祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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寿命が伸びる

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 その日の夕方、智紀が家に帰ると、意外にも祥太が先に帰っていた。

 母親と一緒にさち子の身体を拭いているところだったようで、タオルと洗面器を持ちながら帰ってきた智紀に、「おう」と軽く声をかけた。

「意外に遅かったな」

「てか兄貴帰って来るの早くね?彼女とデートじゃなかったの」

「彼女?何の話だ」

 祥太はタオルをビタビタと叩きながら訝しげな顔をする。

「え、だって電話で愛してるって……」

「あ?ああ、あの子は別に彼女じゃない。愛してはいるが。ちょっと会ってすぐに解散した」

「うえっ」

 やっぱりこの男は純情なんかじゃない。ドン引きしている智紀をよそに、祥太はタオルを持って洗面所へ行ってしまった。


 智紀はさち子の部屋に向かった。

 帰りに、幸田と茉莉花の勧めで、初恋の杜の2巻を買ってきたのだ。他にも色々オススメされたが、何だかよくわからないので一旦検討させてくれと逃げるように帰ってきた。

「ばあちゃん、ただいま」

「おう智紀か。おかえり」

「ばあちゃん、兄貴に身体拭いてもらってたの?」

「ああ、それにしても相変わらず祥太も不器用だね。ママさんのほうがずっと上手だ。でも、やってあげるっていうから、仕方なくこのババアの肌を貸し出してやってるんだ」

 辛辣に言いながらも、さち子はちょっと嬉しそうだ。

「ま、でも祥太の体拭きもなかなか気持ちいいね。力がこもってる」

 そう言うさち子は細い腕を布団から出して、空を切るように動かした。

「昔、祥太と智紀の身体を洗ってあげた事を思い出すよ。そういえば、智紀も赤ちゃんの頃、祥太に洗ってもらったことあったね」

「そうかぁ。じゃあばあちゃんと俺、お揃いだな。兄貴に洗ってもらった者同士だ」

 智紀は笑いながら、買ってきた2巻を取りだした。

「ほら、これ2巻。今日さ、狭山茉莉花さんに会ってきたんだ」

「サヤマ……マリカ……?」

「あれ?知らない?入院してた時に隣のベットにいた人のお孫さん」

「ああ、あの亮子さんのとこの。もう歳のせいか名前が覚えられなくてね」

 さち子が申し訳無さそうに言いながらも、大事そうに2巻を受け取り、枕元に置いてあった1巻を智紀に差し出した。

「ありがとう。こっちの方は、仏壇に置いておいてくれるかい」

 BL本を供えられる爺ちゃんの気持ちになると何とも言えない気持ちになるが、とりあえず言われたとおりに1巻を仏壇に置いて手を合わせる。

 ご機嫌な顔でブックスタンドに漫画本を乗せながら、さち子はふとたずねた。

「祥太も、なんか亮子さんのお孫さんに会ってきたって言ってたけど、一緒に行ったのか?」

「ああ、うん」

「そうかそうか。祥太と智紀が一緒にお出かけなんて、何年ぶりだろうね」

「一緒に出かけたわけじゃないよ。別々に行って、別々に帰ってきたんだ」

「そうかい」

 少しだけさち子は残念そうな顔をしていた。

「何でだい?」

「え、あの、行きは兄貴仕事で遅れたし、帰りも用事があったみたいで先に帰って……」

「違うよ。何で逢引するなら私に言ってくれなかったんだ。今頃仲良くしてるのかなと思えば寿命が伸びるのに……」

「逢引じゃねえよ」

 智紀は呆れた声で突っ込んだ。

「まあ出来たらやっぱり私の目の届く範囲でイチャイチャしてもらったほうが寿命が伸びそうなんだが」

「てか今日も別にイチャイチャしてきたわけじゃねえから」

 若干話の通じないさち子に苦笑いしながら、智紀はさち子の部屋を出た。


 自分の部屋に行き、ふとさっきのさち子の細い腕を思い出した。

 ――細かったな。

 いつからあんなに細かったんだろうか。入院中?いや、もしかしたら入院前からだったのかもしれない。

 そう言えば、今日会った茉莉花は、おばあちゃんは一人で歩けるし、と言っていた。きっと、さち子より若くで元気なのだろう。なんだかそれは羨ましい。

 本当に、本当に寿命が伸びるなら。

 どうせわからないんだし「イチャイチャしてきたよ」と言ってやれば良かったかな、と若干後悔しながら、智紀はベットにダイブした。



 茉莉花から、ある提案が来るのは、それから一週間後の事だった。



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