祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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しっかりした人

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 数日後のある日曜日、智紀は幸田と一緒に、ちょっと高級な喫茶店の個室の中にいた。


「ねえ、本当にここ大丈夫?コーヒー1000円だってよ。マックとかの方良くない?」

「大丈夫。兄貴の奢りだから。協力してくれたお礼だから」

 余裕そうな顔で幸田にそう言って見せたが、智紀もメニューを見ながら内心ドキドキしていた。

 肝心の祥太は、仕事が入ってこの集まりに遅れてくるようだ。

「ところで、どうだった?まーりんさん」

 智紀は、まだキョドキョドして店内を見渡している幸田にたずねた。


 今日は、☆まーりん☆と待ち合わせしてここに集っているのだ。


 数日前に、智紀は幸田に頼んで彼女に接触を図ってくれないか、と頼んでいた。幸田は案の定一瞬怯んだが、「ま、協力するって言ったしね」と承諾してくれた。

 幸田は、自分のアカウントから☆まーりん☆にフォロー申請した後、「友達のおばあちゃんが最近BLにハマったらしいんだけど、もしかして、まーりんさんが沼らせた人ですか?」とダイレクトにたずねていた。

 もうちょい遠回りに聞いたほうが良かったんじゃないかと、智紀はハラハラしていたが、案外これがキッカケでとても仲良くなったようだ。


「まーりんさん、とっても優しいし、話しやすいし人なんだ!」

 たった数日で、幸田はすっかり☆まーりん☆の虜になっていた。

「今日会う時もね、本当は『未成年がネットの人と不用心に会うものじゃない』って言っててね。しっかりした人なんだなぁって思ったよ。まあだからそこ今日合う約束取り付けるのに相当苦労したけどさ……」

「それは本当にありがとうございます」

 智紀は丁寧に頭を下げた。

「きっとちゃんとした人なんだね」

「多分、デキる女!大人の女!って感じの人だよ!スーツ着て都会のビル歩いちゃう系の……あ、店の前に着いたって」

 幸田はスマホを見ながらウキウキと言った。

 そんな幸田を見ながら、智紀も緊張してきた。

 一体どんな人なんだろうか。


 そう思っていた時、智紀達の個室の前に誰かがやって来た音がした。

「失礼しまーす」

 そんな声と共に入ってきたのは……。

「わあ!はじめまして~リンリンちゃん?ヤバい可愛いじゃーん!」

「は、はじめまして。まーりんさん?」

「そ!まーりんです!」

 テンション高く入ってきたのは、どこからどう見てもギャルだった。

 明るい金髪、濃いアイメイク、肩を出したTシャツに細いスキニーパンツ。

 智紀は勢いに飲まれて、呆然と彼女を見つめていた。

 まーりんは智紀の前に座ると、ニッコリと微笑んだ。

「ああ、あなたがリンリンちゃんの友達で……さっちんのお孫さん?やだぁ、超イケメンじゃん!」

「リンリン……さっちん……」

 誰一人知らない。智紀はうまく相槌を打てないでいた。

「あ、リンリンは私のアカウント名ね」

 幸田が注釈をつけてくれた。そういえば幸田の下の名前は「リイ」だったな。

「さっちんは、竹中さち子さんの事。私、おばちゃん入院中にさち子さんの事そう呼んでたんだ」

 まーりんもそう注釈をつけてくれる。

「ああ、ばあちゃん、さっちんって呼ばれてたんだ」

 智紀は、ギャルにさっちんと呼ばれながら交流するさち子を想像して、少し笑ってしまった。

「はじめまして。竹中智紀です。祖母がお世話になりました」

 改めて丁寧に智紀がまーりんに頭を下げると、まーりんは少し悩むように黙り込んだ。

「まーりんさん?」

 急に黙り込んだギャルに、智紀は不安になった。しかしすぐにまーりんはまたニッコリと笑った。

「ああ、ごめんね。うん、そっちが本名名乗ってるのにこっちがアカウント名じゃ失礼だなって思ったの。改めまして、私は  狭山サヤマ 茉莉花マリカです」

 まーりん、改め茉莉花がそう挨拶した。

 幸田の言う通り、しっかりした人なのだろう。


「あ、今日は急に来てもらってありがとうございます。本当は兄貴も来る予定で……」

 智紀がスマホの時計をチラリと見ながら、オドオドと話し始めた時だった。


「遅れて申し訳ございません」


 個室のドアが開いて、祥太が入って来た。

「すみません、急に外せない仕事が入ってしまって。遅れました。竹中祥太です」

 爽やかな営業フェイスで入っていた祥太を見て、幸田と茉莉花は二人同時に立ち上り、口を揃えて声を上げた。

「……二次元が三次元に存在してる!!」

「青い髪が似合う三次元が存在してた……」

「は?」

 智紀は二人の興奮状態の理解が出来ずに呆然としながらも、青髪とギャルが同じ空間にいるのはちょっと絵面が濃いな、と思っていた。

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