媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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迷いの森

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 実家からアウルの家への道は、何度から行っているので迷うことは無いと思っていた。アウルの家までは深い森の中を行くが、ほぼ一本道で迷うことは無いのだ。

 いつもと違う、と思ったのは、同じ特徴的な大樹に三度巡り合った時だった。


「迷ったな」

 ジャスは困り果てて呟いた。

「何で迷ったんだろう。変な道入っちゃったかな」

 暗くなるまではまだ時間がある。ただ、暗くなってしまってはとてもじゃないが森を抜けれない。ただですら、狼の縄張りもあるというのに。

「いったん、戻ろう」

 ジャスは冷静になろうと大きく深呼吸してから、元の道へ戻った。

 しかし、戻れば戻るほど、どんどん知らない道になっていく。

「な、何で……」

 ジャスは歩き疲れて座り込んだ。水を飲んで休憩しながら少し考え込む。

「魔法……?」

 もしかして魔法がかけられている?自分を帰らせないために。誰が?ジャスの頭にパイソンの顔が浮かぶ。

「まさか」

 ありえる話だ。アウルの契を邪魔するため、もしくはジャスの命を狙って。銀の腕輪があれば魔法をかけられることは無いと言われていたが、直接魔法をかけなくても、こうして惑わすなどして命を狙うことはできる。

 ジャスは自分の考えに背筋が寒くなった。

 早くどうにかして森を抜けなくては。

 ジャスはたっぷり休憩を取ると、またあるき出した。


 しかし、いくら歩いてもアウルの家にたどり着くことはできなかった。


 辺りが薄暗くなってきて、ジャスは焦ってきた。

 と同時に、アウルに対して苛立ってきた。

「なんだよ、僕が逃げたときはすぐに見つけて連れ帰ったくせに。何で見つけてくれないんだ」

 自分勝手な事を思っているのはわかっている。でもつい口に出してしまうのだ。

「いつもみたいに魔法で襟首掴んで引きずってくれればいいじゃないか……」

 呟きながら、疲れ果てたジャスは木陰にしゃがみこんだ。

「今日中に帰ってきてほしいんだろ……迎えに来いよ……」

 妙に疲れが来るのが早い気がする。無意識に体力を削られるような凸凹道を歩かされていたようだ。ジャスはしゃがみこんだあと、横になった。

「疲れた……」

 そこは、あの、狼の縄張りだった。ジャスはそのまま眠ってしまった。なんだか、催眠にかけられたような急激な眠気だった。


 なにかの生き物のいる気配がする。狼だろうか。そうだとしたら逃げたほうがいいだろう。でもどこへ?

 ジャスは体力が尽きてしまった事で、逃げる気力も失っていた。

 どうせまた迷う。なら動かないでいよう。

 ジャスはそう思って、目を閉じたままにしていた。どうしてもだるくて目が開かない。



 しばらくしてふとフクロウの鳴き声が聞こえてきた。

 もう夜になってしまったのかとジャスが重たいまぶたを上げた。辺りは真っ暗だった。

「日付、変わっちゃったかな」

 そう呟いた時だった。


「ジャス!」

「……アウル……?」

 目の前に必死の形相をしたアウルが現れた。

 すぐさま眠気眼のジャスを乱暴におこした。

「テメエ、こんなとこにいやがって!」

「逃げようとしてなんかいないからな」

 ジャスは目をこすりながらまだ眠そうに言った。

「ちゃんと、帰るつもりだった。それだけは信じて……」

「テメエ何寝ながら言ってんだよ。催眠でもかけられたか。いや、腕輪があるのにそれはないな。迷いの森で疲れさせられたか」

 アウルはブツクサと言いながらジャスを魔法で持ち上げる。

「体力が落ちてる。すぐに帰るぞ」

 そう言ってアウルは何やら呪文を唱えた。



 ふとジャスが気づくと、そこはアウルの家で、布団に寝かせられていた。

「起きたか」

 アウルの声がして、ジャスは起き上がる。

「これを飲め。栄養剤みたいなもんだ」

 そう言って、水薬を差し出した。ジャスは素直に受け取って飲んだ。すぐに体力が回復していくのがわかった。

「やられた。迷いの森の魔法が解除されていた」

 急にアウルが険しい顔で言った。何のことか分からず、ジャスは首をかしげた。

「元々俺の家は、迷いの森っつー人を迷わせる魔力のある森の中にあるんだ。ただ、俺は人を招き入れるときだけ、迷わない魔法をかける。例えばテメエの実家と俺の家まで一本道で行けるように魔法をかけていた。

 なのに、誰かがその魔法を解除していたんだ」

 アウルは悔しそうに言った。

「そうか。だからいつもは迷わないのか」

 ジャスは納得するように頷いた。アウルはため息をついた。

「基本的に迷いの森に魔法をかける権限は、俺とよくここに来るクロウしか持っていないはずだ。ただ、例えばパイソンくらい魔力の強い魔法使いなら権限が無くても解除したりできるだろう。多分、あいつがテメエの実家からの一本道を潰しやがったんだ」

「やっぱり、そうなんだ」

 ジャスは頷いた。アウルはまた悔しそうに言った。

「もっと早く迎えに行くべきだった。なぜか探すのに手間取った」

「やっぱり、間に合わなかった?」

 ジャスが聞くと、アウルは静かに頷いた。

「……まあ、それはおいおい話す。まあテメエが狼に食われなかっただけましだ」

 そう言うと、アウルは「まだ寝てろ」とだけ言って部屋を出ていった。


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