3 / 58
それはおかしいよ!
しおりを挟む次の日、智紀は学校の帰りに本屋に向かった。
今朝さち子から聞き出した、BL漫画を探しに来たのだ。
しかし、未知の世界すぎて、どこを探せばいいかすらわからない。在庫検索をしようとするも、端末が故障中でできず、これは店員に聞くしかないのか、と智紀が意を決した時だった。
本屋の入り口の近くで、自分と同じ高校の制服を着た、黒髪ショートカットの女子を発見した。 同級生の 幸田 梨衣のようだ。彼女なら知ってるかもしれない、と、智紀は声をかけることにした。
「ねえ、幸田さん?」
智紀が声をかけると、幸田はビクッとした顔をした。あまり話もしたことがないので警戒されても仕方がないのかもしれない。
「あー、竹中くん。何か買いに来たの?」
「うん、ねえ幸田さんって、BLわかる?」
「……BL……?」
突然、幸田の顔が険しくなった。
「何で私が知ってると思ったの……?」
「え?」
「私がオタクっぽいから詳しいと思ったの?」
「え?」
幸田の機嫌が悪くなっているのは明らかだった。
「いや、その。ごめん」
確かに、幸田はいつも教室の隅で何やら本を読んでいる地味なタイプだ。若干オタクっぽいとは思っていたのは事実だったので、素直に謝る。
「でもその、どっちかって言うと、女子ってBL詳しいのかなあって思っ……」
「偏見です!」
幸田はきっぱりと言った。
「いい?女オタクが全員BL好きだとか思わないでくれる!?私は圧倒的に男女!ノマカプ派なの!なのに同人誌界では腐の奴らがでかい顔しやがって……。何が公式カップルだ!公式はヒロイン一択だろうが!!」
「ご、ごめん何言ってるかちょっとわかんねえけど、少し静かにしたほうがいいと思う!」
智紀が慌てて止めると、幸田はハッとしたように口をつぐんだ。
「ごめん、ちょっと興奮して」
「いや、うん、大丈夫」
何が何だわかんないけど、オタクっぽいと思われたのが嫌だったわけでは無さそうだ。
「いや、その。知り合いに、漫画本買ってくるの頼まれてさ。それがBLだったから、BL漫画ってどこに置いてあるのかなって知りたかっただけなんだ」
「ああ、それならこっち」
散々ディスって知ってるのかよ!と智紀はツッコミたくなった。
「大体が、少女漫画コーナーの近くにある事が多いよ。ほら、この辺。何ていう題名?」
なんやかんやで詳しい幸田に案内されて、BL漫画コーナーについた。しかし思ったより過激な表紙が並んでいて、同級生とこの空間にいることが急に恥ずかしくなり、思わず智紀は顔をそらした。
「あー、えっと。『初恋の杜』ってやつ」
「ああ、有名だよね。あれ。何年も前からのベストセラーだよ。泣けるBLって」
「詳しいね」
思わず智紀が言うと、幸田は今度は怒らずに肩をすくめただけだった。
「あはは、ゴメンさっきは興奮しちゃって。私、二次創作のBLは地雷で、てっきりそっち系かと思っちゃって。よく考えたら本屋に来てるんだから商業BLに決まってるよね」
言い訳するように幸田は笑うが、ニシソウサクだかショウギョウだか、智紀には何が何だかよくわからなかったので、適当に「そうだね」と頷いた。
女子の話がよくわからない時は、とりあえず同意しておくのがマナーだ。
幸田は本棚を探しながら続けた。
「私さ、面倒なくらいの原作至上主義でさ。だから二次創作といえども公式でくっつかない二人をくっつけられると腹が立つわけよ。だから、公式でくっついてる商業BLは全然おっけーなんだよね」
「なるほど。わかるわかる」
「竹中くん、適当に相槌打ってるでしょ」
あっさりバレて、智紀は思わず舌を出した。バツの悪そうな顔をする智紀を見て、幸田は笑った。
「いーよ別に。関係ない話だし、聞き流して」
そう言って、幸田は棚から一冊取りだした。
「ほら、これ。一巻だけでいいの?ピュアピュアであんまり助平じゃなくて、初心者向けだよ」
受け取ったその漫画本は、淡い水彩画のような絵で、少女漫画のような可愛らしいものだった。棚に並んでいた過激な表紙のものとは偉い違いだ。
「サンキュ。とりあえず一巻だけ買っていくよ」
智紀は丁寧に幸田にお礼を言った。
「その漫画頼んだのって、妹さんとか?」
店を出ながら幸田がたずねてきた。
もしレジに持っていくの恥ずかしいなら代りに買おっか?と提案され、好意に甘えることにしたのだ。
「あれ?幸田は何も買わねえの?」
「ん、本屋、ただブラブラするだけに入る事多いから。で、さっきの質問の答えは?」
「うっ」
智紀は思わず呻いた。妹なんていないけど、いるってことで誤魔化した方がいいんだろうか。それとも……。
「あの、引くなよ」
「何?」
「俺のばあちゃんが」
「おばあちゃん?」
「うん、ばあちゃんが、入院中にハマったらしくてさ」
「ふうん、まあ入院中って暇だもんね」
幸田はウンウンと頷いた。
「……引かないんだ?」
「引くって?」
「いや、俺のばあちゃん、もう80歳だぞ」
「うん。それが?」
「いや、うん、いいや」
あまりにも幸田の反応はケロリとしたものなので、何だかさち子がBLにハマったことも別におかしい事では無いような気がしてきた。
「そうだよな。何かにハマるって、別に年とか関係ねえよな」
「何?竹中くんは、80歳でBLにハマるなんておかしいって思ってたんだ」
ちょっとイジワルな顔で、幸田が顔を覗き込んできた。
「古い古い!今はそんな時代じゃないよ~」
「そうだよな」
「そうだよー」
「じゃあばあちゃんが、俺と兄貴でイチャイチャしてくれって頼んでくるのも、そんなにおかしいことじゃねえよな?」
「それはおかしいよ!!」
幸田が勢いよく突っ込んだ。
10
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる