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寝てる間に
しおりを挟む「おい、まだ寝てろっつったろ」
ジャスが部屋から出てきたのをみてアウルは顔をしかめた。
「別に怪我してるわけでも病気にかかってるわけでもないよ。疲れてただけだ」
そう言ってジャスはイスに座った。
「それにしても知らなかった。ずっと迷わないでアウルの家に行けたのは、魔法のおかげだったなんてな」
「まあ、そんな強い魔法でもない。大事なときに作用しなかったしな」
アウルはジャスと目を合わせずに言った。
「もっと早く、迎えに行くべきだった。一歩間違えば狼に襲われてたかもしらねえし、パイソンみたいな奴になにかされてたかもしれねえ」
アウルは悔しそうに言った。声に後悔が滲む。
「結局何もなかったから気にすんなよ」
ジャスは慰めるように言った。そして話題を変えようと村での事を話しだした。
「ねえ、今度はアウルもうちの村に来てよ」
「は?」
「姉の婚約者も、姉も、皆アウルに会いたいって」
「何だ、罠か」
「罠なんかじゃないよ。ただ、一発殴りたいってさ」
「ふん、返り討ちにするけどな」
そう言いながらも、アウルは少し微笑んでいた。
「まあ確かに、顔を出さねえと筋が通らねえよな。ちゃんと受け取ってやる」
「なんか不安だな。でも楽しみだ」
ジャスは笑ってみせた。
少しだけ、二人の間に沈黙が訪れた。そして急に真剣な顔になったアウルが、ジャスに向き合って真剣な顔で言った。
「こうなっちまったら仕方ねえから、テメエも覚悟を決めておけよ」
「覚悟……」
ジャスは思わず目をそらした。そして
「あー、あんまり考えたく無かったー」
と、わざと大げさに嘆いてみせた。
「やっぱり?やっぱりそうなるよねー」
「ジャス、やっぱり嫌か」
アウルは真剣な顔で、ジャスに問いかけた。ジャスはどうしてもアウルの顔を見ることが出来ない。
「ジャス、こっちを向け」
「覚悟は、してみる、けど」
ジャスの声は震えていた。
「少しだけ、もう少しだけ待ってくれ」
それだけ言って、ジャスは自分の部屋へ戻っていった。
ジャスは部屋で荷物の整理をしていた。
マリカに貰った薬を整理しながら、シバやマリカと話した時のことを思い出す。
結局自分は、花嫁になる覚悟なんてできていなかったんじゃないか。そう思って大きなため息をついた時だった。
「おい」
ノックなどすることもなく、アウルが部屋に入ってきた。
「何だよ。急に」
「少し考えたんだが、寝てる隙にやるっつーのはどうだ?」
「やるって」
「契のセックスた」
「はぁ?」
突然のご提案に、ジャスは開いた口が塞がらなかった。
「急に何言ってんだよ」
「何って、契の方法提案してやってんだろうが。深い催眠かけてやるから、寝てるうちに終わらせてやるよ」
「いや。いやいやいや」
ジャスは、今にも催眠をかけそうなアウルを慌てて止めながら言った。
「ちょ、えっ、僕さっき覚悟を決めるから待っててって言ったよね?」
「ああ。まあでもテメェが嫌がらねえ契の方法があるならそっちの方がいいだろ」
「ま、まあ……」
一応アウルなりの優しさなのは、ジャスにはわかる。
「で、でも寝てる間にっていうのはさすがに、ほら」
「何言ってんだ。今までも最後までやらなかっただけである程度色々と」
「はあっ!?何?今までも寝てる間にある程度何してたんだよ!?」
ジャスの詰問に、アウルは顔をそらして黙り込んだ。
「おい、黙るな!どうりでたまに起きると身体が重だるい日があると思ったら!」
「うるせえ!気づかなかったんならいいじゃねえか!」
「良くねえよ変態!」
「いや、良さそうだったぞ。寝てるのに色っぽく喘ぐし、すぐに出すし……」
「その良いじゃねえっ!つーかやめろ喋るなそれ以上!」
喚いてからジャスは大きなため息をついた。そして、ゆっくりとアウルの目を見て説明するように言った。
「ああ、もうわかってる。そろそろ僕だってわかるよ、アウルなりに気を使ってる事くらい。でも、その、寝てる間に終わらせるっていうのは、確かに僕は怖くないのかもしれないけど、ちょっと嫌なんだよ」
「何でだ」
「……うーん。何でだろう。なんか、かなり重要なことなのに、知らないうちに終わってるのって、なんか嫌じゃない?」
ジャスの言葉に、アウルは首を傾げる。
「よく分からねえ。つまり、ちゃんと契を意識してえって事でいいか」
「んー、まあそうなるかな」
ジャスの言葉に、アウルは何かを考え込むようにした。そして何かを納得するように頷くと、部屋から出ていった。
「大丈夫かな。分かってくれてんのかな」
ジャスは心配そうに部屋のドアを眺めていた。
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