媚薬魔法の優しい使い方

ドロドロ

「ところでアウル、怪我の方はもう大丈夫？」

　 クロウはアウルに近づいて、首の辺りの服をぺろんと捲った。

　アウルは迷惑そうな顔をしながらもされるがままになっていた。 

「少し痛みがあるが問題ねえ。もう一回くらいの魔法かけりゃ完全に治るだろ」

「本当だ。よかった」

　 クロウはニッコリ笑ってみせた。 


「それにしてもクロウ、ちょっとテメェ、リンドーに施してやったらどうだ。アイツ飯すらろくに食えてねえじゃねえか」 

　アウルがそうお節介のような事を言うと、クロウはあからさまに不機嫌そうな顔をした。 

「リンドーが好きであの生活してんだから、口出す事じゃないよ。女の子がこの国で技師をするのは大変な事なのは分かっててやってるんだから」

「っても、テメェの花嫁候補だろ」

「リンドーが勝手に言ってるだけだ。あの子は仮にも元貴族。見た目も悪くないし、本当なら妙齢の今、ちゃんとした貴族から婚姻の誘いだって来ているはずだ。元貴族の女の子ならそうして生きていくのが一番なんだ」

　 クロウは一気にそう言うと、顔をそらした。 そして、誰にも聞かれないような小さくて暗い声で呟いた。 

「なのに、俺のために取っておいているなんて馬鹿な事を。あの子を見ているといつも胸がかき乱される。あの子は、俺の胸の奥に隠しているドロドロした想いを映す鏡だ。あの子の想いは自分を見ているようで苛つく」 

「クロウ？何か言ってる？」

　 ジャスが心配そうに声をかけると、クロウはハッと顔をあげてもニッコリと笑ってみせた。

「あは、ごめんごめん。じゃ、アウルの怪我の様子も大丈夫そうだったし、もう帰るね」 

　そう言って、クロウはすっと姿を消した。 

「アイツ、何しに来たんだ？」 

　アウルとジャスはポカンとして、クロウの消えた場所を見つめていた。