媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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スケベ

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 その後、実家に行った。久しぶりの両親に、長く留守にしていたことを謝った後、店に出て手伝いをした。

「お前、なんだか薬品の抽出上手くなったな」

 父親に言われて、ジャズは照れくさそうに笑った。まあずっとアウルに手伝わされてたから、とは言わなかった。


「僕、しばらく家を出て帰らない。いい薬の師匠に出会ったんだ」

 夕飯時、両親が揃って食卓を取っている最中に、ジャズは宣言した。

 両親は共に動かなくなった。

「どうしたの?前まで薬の調合は苦手だからって避けてたのに」

 母親が心配そうに聞いた。

「前に、見つけたって言ってたいい薬屋さんの影響?」

「まあ、そうだね」

 ジャズは曖昧に頷いた。

 父親が、ゆっくり口を開いた。

「確かに、妙に手付きが良くなっていた」

「うん」

「お前の選択なら応援しよう。ただ、マリカが結婚の件でゴタゴタしている。今でなくてはならないのか?」

「うん、むしろ今だ」

 ジャスは真剣な顔で父親に向き合った。そして頭を下げた。

「わがままで申し訳ない」

 父親も母親も何も言わなかった。

 そのまま食事を終え、そのまま何も答えの貰えないまま就寝についた。



 次の日、ジャスが起きると父親も母親もいなかった。だだ、父親の作った漢方と母親の作った保存食、そして『師匠にご迷惑かけないように』とかかれた手紙が置いてあった。

 ジャスはそれらを抱きしめるように抱えると家を出た。



 そのままシバの家に向かった。

 家に向かうと、玄関にマリカが仁王立ちしていた。手には何やら袋を抱えている。

「やっぱり納得出来ない」

 頬を膨らませてにらみつけるマリカに、ジャスは困った顔を見せた。

「そんな顔しても納得しません!大体、何でジャスなの?大魔法使いは誰でもいいの?私と顔が同じだから、こっちでいいやって?」

 マリカはプリプリして言う。ジャスは優しく言った。

「アウルはマリカをちゃんと好きだったよ。好きっていうか、尊敬していたよ。マリカの調剤した薬を見て惚れ惚れしてたし」

「だったら、やっぱり何でジャスなのよ。ジャス調剤上手くないのに」

「それは言うなよ」

 ジャスは恥ずかしくなって言った。

「そんなこと、僕もよくわからないんだから」

「嫌。とにかく納得出来ない。せめて今日帰らなくてもいいじゃない。もう少しこっちにいてちゃんと話を聞かせてよ」

「いや、今日帰らないといけないんだ」

「どうして?早く帰らないと酷いことされるの?」

 マリカは目を吊り上げる。ジャスはブンブンと首を横に振った。

「ち、違うよ。早く帰って今日中にキスしなきゃ……」

 言ってからジャスはハッと口を抑える。マリカは真っ赤になっていた。

「違うんだマリカ、キスってその、したいとかじゃなくて……」

「ジャスのスケベ!!」

 マリカはジャスに、持っていた袋を投げつけて、シバの家の奥に行ってしまった。

「ス、スケベは無いだろ……」

 マリカが投げつけた袋から、何かが落ちていた。よく見ると、マリカが調剤したであろう粉薬がいくつも入っていた。何点かには『大魔法使い用』と書いてあった。

「騒がしかったね」

 シバが苦笑いで、家から出てきた。

「ちゃんとマリカを説得出来なくて悪かったよ。でも」

 シバはマリカの投げつけた薬を指さした。

「それ、夜なべして作ってたんだ。ちゃんと見送るつもりではあったんだと思うよ。ただ、頭と感情がついていかないんだ」

「そうか」

 ジャスは薬を拾った。そして家の奥に向かって叫んだ。

「マリカ、ありがとう」

 しかし何の音沙汰もない。ジャスはもう一度叫ぶ。

「なあ、出てきてくれよ。僕はもう行かなきゃだめなんだ。最後にこんな別れ方したくない」

 すると、奥の方の部屋から、渋々といった様子でマリカが顔を出した。

「……最後なんて言わないでよ」

 不貞腐れた顔で言いながら、部屋から出てきてジャスに近寄ってきた。

「最後のお別れじゃないでしょ。また会いに来るでしょ」

「うん、そうだ。シバとも約束したよ。今度はアウルと一緒に会いにくるよ」

「そうして。そしたら私、大事な弟を誑かした大魔法使いに、臭い漢方ぶっかけてやるから」

「アウルは皆に狙われるな」

 ジャスは思わず苦笑した。

「大丈夫。安心してよ。何も問題なんか無いんだ。マリカももとに戻れるし、僕だって、なんやかんやで幸せに生きていけるよ」

「本当?」

 まだ心配そうな顔をするマリカに、ジャスは力強く頷いた。

「わかった。信じるから」

 ようやくそう言ったマリカに優しくさよならを言い、ジャスは村を後にした。


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