祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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羨ましくて仕方なかった

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 結局、名刺や弁護士会の身分証明書、あと免許書などを見せて、ようやく信じてもらえた。


 水浸しになった玄関を祥太と茉莉花で拭いたあと、風呂の脱衣所で茉莉花のオーバーサイズのTシャツを着替えに渡された。

「うち、おばあちゃんと私の二人暮らしだから、男物無くて」

「いえ、ありがとうございます。着れますよ」

 祥太はニッコリと微笑んでシャツを受け取った。

「ほらね、面倒くさいでしょ」

 茉莉花がうんざりと言った。しかし祥太は余裕そうだ。

「今どき、お年寄りを狙った詐欺が横行してますし、あれくらい警戒心を持ってたほうがいいと思います」

「違うんだって」

 がっくりと肩を落として見せる。

「私の友達にもああなんだよ。やれピアスが空いてるだの、スカートが短いだの、髪が派手だの。そう言ってグダグダ言うの。最近じゃ誰もうちに遊びに来ないよね。友達どころか……」

 茉莉花は寂しそうに自分の黒髪を触る。


「茉莉花、こっちに来なさい」

 居間の方から亮子の鋭い声がして、茉莉花は肩をすくめた。そして、「今行くから」と叫んで居間へ向かった。

 祥太はすぐに濡れたものを脱ぎ、茉莉花のTシャツを着て自分も居間へ向かった。


「何だ、まだ帰ってなかったのか」

 夕食を並べていた亮子が、うんざりした表情で祥太を見る。

「いえ、今日はご挨拶だけで帰ります。手土産も何も持ってきてないので」

「そうかい」

 亮子は短くそう返すと、少し口角を上げてみせた。

「それにしても、あの人も見栄っ張りだったんだね」

「あの人?」

「さち子さんだよ。こんなチャラチャラしたふざけたのが孫だなんて言いたくなかったんだろ。孫は弁護士だなんて自慢してたけどねぇ、お勉強が出来るだけのただのだらしない男じゃないか」

「おばあちゃん!やめてってそういうの」

 茉莉花が顔をしかめる。

「わたしの服装の事ですか?まあよく眉を顰める事は多いですね。でも仕事は自信をもってしておりますので、あ、良かったら何か相談出来ることがあれば格安でお受けしますよ」

 祥太は、営業スマイルで、名刺を取り出そうとポケットをまさぐった。

「おや、水でふやけたものしかないですね。すみません、後日ちゃんとした名刺をお渡しします」

「あーあー、いらないいらない」

 亮子は勢いよく首を振った。

「まあ、よくこんな孫を堂々と自慢できたもんだ。まあ、あと自慢できるものが無かったんだろうね。寝たきりになっちまって、あとは妄想みたいな自慢話するしか無いんだろう」


 ――この人は、わざとこちらを怒らせようとしてひどい言葉を使っているな。


 祥太には何となく分かった。

 怒らせようとしている意図は良くわからないが、挑発に乗るのは最善手ではない。

 あえて祥太は同意してみせることにした。


「あはは、そうかもしれませんね。今も変なおねだりなんかして、困ってるんですよ」

 祥太が挑発に乗ってこないとわかったのか、亮子はつまらなそうにソッポを向いてしまった。


「おばあちゃん、私竹中さんを玄関に送っていくから」

「そんな事しなくていい」

 亮子は不機嫌そうに言ったが、茉莉花は無視した。そして、祥太の背中を押して追いやるように玄関へ連れて行った。


「ほら、気分悪い人でしょ。口を開けば人の悪口ばかり。自分の息子ですらこの家に寄り付かないんだから」

 茉莉花は玄関で苛立ちげに言う。

「自分の息子っていうのは、茉莉花さんのお父さん?」

「そ」

 茉莉花は素っ気なく言う。

「ま、だから入院中頻繁に家族がお見舞いに来てたさっちんが羨ましくて仕方なかったんじゃない?うちは、私以外だーれもお見舞いに来ないしさ」

 そこまで言うと、茉莉花は祥太から顔をそらした。

「私もちょっと羨ましいよ。お兄様達のお家って、幸せなんだろうなって」

「茉莉花さん……」

 口達者な祥太だったが、すぐに言葉がでてこなかった。

 茉莉花はバツが悪そうに続ける。

「初めて会った日に、さっちんに会いに来てって誘ってくれたでしょ?あれ、嬉しかったんだけど、どうしてもおばあちゃんの顔が浮かんじゃって行くって言えなかったんだよね。だって、私まであっちに行っちゃったら、おばあちゃん可哀想過ぎるでしょ」

 祥太はこれに関して何も言わないことに決めた。茉莉花から見て幸せな家族の自分が何を言っても響くことはないだろう。

 言葉で救える話では無さそうだ。


 玄関で靴を履きながら、祥太は丁寧に頭を下げる。

「今日は、無理にお家にお邪魔してご迷惑かけました」

「本当だよ」

 茉莉花は苦笑いする。

「それにしても、別に嫌いになるほどじゃないけど、ちょっとお兄様の事見損なったかな」

「え」

 見損なった。なかなか人生で言われたことの無い言葉に、祥太は大いに動揺した。

「だって、おばあちゃんにさっちんの事、あんなに酷く言われてたのに、ヘラヘラ笑って『そうですよね』とか言っちゃうんだもん。弟ちゃんだったら、まあ性格的に言い返したりはしないかもだけど、ヘラヘラなんてしないで怒って見せるんじゃないのかな」

「…………そう、ですね」

 動揺している祥太に、茉莉花は慌てた。

「あ、ごめんそんなに深刻に捉えないで。何となく、だから」

「あ、いえ、大丈夫です。それでは、失礼します」


 祥太は茉莉花の家を後にすると、無意識に大きなため息が出てしまった。

「そうか。そうだよな」

 空に消えそうな呟きを唱え、祥太は車に乗り込んで帰路についた。




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