祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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全く聞き取り出来なかった

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 家に帰った智紀は、チラリとさち子の部屋を覗いだ。

 今日はヘルパーさんはおらず、母が食事を取らせていた。

「ああ、智紀おかえり」

「ただいま。ばあちゃんもただいま」

「おかえりー」

 さち子は声を張り上げる。元気そうなさち子を見て、ホッとしながら自分の部屋へ向かう。


「おう。おかえり」

 部屋の前に祥太が立っていたので、智紀は目を丸くした。

「え、珍しい。こんな早い時間に帰ってるの。どうしたんだよ、とうとう服装咎められてクビになった?」

「俺みたいな優秀な奴が、服装ごときでクビになるはずないだろう」

 祥太は鼻で笑った。

「たまには早く帰ってばあちゃんと話をしようと思ってな。お前が言ってた、俺とお前がイチャイチャするのを見たいとかいう謎希望について、本人から直接聞き取りしねばならん」

「聞き取りって」

 相変わらずの祥太の言い様に、智紀は苦笑するしか無かった。

「で?聞き取りは出来たの?」

「いや」

 祥太は渋い顔になった。

「ばあちゃんと話をしていたら、普通の雑談になってしまって、全く聞き取り出来なかった。そうしてるうちに、母さんが、食事させるから退けと言ってきたのでこの有り様だ」


 弁護士として優秀なほど弁が立ち、日替わりで女のコの口説けるほど口が上手い祥太といえども、さち子にはなぜかめっぽう弱い。智紀ほどではないが、祥太もかなりのおばあちゃんっ子だ。


「まあいい。部屋に入って話をしよう」

 祥太に促されて、智紀は自分の部屋に入る。

 散らかった部屋のベットの上に腰を下ろすと、すぐに祥太はスマホを取りだした。

「今朝送ったアカウントは見たか」

「うん。とりあえず20歳以上の人、ってことは分かった」

「21歳の大学生だ。うちの近くの私立大学に通う女性だ。あと、水曜日と金曜日に、牛丼屋でバイトをしている」

「わぁ……」

 あまりの素性の判明具合に、智紀はドン引きした。

「そこまでわかるの」

「知り合いにSNSからの特定の得意な女性がいてな。前にやり方のコツを聞いたんだ」

「怖……何なの特定の得意な女性って……。俺SNS辞めようかな……」

 智紀はわざとぶるぶると震えてみせた。

 そんな智紀の事は気にせず、祥太は智紀の部屋のカレンダーを確認する。

「明日の夜、用事無いな?明日一緒に牛丼屋に張り込んで、この女子大生に会いに行く」

「えっ」

 智紀は更にドン引きした。

「待ち伏せして、急に会いに行くの?さすがに怖がられるだろ。ストーカーじゃん」

「ふむ……。確かに女性に恐怖を与えてしまうのは本意ではない」

 素直に祥太は智紀の意見に頷いた。


 代替の作戦を考えている祥太を後目に、智紀はスマホを取りだした。

 彼女の楽しそうに色々呟いているアカウント。フォロワーとも色々やり取りしているようなので、この人は結構社交的なタイプなのではないだろうか。

 そう思った智紀は提案してみた。

「なあ、このアカウントに、直接メッセージ送ってみるのは?」

「不審がられる。知らない男から急にダイレクトメッセージが来たら、内容はどうであれ警戒するだろ。新しいアカウントを作って接触してもいいが、作られたばかりのアカウントから、というのも怪しすぎる。だいだい、こういうのはまずは同類だと思われないとブロックされる可能性が高い」

「同類、かあ」

 そう呟いた途端、ふと幸田の事を思い出した。

「なあ兄貴、ちょっと不審がられ無さそうな人に、心当たりがあるんだけど」


 智紀の脳内の幸田が『だから、こっちのジャンル詳しくないんだってば!』と叫んだんだ気がしたが、無視することにした。
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