祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

文字の大きさ
17 / 58

ウィッグ必要か

しおりを挟む

 ※※※※

「姫って……!ウケる。梨衣ちゃん、それは災難だったねえ」

「本当ですよ!今後は竹中兄弟どっちとも学校の近くで話しません!」


 ここは茉莉花の通う大学のサークル棟の一室、写真サークルの部屋である。


 智紀と幸田は、茉莉花に呼ばれてここに来ていた。祥太は仕事でまた遅れてくる予定だ。


 智紀は、楽しそうに話している二人を横目に、ちょっと口をとがらせて言う。

「別に俺とは話しても問題ねえと思うんだけど。俺は別に兄貴みたいに派手じゃねえし」

「お兄さんと比較しないで」

「ねえねえ梨衣ちゃん、弟ちゃんって学校でどんだけモテるの?」

「それがね、ヤバいんっすよ」

「だから、モテて無いんですってば」

 智紀はうんざりと言う。


「おー、何この若い子たちの集まり」

 そう言って、部屋に一人の男の人が入って来た。

 長い黒髪を一纏めにした、いかにも芸術家風の人だ。

「あ、  米村ヨネムラっちー、ちょっと若人と話があって場所借りてまぁす」

「あーはいどうぞー。どうせ誰も来ねえからな」

 だるそうに言いながら、その米村と呼ばれた人は、のそのそと部屋の隅にある四角い黒いテントの中に入っていった。茉莉花曰く、写真の現像用の簡易暗室らしい。


「ところで弟ちゃん、私のアカウント見てくれた?梨衣ちゃんとお兄様はフォローしてくれたみたいなんだけど」

 茉莉花か、ウキウキとたずねた。智紀は慌てて言う。

「あの、見ました。ただ、フォローとかはしてないだけで」

 何となく、偏見は無いつもりだったけど、コスプレアカウントをフォローするのは気が引ける。それも、ただのコスプレならまだしも、少し胸を強調したような写真やスカートの短い写真もあるものだら、年頃の男子高校生がフォローするには敷居が高い。

「でも、すごいですね。コスプレって。男の人にもなれるんですね」

「ふふ、原型無いでしょ。人外にもなれるよー」

 茉莉花は自慢気に答えた。

「まあでもあれはマジで気合入れて衣装もお金かけてるやつだからね。初杜のやつは、多分そこまでお金かかんないはず!ウィッグと、衣装も古着の浴衣を加工する方向でいこうと思ってるんだ」

 ペラペラ言いながら話を進める茉莉花に、智紀は、あー、とか、うーん、とかの合いの手をいれることしか出来ないでいた。

 そんな情けない智紀に、幸田は見ねて助け舟を出した。

「ウィッグとかメイクとかいらなくないですか?ナチュラルの方が、竹中くんのおばちゃん世代にはウケそうだし。やるとしても、初杜のシーン再現、くらいで」

「なるほど、それもありかもー。梨衣ちゃんいいねぇ」

 意外にも茉莉花はあっさり提案を受け入れた。

「でも、ウィッグはほしいんだよねー。やっぱ弟ちゃん、ハルをやるにしてもナツをやるにしても、ちょっと髪の長さ足りないくない?」

「まあ、漫画の男子って結構な毛量ですもんね。それに合わせるとやっぱメイクも必要かぁ」

 幸田はあっさり寝返って茉莉花に同意する。

 おいおい、寝返るにしても早すぎだろ。やっぱり自分で何か意見するしかないようだ、と智紀が必死で頭を回したその時だった。


「遅くなりました」

 祥太がそっと部屋のドアを開けて入って来た。

「あー、待ったよー。あれお兄様、今日はずいぶん地味じゃない?」

 茉莉花が、やって来た祥太の姿を見て目を丸くした。


 今日の祥太は、トレードマークの青髪ではなく、ごく普通の黒髪で、スーツもよくあるビジネススーツだ。


 祥太は肩をすくめてため息をつきながら説明した。

「今日は裁判帰りなんですよ。うちの事務所のボスが『俺の目の黒いうちはそのふざけた格好で裁判所の敷居を跨がせるわけにはいかない』って煩くて。全く、今どき人の服装ごときに口出しする、器の狭いボスでね」

「兄貴を雇ってる時点で器は広いだろ」

「ボスさん、まともな人なんだ……」

 智紀と幸田のツッコミを無視して、祥太は黒髪を引っ張ってみせた。黒髪はウィッグで、中からいつもの青髪が現れた。

「まあ、大学の部外者なんで、ここに来るのもあんまり目立つわけにもいかない、っていう理由もありましてね。こうして地味めにさせてもらいました」

「地味でもイケメンだよー。そうか、お兄様はウィッグに慣れてるんだね」

 茉莉花が嬉しそうに言うと、髪を直しながら祥太は首を傾げた。

「何かウィッグに関係が?」

「うん、コスプレでウィッグ必要かどうか議論してたとこ。お兄様はどう思う?」

「そりゃあ必要でしょう。俺はこんな青髪だし、智紀は漫画のキャラをやるには少し短めだ」

 あっさりと断言されて、智紀は何も言えなくなってしまう。祥太は続けた。

「だいたい、ウィッグあったほうが智紀もいいだろう?あんまり自分だってバレたく無いんだろう?頒布もされるのに」

「え、頒布オッケーなんすか!?」

 茉莉花は興奮気味に食いつく。

 智紀も急いで聞き返した。

「前はグレーゾーンがどうのこうのって言ってたじゃん!その、法律上のなんやかんや、どうしたんだよ」

「色々調べたが、まあそこまで派手にやらなければ大丈夫だろう、と結論付けた。基本的に著作権っていうのは親告罪なんだが……」

「難しいことは置いておいて!!」

 ウキウキと茉莉花は割って入る。

「よし、気合い入ってきだぞ!」

「えー」

 あからさまに智紀は不満げな声を上げる。ちょっとだけ、祥太が法律を理由に頒布に関しては拒否してくれると思っていたのだ。


 ――やっぱり、自分で意見しないと。

 智紀は意を決した。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...