媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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今は仕方ねえ

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 ジャスは、逃げるな、ここで寝ろと言い張るアウルに根負けして、今夜はアウルの部屋の床で寝ることになった。



「大工に頼んで、もっと広いベットを作って貰う」

 床に寝転がったジャスに対してアウルは宣言した。しかしジャスは慌てて首を振った。

「いや、それはいらないよ」

「いらなくねえだろうが。これだと狭えっつっただろ」

「いや、別に一緒に寝ないし」

「……」

「寝ないよ。え?寝ないよ?」

「さっき花嫁になるっつったろ」

「一緒に寝るとは言ってない」

 ジャスの言葉に、アウルは明らかに不機嫌な顔になった。

「……まあ、確かに花嫁になるとしか言ってねぇな。更に言えば、嫌いだとも言われてたな」

「まあ……」

 気まずそうにジャスが答える。

「わかった、今のところは仕方ねえ」

 それだけ言うと、アウルはジャスに背を向けた。しばらくすると寝息が聞こえてきたので、ジャスはほっとため息をついた。




 朝になり、ジャスはアウルより先に起きて朝食を作っていた。

 アウルは食事を食べるのだろうか、それともコーヒーで済ませるのか。わからなかったので念の為薬草粥を少量だけ作っておいた。

 そっと部屋を覗いてみると、ちょうどアウルが起きたところだった。

「起きた?体調どう?」

「悪くはねえが」

 悪くない、と、言いながらもアウルは機嫌は悪そうだった。

「薬草粥あるけど」

「それはいらねえ。コーヒーでいい」

 わかった、とジャスが出ていこうとした時、またいつものように襟首を引っ張られてアウルの目の前に転がされた。

「だーから、それやめろって」

 文句を言おうとした瞬間、アウルがジャスの頭を強引に掴んで唇を食べるようなキスをしてきた。

 ジャスは慌てて顎を引いてアウルから離れた。

「朝っぱらから何んだよ!」

「契の、一ヶ月キスする今日のノルマだろうが。俺が出かけた時キスできなかったからまた始めからだぞ。ギリギリになるな」

「……っ!だとしても!そんなガッツリくるなよ」

「はあ?大したことしてねえよ。花嫁になるんだからこれくらいするだろうが」

「しねえよ!だいたい、ノルマのキスなら、ちょっと口つけるくらいで十分だろ」

「……テメェはそれくらいにしたいってことか。まあ、俺のこと嫌いだろうからな」

「ま、まあ」

 明らかに空気が冷たくなったのをジャスは感じたが、それ以上アウルは何も言わなかった。



 朝食を食べ終え、ジャスはアウルの顔と体に軟膏を塗った。

「軟膏の方がいいの?体力回復したなら傷治す魔法使ったほうが早くない?」

「まあ、確かにそうだな」

 そうアウルは頷くが、魔法を使おうとする気配がない。

 やはりまだ体力が完全に回復していないのだろう、とジャスが思っていた時だった。


「甘えん坊さーん」

 二人の目の前にはクロウがニヤニヤしながら立っていた。

 気づかぬうちに家の中に入っていたのだろう。

「アウルったらー、自分で魔法で治せる癖に、ジャスくんに手当てしてもらいたいからわざと軟膏つかってるんだよねー」

 クロウがニヤニヤしながらアウルの顔をのぞき込む。しかしアウルは一切照れも動揺もしなかった。

「まあな。甲斐甲斐しく世話してもらえるチャンスだ。ものにしなくてどうすんだ」

 アウルの答えに、ジャスは思わず軟膏を塗る手を止めた。

「なんだそれ。自分で出来るなら自分でやれよ」

「出来ねえ。やれよ」

「出来るだろ。そう言っただろたった今」

「なんだよ、花嫁様は甘えさせもしてくれねえのか」

「しないよ」

「……これもしねえのかよ。まあ、今は仕方ねえな。俺のこと嫌いだもんな」

 アウルの纏う空気がまた凍った。

「ほらほら、喧嘩しないで」

 クロウが空気を変えるかのように二人の間に入った。

「アウル、甘えたいなら俺がやってあげようか?」

 いらねえ、とアウルは短く返す。

「でもよかった。かなり良くなってるね」

 クロウはアウルの顔を見てホッと息を吐いた。

「ああ、悪かったな。心配させた」

「おや、アウルにしては珍しく素直」

 クロウが茶化すように言った。

「もう、あんまり無理しないでよ。ジャスくんだって、なかなか帰ってこなかったから心配したよね」

 急に振られてジャスは、あー、うーん、と微妙な返事をしてしまった。なんせあの時は別に心配などはしていなかったからだ。

 ふと思い出したようにアウルはクロウに文句を言った。

「そう言えばテメェだろ、ジャスの紐解いたのは」

「あは、バレた?」

「テメェのせいでも逃げてたらどうするつもりだったんだよ」

「だって、飲まず食わずで数日拘束しといたら、ジャスくん弱っちゃうよ。下手したら死んじゃうよ」

「食べ物は準備してやってたぞ」

「おトイレは?」

「……」

「ほら、完全に忘れてたでしょ」

「……別に漏らしても死にやしねえだろ」

「いやいや!精神的なものが死ぬよ!!」

 ジャスは思わず口を挟んだ。アウルはムッとした。

「だいたい、テメェが逃げて夜の森を通ろうとしたのが悪いだろ。わざわざ狼の住処通りやがって」

「ほら、また、喧嘩しないで」

 クロウがまた二人の間に入って仲裁しだした時だった。



 玄関の方から、トントン、とノックの音が聞こえた。

「あ、俺が出るよ。少し前に、アウルが家の水道とか整備したいって言ってたから、街で優秀な技師を一人寄こして、って頼んでたんだ。多分それだよ」

 クロウは玄関にイソイソと向かった。
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