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提案書になります
しおりを挟む「こちら、私の提案書になりまーす」
あの初対面の日から一週間後、茉莉花は智紀と祥太に連絡を入れてきたので、また以前と同じ喫茶店で落ち合うことにしたのだ。
幸田も、面白そうだからと来たがってはいたが、小テストでひどい点数を取って補習の目にあっていたので来れなかった。
「梨衣ちゃんに勉強教えてやれよ。お前だって色々はじめの頃漫画本の事とか教わったんだろう」
祥太は智紀を叱るように言ったが、智紀は口を尖らせた。
「でも、幸田さん、学校では話しかけるなって言うんだ」
話しかけようとすると必ず睨んでくる。あれにはどうも慣れない。
「でも、梨衣ちゃんの気持ちわかるよー。私もさ、高校までスクールカースト下位の地味ガールだったからさ。弟ちゃんみたいなモテそうなイケメンと仲良くしたら、弟ちゃん狙ってる人に何て思われるかと思っちゃって気が気じゃないんだよねー」
茉莉花がウンウンと勝手に理解して頷いた。
「別に俺はモテててねえし」
智紀は不貞腐れてそっぽを向く。
「ま、智紀の事は放っておこう。茉莉花さん、提案について教えてください」
祥太が言うと、茉莉花は自作の提案書を二人に渡してきた。
「写真集?」
「そうです!!」
茉莉花はキラキラした顔で頷いた。
「さっちんは、君たち兄弟がイチャイチャするところを見たい、そのイチャイチャっていうのは、勿論ラブラブ恋人っぽいイチャイチャなわけでしょ?でも君たちはしたくないわけだ」
「まあ」
そう言われると、智紀は我儘を言っているみたいでちょっと罪悪感を感じてしまう。しかし、祥太はケロリとした顔で「そのとおりだ」と頷いた。
「だ・か・ら、イチャイチャしているように見せかけた写真集を作って、さっちんにプレゼントするのはどうかな?ほら、よく孫の晴れ姿の写真とかおじいちゃんおばあちゃん棚に飾ってたりするじゃん?アレのBLバージョンっていうか」
「ほう」
祥太は茉莉花の作った提案書を見つめながら、真剣に聞いている。
「で、まあ普通に撮影してもいいんだけど……。2ページ目をご覧くださぁーい」
茉莉花に促されて、智紀と祥太は提案書をめくった。
「コ、コスプレ……?」
「そ!お二人さん、良かったたらコスプレしない?」
茉莉花の言葉に、思わず智紀と祥太は顔を見合わせた。
「コスプレって、何の?」
「勿論、初恋の杜の登場人物、ハルとナツでしょ」
そう言って、茉莉花は、自分の私物であろう初恋の杜を取りだした。
「まあコスプレって言っても、初恋の杜は異世界ファンタジー系じゃないから衣装もエグい手間がかかるやつじゃないし。むしろ普段着っぽくてオッケーなわけ。髪型とメイクをちょいちょいするだけで結構イケると思うんだよね。二人共イケメンだし」
そう言って、茉莉花はページをめくった。
「そうだなぁ、お兄様が主人公のハルで弟ちゃんが美少年のナツかなー。まぁ逆でもいいけど……」
「待って、待って」
智紀は慌てて茉莉花の説明を止めた。
「ごめん、えーっと、俺ちょっと詳しくないんだけど、コスプレはちょっと大袈裟じゃない?」
「ナルホド、弟ちゃんはコスプレするよりお兄様とキスしたい派か」
「語弊!!」
智紀は真っ赤になった。
「俺はキスしたくない派だから、続きのプレゼンを頼みます」
祥太の方は一切動じること無く茉莉花に続きを促した。そうなると智紀も黙るしか無い。
茉莉花は意気揚々と続けた。
「ま、写真ならさ、角度でどうとでもなるじゃない?別にいちゃついて無くてもいちゃついてるように出来る写真も撮れるし、フォトショ使えば色々加工も出来るし。
BLって一種のファンタジーだからね。リアルなイチャつきよりもある意味加工されたイチャつきの方がキレイだったりするし。まあ好みは人それぞれだから、さっちんの好みかどうかはわからないけど」
「あの、ごめん何回も」
智紀は往生際が悪く口を挟む。
「あの、別にコスプレが嫌とかじゃなくてですね。その、ばあちゃんの基本的な感情としては、やっぱり俺と兄貴に仲良くしてもらいたいってことなんだと思うんだ。だからその、作られたイチャイチャって、何か違うんじゃないかなって……思います」
一応、せっかく茉莉花が提案してくれたことなのであまり真っ向から否定するのも良くない気がして、必死で言葉を選ぶ。
智紀の訴えに、茉莉花はにやりと笑った。
「弟ちゃんの言う通り。でもさ、こういうのやる事に意味があると思うんだよね」
「やる事?」
「前にお兄様言ってたじゃん。二人共、年も離れてるし共通の話題も無いって。でも、これをやったら共通の話題も出来るでしょ?それって、自然に仲良くする機会になるし、多分さっちんにもそういうの伝わると思うんだよね」
「な、成る程」
茉莉花の提案は、思った以上にちゃんと考えられているようで、智紀は感心してしまった。確かに最近は、さち子の件でよく話すようになっている。
「費用の事も聞きたい。あまり俺は詳しくないが、コスプレ写真集を作るとなると、結構費用がかからないか?」
祥太は真剣な顔でたずねる。こちらはこちらであまりにもビジネスライクすぎやしないか。
茉莉花は提案書の次のページをめくるよう二人に促した。
「こちらの一番上に載ってるの、私のコスプレ専用アカウントなので、よかったら後で見てね」
「コスプレ専用アカウント?」
「うん、趣味に合わせていっぱいアカウント持ってるからさ。私、コスプレ趣味なんだ。だから、材料も機材もノウハウもあるよ。だから二人は費用はいらない」
「それは駄目だ」
祥太はすぐに険しい顔で言った。
「ちゃんと費用は払います。こちらが頼んでいる立場なのに、茉莉花さんのノウハウにタダ乗りするわけにはいかない。ちゃんと予算を提示してもらいたい」
「あー……その、違うんだ……」
茉莉花は、祥太の勢いに、ちょっと言いづらそうに目を泳がせた。
「その、費用は、いらないのでぇ……その写真量産させてもらって、イベントで頒布させてもらえないかなあって……」
「は、頒布?」
智紀はぽかんとして聞き返した。何やら嫌な予感がする。
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