器は満タンになっており、電気も火も水もちゃんと機能していた。

 ジャスは、アウルがまた魔法を使えるようになったんだ、と確信した。

 と同時に思わず舌打ちをする。

 出来たらアウルが魔法を使えるようになる前に逃げたかった。少しでも逃げる確率を上げるために。

 そうは言っても、こうなってしまったなら仕方が無い。すぐに動こう。


 ジャスはそっとアウルの部屋を覗いた。

 アウルとクロウが何やら話をしながら、魔法陣のようなものを描いている。

 二人共集中しているのは間違いない。

 今がチャンスだ。

 ジャスは急いで荷物をまとめ、戸棚から何本かそれらしい魔法薬の瓶を選んで鞄に詰めた。


 急げ。逃げるんだ。

 ジャスは音を立てないように静かに、そして急いでアウルの家を出た。


 完全に真っ暗になる前に森を抜けたかった。ジャスはひたすら走った。荷物が重くて何度もしゃがみ込んだが、それでも身体に鞭を打ってひたすらに森の中を走った。

「さすがに疲れた」

 ジャスは大木のそばに座り込んだ。

 完全に暗くなってきており、こんな森の中を進むのは危険だ。灯りを付けて進むことも考えたが、アウルに見つかる可能性の他、虫などに襲われて危険な目に合う可能性も無いとは言えない。

 ジャスは大木によりかかり、鞄から布を取り出すと体に巻いて仮眠を取ることにした。


 ジャスがウトウトしだしてから数分が立った。

 何やら気配を感じて起き上がる。

「野生動物……?」

 何やら人ではない唸り声が聞こえる。狼でもいるのか。

 息を殺して大人しくしていると、突然唸り声が消えた。

 ホッとして何気なく顔を上げた。

 木の上のフクロウと目があった。


 その時ジャスは襟首が強く掴まれるのを感じた。


「もう追ってきたか」

 ジャスは首を強く回して魔法を振り落とそうとしたが、襟首を掴まれている感覚は治まらない。

 一か八か、上着を急いで脱いでみた。すると襟首の掴まれている感覚はなくなり、上着だけがどこかへ引きづられるように消えていった。

 ジャスはゾッとして、急いで荷物をまとめて暗い森の中をまた駆け出すのだった。

 ………

 どこまで逃げればいいのかわからない。それも、暗くて道もわからなくなってきた。

 ジャスが一息ついて立ち止まった瞬間だった。

「うっ」

 突然背中を強く押されて倒れ込んだ。そしてそのまま背中に重さを覚えて起き上がれなくなった。

 振り向くと、恐ろしい顔をしたアウルがジャスに馬乗りになっていた。

「よお。かくれんぼは楽しかったか」

「クソ」

 舌打ちをするジャスの頭を、片手で強く地面に押し付けた。そして顔を近づけて感情のこもっていない声で囁く。

「薬まで盗んで、まさか俺から逃げられるとでも思ってたか?」

 ジャスは強く肺が圧迫されて上手く声が出せないでいた。アウルは更に顔を近づけて短く言った。

「逃がさねぇ」

「おい、今後は怖い目に合わせねえって前に言ってなかったか?今僕は十分怖い目にあってるぞ」

 ジャスは、なんとか声を出して、睨みつけながら言ってみる。

 アウルは更に顔を強く地面に押し付ける。

「それは、大人しく花嫁になる場合だ。逃げるつもりなら話は別だ」

 そう言うと、軽く指を動かしてジャスに催眠魔法をかけた。

 ジャスはすぐに眠ってしまった。


「クッソ……テメェ何で……」

 アウルは苦々しげに呟いた。





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