媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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食べさせる

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 そうこうしていると、玄関の方からトントン、とドアをノックする音が聞こえた。

 ジャスが玄関を開けると、リンドーが姿勢を正して立っていた。今日は大量の器具やら機材やらを持っている。

「こんにちは。昨日はどうもご迷惑おかけしました。本日はよろしくお願い致します」

「ああ、リンドー。凄い荷物だね。一人で持ってきたの?」

 ジャスはリンドーを招き入れ、荷物を運ぶのも手伝った。

「ああ、そんな花嫁様に運ばせるなんて……すみません」

「その呼び方やめてってば。ジャスでいいよ」



「すみません、重いものほとんど運んで貰ってしまって……」

 恐縮するリンドーに、ジャスは笑って言った。

「いいよ別に。手伝えることあるなら手伝うよ。計画書見たけど、結構一人だと大変じゃない?」

「不可能ではありませんから」

 リンドーはニッコリと言った。

 あまり言うのも、リンドーの職人としてのプライドがあるのかもしれない、と思い、ジャスはそれ以上言わなかった。



「おお、リンドー。今日はクロウは来ねえぞ」

 アウルがリンドーを見るなり言った。

 リンドーはあからさまにがっかりした顔をした。

「まあ、仕方ありません。でも工期中いくらでもチャンスはございますから」

「ああ、そうだな。来るときはちゃんとテメェがいる時間に来るように言ってやるよ」

「まあ嬉しい。さすがアウル様お優しい」

 クロウ本人がリンドーを避けようとしているのは無視していいんだろうか、とジャスはなんとも言えない気持ちで飛び跳ねるリンドーを見つめていた。

 リンドーの仕事は、素人のジャスが見ても丁寧で早いのがわかった。

 テキパキと作業を進めていく。

 手伝うなんて言ったけど、全然いらなそうだ、とジャスは心のなかで苦笑した。



 昼少し前になり、家の掃除をしていたジャスは、昼食を取ろうと台所へ向かった。

 しかし、ちょうど台所ではリンドーが作業していたので、コーヒーでもいいか、とジャスがポットに手を伸ばした時だった。

 グーーっという巨大な音が聞こえた。

「な、何の音?」

 ジャスが思わず呟くと、顔を真っ赤にしたリンドーが振り返って小さく手を上げた。

「申し訳ございません。私です。お気になさらずに」

「あ、そっか。えっと……、お昼の時間だもんね。お弁当とかあるなら、あそこ使って食べていいよ」

 ジャスは居間の机を指さした。するとリンドーは困ったような顔をして、小さく消えるような声で、大丈夫です、と答えた。

 ジャスは首を傾げた。

「もしかしてお弁当忘れてきちゃった?良かったらなんか作ろうか?」

「いいえ!滅相もございません!」

 リンドーは真っ青になって首をふる。


 その時、自分の部屋で魔法の作業をしていたアウルが、コーヒーを飲みに台所へやってきた。

 そのタイミングで、またリンドーのお腹が大きく鳴った。

 アウルは目を丸くした。そしてすぐにジャスに言った。

「おいジャス、リンドーに何か食わせろ。余分に食料あんだろ」

「いえ!そんな!アウル様もお気になさらず!」

 リンドーが慌てていうが、アウルはリンドーを睨みつけて言った。

「うるせえ。人間は食わねえと死ぬだろ。黙って何か食え」

「リンドー、諦めて。アウルは人間に食べさせたがる人だから。そこ、区切りいいとこまで終わったら台所使わせてね」

 ジャスに言われて、リンドーは渋々頷いて作業を切り上げた。

 ジャスは手早く二人分の食事を作って、リンドーの前に差し出した。

 アウルはコーヒーを飲みながら、偉そうな態度で言った。

「別に人間なら誰にでも食わせるわけじゃねえぞ。テメェがクロウの花嫁の立候補者たから死なせねえように食わせるんだ」

「はい、ありがとうございます」

 リンドーは丁寧にお礼を言う。

「おい、ジャス、テメェにも言ってんだぞ。聞いてんのか」

「え?僕?」

 ジャスはキョトンとした。

「はあ、わかったよ」

 ジャスが首を傾げながらそう答えると、リンドーがおそるおそる言った。

「多分、アウル様は、花嫁様とクロウ様だけに優しくするのだと伝えているのだと思います」

「そうだ。よくわかってんじゃねえか」

 アウルは嬉しそうに言う。

「うちの花嫁より理解が早い」

「悪かったな」

 ジャスは面倒くさそうに言った。

「二人息が合ってるな。アウルがリンドーを花嫁にすれば全部解決するんじゃないか」

 クロウの話によれば、リンドーはお金持ちの魔法使いの花嫁になりたいらしいし。ならアウルでも問題無いんじゃないか。そう思ってなんとなく小声で呟いたが、どうもアウルには聞こえていたようだ。

「おい、今の何だ」

 ヤバい、咄嗟にジャスは思った。ついさっき距離を縮める努力するといったばかりなのに、また冷たい空気を出されてしまう。

 しかし、アウルはなぜか、ニヤリと笑って、ジャスの頭をポンポンと優しくたたき、上機嫌で自分の部屋に戻っていった。

「……なんだあれ?」

 ジャスが理解出来ずにポカンとしていると、リンドーがニコニコしながら言った。

「花嫁様が嫉妬したのが嬉しいんじゃないでしょうか」

「しっ…と?」

 ジャスは少し考えみててから、ハッとしてアウルの部屋に向かって叫んだ。

「違う、違うぞ!嫉妬とかじゃないからな!」

 しかし、ジャスの叫びは一切アウルに届かなかった。
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