祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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自己満足ですよ

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「じゃあさ、ほっとけばいいんじゃない?」

 茉莉花がアイスティを啜りながらケロっと言った。

「さっちんだってさ、軽い気持ちで言ったんだと思うよ。マジでお二人さんがキスとかしたらびっくりしちゃうんじゃない?とりあえず孫二人仲良くしてくれればいいなぁ、くらいの軽い感じ?」

「それは、ちょっと思いました」

 智紀は口を挟んだ。

「最近俺、あんまり兄貴と話したりしないし。まか元々そんな仲良し兄弟ってわけでもないから、ばあちゃん気にしてたのかなぁって」

「でしょ?だいたい、さっちんは幸せだよ?こんな風に気にしてもらっちゃってさ。邪魔者扱いされて無視されてるご老人もいっぱいいる中でさ」

 茉莉花ドライに言い放つ。

「確かにそうですね」

 祥太はあっさりと頷く。

「ただ、俺が何かをしたいんです。自己満足ですよ」

 それは、有無を言わせぬ言い方だった。

「もちろん、お礼はします。茉莉花さんのお時間を取らせるんですから」

「別にいいよ」

 茉莉花は長いため息をつくと、祥太と目を合わせずに言った。

「さすがお兄様、弁護士さんは人を丸め込むのがうまいよね。わかった。何か考えてあげる」

 そう言って、スマホを取りだした。

「これ、私の連絡先。授業とバイト無い時なら協力してあげるから。ま、弁護士に恩を売っておくのも悪くないよね」

「そうですね。何かをあったら格安でお受けいたします」

 そう言って、祥太は茉莉花の連絡先を登録した。


 その時、祥太のスマホが鳴った。

「ちょっと失礼」

 祥太はスマホを持って個室を出ていく。

「お仕事の電話かな」

 幸田が呟いた。

 茉莉花は、祥太を見送るとはぁーとため息をついて言った。

「マジか。気楽にオススメした漫画がこんな事になってるなんてね」

「すみません、何か」

 智紀は思わず謝ったが、茉莉花は笑って首を振った。

「いいのいいの。こんな事言っちゃなんだけど、ちょっと面白いしね」

「わかります。私もちょっと面白いって思っちゃいました」

 幸田は茉莉花に共感してきた。面白がらないでほしい、と言いかけたが、智紀はふと別なことを思い立って言った。

「狭山さん、もしよかったら、今度ばあちゃんに会いに来てくれませんか。ばあちゃん、狭山さんに会ったら楽しいんじゃないかと思って」

「えー、マジで!?行く行……あ、いや……」

 茉莉花はすぐに目線をそらして呟くように言った。

「ごめん、やめとく。なんか、ちょっと違うから」

「違う?」

「いや、さっちんに会いたくないとかじゃないんだけど。ちょっとこっちの筋の話」

「そうですか」

 智紀はそれ以上聞かなかった。人には話したくないこともある。

「それはそうと。ここのアイスティ超美味しいからおかわりしてもいいかな?ちょっとお高いからお兄様におねだりしてもいい?」

「あ、いいと思います。一応兄貴に声をかけてきますね」

 智紀はそう言って、個室を出た。個室の外では、祥太がまだ電話中だった。大変な案件なんだろうか、と智紀がそっと近づく。

「……わかった。今から会いに行く」

『……っ……。……』

「わかっている。愛してるよ」

 ――彼女か。

 智紀はため息をついた。日本人で照れずに『愛してる』と言える男はなかなかいない。 祥太は電話を切ると、智紀と目を合わせた。そして、小さくフッと笑うと、智紀にお札を握らせた。

「俺は今から帰る。お嬢様達に十分にご馳走して帰らせておいてくれ」

「あ、ああ……」

 智紀は呆然として、颯爽と立ち去る白いスーツの男を見送った。


  万札を握りしめて個室に戻ると、幸田と茉莉花が楽しそうに話をしていた。趣味が合うんだろう。何やら智紀にはわからないけど楽しそうなのは何よりだ。

「そういえば、梨衣ちゃんはこの漫画見てる?」

「見てます!私ヒロインのマユちゃん大好きで!!最近出てこないから寂しいんですよー。早く主人公との絡み見たいんですー」

「あー……そう?そっかぁ。梨衣ちゃんはヒロイン派かぁ」

「ヒロインはヒロインです」

「あー、うん。そっちね、そっち。私は相棒のシュウが好きで」

「ああ、主人公とシュウはいいですよね!」

「うん……そうだね」

 よくわからないけど多分ちょっと二人の雲行きが怪しくなってきた気がする。智紀は慌てて二人の間に割って入ってメニューを開いた。

「兄貴、先帰るって。軍資金貰ったから、なんか追加注文しようぜ」

 わーい、お兄様大好きーと現金な歓声を上げながら、二人はさっきの変な雲行きはどこへらや、楽しそうにケーキを注文しだした。



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