媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

文字の大きさ
80 / 114

社長

しおりを挟む
 次の日もリンドーは工事の続きにやって来た。

 今回は、リンドーだけでなく、もうひとりの技師を連れてきていた。

「アウル様、こちら、うちの社長でございます。腕はピカイチでございます。これからの作業は一人では難しいので、二人で作業させていただきます」

 リンドーが丁寧にアウルに説明している。

 社長と紹介されたその男は、ペコペコとしながらも、アウルへの恐怖心があるのか少し引き攣った表情を浮かべている。

「構わねえ。テメェに全部任せてある。大人数で煩くされんのはムカつくが、一人くらい増えても問題無えだろ」

 アウルは一切興味なさそうに言う。

 リンドーは丁寧にお辞儀をして、作業に取り掛かった。



「リンドーの会社の社長さん、リンドーの話を聞く限りだと、結構怖そうな感じだったけど」

「まあ、人間の組織っつーのは、上のモンが下のモン恐怖で押さえつけてるんだろ?恐いのは当たり前じゃねえか」

「アウル、人間に対する偏見が酷すぎじゃないか」

 ジャスは呆れて言った。

「うるせえなぁ。テメェは今日は俺の部屋の片付けの手伝いをしろ」

「わかったよ。てか、自分の部屋の片付けくらい自分ですればいいのに……」

 ジャスはそう面倒くさそうに返事すると、アウルとは一緒に部屋に向かった。




「おい、あれが大魔法使いか」

 アウルとジャスが姿を消すのを確認すると、社長がリンドーに問いかけた。リンドーは作業の準備をしながら頷いた。

「ええ、先程の方がご依頼主のアウル様です。隣にいらっしゃったのが、アウル様の花嫁様です」

「花嫁?あの小僧が?へえ、男囲ってんのか。いい趣味してやがるな」

 小馬鹿にしたように社長は鼻で笑うと、リンドーのことを手伝いもせずにどっしりとその場に座り込んだ。

「社長、今日の作業は、私一人では……」

「わかってるわかってる。うるせえなあ」

 そう言いながらのんびりと準備を始めた。



 昼になり、部屋から疲れた顔をしたジャスが出てきた。

「ったく……疲れた……どんだけ散らかすんだよ」

「お疲れ様です、花嫁様」

 リンドーに声をかけられて、ジャスはハッと顔を上げた。

「ああ、ごめんリンドー。作業は順調?」

「ええ、まあ」

 リンドーは微妙な顔で頷いた。ジャスにはリンドーの表情の理由はわからなかった。

「今日はお昼大丈夫?」

「あ、今日はちゃんと持ってきたので大丈夫です!」

 そう言って見せてきたのは、とても小さなおにぎりだった。

「絶対に足りなくない?」

 昨日の豪快な食べっぷりを思い出しながらジャスはたずねる。リンドーは、顔を真っ赤にしながら「大丈夫です」と言った。

「そういえば、社長さんは?」

 ジャスがキョロキョロすると、リンドーが慌てた様子で言った。

「社長は、タバコも吸うので外でお弁当食べるそうです」

「ああ、そうなんだ」

 そう言ってジャスは昼食の支度をする。

「本当にそれで足りる?」

「大丈夫です」

 リンドーが再度力強く答えた。

 その時、アウルが部屋から出てきた。アウルはリンドーの持っているおにぎりを見て、呆れたように言った。

「おい、リンドー、なんだその豆粒みたいなものは」

「おにぎりです」

「それだけしか食わねえつもりか」

「えっと。そうですが……」

 リンドーの答えを聞くと、アウルは黙ってコーヒーをカップに入れて冷ますようにかき混ぜた。そしてそのコーヒーを、リンドーの顎を掴んで無理矢理口に流し込んだ。

「ちょっ、ちょっとアウル!!初心者にそれはキツイって!」

 むせこむリンドーの背中を擦りながら、ジャスは慌ててアウルに言った。

「女のコだぞ!もっと優しくしろよ」

「少し冷ましてやったぞ」

「そういうことじゃねえって!ごめんなリンドー、あいつなりの優しさなんだけど、やり方が雑っていうかなんていうか」

「だ、大丈夫です。分かっています。ご親切でやったってことは」

 リンドーはまだむせながら口を拭いて言った。

「なんだか今お腹がいっぱいですもの」



「大体、何でそんな食べんのに無頓着なんだ。そんなに金ねえのか」

 アウルは偉そうにどっしりと椅子に座りながらリンドーに遠慮なくたずねた。リンドーか気まずそうな顔をした。

「すみません、ちょっとお金の使い方が下手くそで……」

「ふん、まあいい。ただ、ここに通ってる間は、腹空かせることは許さねえからな。おいジャス、明日からこいつの昼飯も作れ」

 そう言うとアウルは、自分もコーヒーを飲んで、サッサと部屋に戻ってしまった。



「あいつ、食に厳しいんだよ」

 ジャスは笑いながら自分の昼食を作り始めた。

 リンドーはバツの悪そうな顔で頷いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...