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アウルには聞こえないし、ジャスは諦めて食事をすることにした。
「もういいや、食べちゃおう。どうぞー」
「あ、ありがとうございます。うわぁ、こんな立派なお肉久々に見ました!」
食事に関して恐縮しっぱなしだったリンドーだったが、食事を見ると目を輝かせた。思わずジャスは笑った。
「そうだよね。僕もこんな豪華なお肉、アウルに会うまで食べた事無かったよ」
「さすがアウル様の花嫁様。愛されてますねー」
「いや、あいつは食事に異様に厳しいだけだから」
ジャスはブンブン強く首をふってみせた。
リンドーは笑った。
「朝ごはんは食べてきたの?」
ジャスがなんとなく聞いてみると、リンドーは気まずそうに言った。
「えっと、宿舎のご飯、少なくて。私は体が他の人より小さいからって少ししか配給されなくて……。足りなかったら自分で買えばいいだけなんですけど」
「足りない感じ?」
「まあ」
昨日から聞く感じ、どうもなんとなく、リンドーは会社から厳しく当たられている印象がある。しかし、リンドーはあまり話したがらない様子で、食事を目の前にして少し暗くなってしまっていた。
「まあ、ほら冷めないうちに食べて食べて」
ジャスは慌てて話を変えて、食事を促した。
「そーいえば、リンドーは、クロウが好きなんだよね?」
ふと、ジャスは聞いてみる。
「ええ、大好きです。」
今度はリンドーは満面の笑みだ。
「昔、クロウが結婚してあげるって言ったんだって?」
ジャスが尋ねると、リンドーは肉を頬張りながら頷いた。
「ええ、その言葉を信じて、小さい頃からありとあらゆる手を使ってクロウ様を追い回しておりました」
「ありとあらゆる手……」
そのあるとあらゆる手の手段については聞かないほうがいいと、ジャスは判断した。
「でも、今は、その昔の約束とかはどうでもいいんです」
リンドーは肉を飲み込んで思いっきり水を飲んだ。
「ずっとクロウ様を追い回してたから分かるんです。クロウ様、少し危うい感じがありませんか」
「危うい?」
ジャスは思わず自分の食事の手を止めた。
リンドーは食事の手を止めずに続けた。
「特に最近そんな気がするんです。何かをしでかしてしまうような。多分アウル様の花嫁を貰う期限が近づいていることが原因なんじゃないかな、と思ってるんです。
ほら、クロウ様ってアウル様の事大好きでいらっしゃるじゃないですか」
「あー、うん、大好きだよね」
ジャスは微妙な顔で頷く。大好きの意味をリンドーがどう捉えているかわからなかった。
「もしかして、クロウ様はアウル様が花嫁をもらったらもう、自分は花嫁を貰わずに人間になっちゃうつもりなんじゃないかって思うんです」
「え?」
ジャスはリンドーの言葉に動揺して自分の食事の手を止めた。
考えてもいなかった。でも、言われてみれば、なんだかわからないでもない。
「だから、私はクロウ様の花嫁になるんです。クロウ様を人間にさせません。クロウ様が私を好きじゃなくてもいいんです。ただ、魔法使いでいさせてあげたいんです。そして、ずっとアウル様の近くにいさせてあげたいんです」
リンドーは一気に言った。食事は既に空になっていた。
ジャスは言葉が出なかった。
リンドーの強い想いに、なぜだか息が苦しくなりそうだった。
リンドーは豪快に食事を食べ終えると、上品に口をハンカチで拭いて丁寧にお辞儀をした。
「ごちそうさまでございました。お気遣い、感謝致します」
そう言って食器を片付け始めた。
「あ、片付けは僕がやるから」
ジャスは慌てていうと、素直にリンドーは頷いた。
「それでは、私は仕事に戻ります」
そう言って、リンドーは違う部屋へ工具を持って行ってしまった。
ジャスは自分の残りの食事を食べながら、ひどい罪悪感に苛まれた。
「リンドーは、魔法使いがお金持ちだから魔法使いの花嫁になりたいと思ってた。なんて……ああもう」
大きなため息をついた。
その後、その日のノルマを終えたリンドーは、夕方前には帰っていった。
「リンドーはもう帰ったのか?」
アウルがコーヒーを飲みに部屋から出てきた。
「うん、暗くなる前にね」
台所の掃除をしていたジャスは短くそう答えた。
「おい、んな暗い顔して、何か考え事でもしてんのか」
突然アウルに言われて、ハッとジャスは顔を上げた。そんなアウルに言われるくらい暗い顔をしていた自覚はなかった。
「そんな大層な事、考えては無いけど。ねえアウル。人間になるって……」
「何だ」
「……花嫁を貰わないで人間になるって、そんな選択をする魔法使いもいる?」
「いねえこともねえが、そんな奴は相当な変わり者だ。生まれたときから魔法を使ってる俺らからすれば、魔法を失うのは、手足目耳全て一気に失う事と同じだ」
「そっか」
「急にどうした。何かあったのか?」
アウルはジャスが暗い顔をしているのが不満なようだ。
ジャスは慌てて笑ってみせた。
「ゴメン、そんな大した意味じゃないから」
「ああ、何かあったら言えよ」
アウルはそう言うと、優しくジャスに微笑んで、また部屋に戻っていった。
その優しい微笑みは、本当に僕が受け取っていいのだろうか。受け取る権利はあるだろうか。
ジャスは小さくため息をついた。
「もういいや、食べちゃおう。どうぞー」
「あ、ありがとうございます。うわぁ、こんな立派なお肉久々に見ました!」
食事に関して恐縮しっぱなしだったリンドーだったが、食事を見ると目を輝かせた。思わずジャスは笑った。
「そうだよね。僕もこんな豪華なお肉、アウルに会うまで食べた事無かったよ」
「さすがアウル様の花嫁様。愛されてますねー」
「いや、あいつは食事に異様に厳しいだけだから」
ジャスはブンブン強く首をふってみせた。
リンドーは笑った。
「朝ごはんは食べてきたの?」
ジャスがなんとなく聞いてみると、リンドーは気まずそうに言った。
「えっと、宿舎のご飯、少なくて。私は体が他の人より小さいからって少ししか配給されなくて……。足りなかったら自分で買えばいいだけなんですけど」
「足りない感じ?」
「まあ」
昨日から聞く感じ、どうもなんとなく、リンドーは会社から厳しく当たられている印象がある。しかし、リンドーはあまり話したがらない様子で、食事を目の前にして少し暗くなってしまっていた。
「まあ、ほら冷めないうちに食べて食べて」
ジャスは慌てて話を変えて、食事を促した。
「そーいえば、リンドーは、クロウが好きなんだよね?」
ふと、ジャスは聞いてみる。
「ええ、大好きです。」
今度はリンドーは満面の笑みだ。
「昔、クロウが結婚してあげるって言ったんだって?」
ジャスが尋ねると、リンドーは肉を頬張りながら頷いた。
「ええ、その言葉を信じて、小さい頃からありとあらゆる手を使ってクロウ様を追い回しておりました」
「ありとあらゆる手……」
そのあるとあらゆる手の手段については聞かないほうがいいと、ジャスは判断した。
「でも、今は、その昔の約束とかはどうでもいいんです」
リンドーは肉を飲み込んで思いっきり水を飲んだ。
「ずっとクロウ様を追い回してたから分かるんです。クロウ様、少し危うい感じがありませんか」
「危うい?」
ジャスは思わず自分の食事の手を止めた。
リンドーは食事の手を止めずに続けた。
「特に最近そんな気がするんです。何かをしでかしてしまうような。多分アウル様の花嫁を貰う期限が近づいていることが原因なんじゃないかな、と思ってるんです。
ほら、クロウ様ってアウル様の事大好きでいらっしゃるじゃないですか」
「あー、うん、大好きだよね」
ジャスは微妙な顔で頷く。大好きの意味をリンドーがどう捉えているかわからなかった。
「もしかして、クロウ様はアウル様が花嫁をもらったらもう、自分は花嫁を貰わずに人間になっちゃうつもりなんじゃないかって思うんです」
「え?」
ジャスはリンドーの言葉に動揺して自分の食事の手を止めた。
考えてもいなかった。でも、言われてみれば、なんだかわからないでもない。
「だから、私はクロウ様の花嫁になるんです。クロウ様を人間にさせません。クロウ様が私を好きじゃなくてもいいんです。ただ、魔法使いでいさせてあげたいんです。そして、ずっとアウル様の近くにいさせてあげたいんです」
リンドーは一気に言った。食事は既に空になっていた。
ジャスは言葉が出なかった。
リンドーの強い想いに、なぜだか息が苦しくなりそうだった。
リンドーは豪快に食事を食べ終えると、上品に口をハンカチで拭いて丁寧にお辞儀をした。
「ごちそうさまでございました。お気遣い、感謝致します」
そう言って食器を片付け始めた。
「あ、片付けは僕がやるから」
ジャスは慌てていうと、素直にリンドーは頷いた。
「それでは、私は仕事に戻ります」
そう言って、リンドーは違う部屋へ工具を持って行ってしまった。
ジャスは自分の残りの食事を食べながら、ひどい罪悪感に苛まれた。
「リンドーは、魔法使いがお金持ちだから魔法使いの花嫁になりたいと思ってた。なんて……ああもう」
大きなため息をついた。
その後、その日のノルマを終えたリンドーは、夕方前には帰っていった。
「リンドーはもう帰ったのか?」
アウルがコーヒーを飲みに部屋から出てきた。
「うん、暗くなる前にね」
台所の掃除をしていたジャスは短くそう答えた。
「おい、んな暗い顔して、何か考え事でもしてんのか」
突然アウルに言われて、ハッとジャスは顔を上げた。そんなアウルに言われるくらい暗い顔をしていた自覚はなかった。
「そんな大層な事、考えては無いけど。ねえアウル。人間になるって……」
「何だ」
「……花嫁を貰わないで人間になるって、そんな選択をする魔法使いもいる?」
「いねえこともねえが、そんな奴は相当な変わり者だ。生まれたときから魔法を使ってる俺らからすれば、魔法を失うのは、手足目耳全て一気に失う事と同じだ」
「そっか」
「急にどうした。何かあったのか?」
アウルはジャスが暗い顔をしているのが不満なようだ。
ジャスは慌てて笑ってみせた。
「ゴメン、そんな大した意味じゃないから」
「ああ、何かあったら言えよ」
アウルはそう言うと、優しくジャスに微笑んで、また部屋に戻っていった。
その優しい微笑みは、本当に僕が受け取っていいのだろうか。受け取る権利はあるだろうか。
ジャスは小さくため息をついた。
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