祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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冷たいんだろうか

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「おかえり兄貴、うわ、何その派手なTシャツ。女物じゃん」

 家に帰ると、智紀が夕食の支度をしていた。そう言えば今日は母さんも父さんも遅くなる予定だった。

「てか、ズボンも濡れてるじゃん。え?茉莉花さん送って行って何してきたわけ?」

「少しトラブルがあってな。ちょっと着替えてくる」

 祥太は自分の部屋へ行って借りたTシャツと濡れたズボンを脱いだ。

 台所からカレーの匂いが漂ってくる。智紀はカレーかシチューしか作れない。


 着替えを終えて台所へ行くと、案の定智紀は鍋をかき混ぜていた。

「で、どうだったの?茉莉花さん。あ、亮子さんに会ったりした?」

「まあな」

「どんな人?」

「ばあちゃんより元気だな。歩いて、食事の支度をしていたし」

「そうかー。元気なのは羨ましいね」

 呑気に智紀は鍋をかき混ぜる。

「そういえば、俺と幸田はあの後、米村さんに写真見せてもらったんだけどさ、あの人の写真すっごくキレイだったよ。風景とかキレイだし。あ、大学の学祭の写真とかすっごく生き生きして良くてさ。俺も写真とかやってみたいなーって思ったら、カメラって超高いの。兄貴知ってた?」

 興奮したように話す智紀。どうやら米村の青田買いは成功しているようだ。

「それだけ感動してもらえるなら、米村さんも満足しただろうな」

「本当に感動したよ。幸田なんかはちょっと途中飽きてたみたいだけどさ」

 智紀は笑いながら答える。

「そうだ兄貴、ばあちゃんの様子見てきてくれる?ご飯の介助はヘルパーさんがしていってくれて、その後テレビつけてそのままなんだ。もし寝てたらテレビと電気消して来てよ」

「分かった」

 祥太は立ち去ると、さち子の部屋に向かった。


 確かに、さち子の部屋からは大音量でテレビがついたままだった。

 ベッドを覗くと、さち子は目をつぶって小さく息をしている。

 寝てしまっているようだ。

 祥太はテレビを消して、再度さち子の顔を覗き込んだ。


『ヘラヘラ笑って……弟ちゃんだったら……』


 茉莉花の言葉が蘇り、祥太は無意識に苦い顔になった。


 昔からの癖だ。人の顔色を読み、状況を読み、今何をするのが最善かを考えて行動する。それはいつも自分の感情を置き去りにする必要があった。

 弁護士となった今、その思考はとても役に立っているし、女のコとデートするときにも役に立っていて、悪くない癖だと思っている。


 しかし、やっぱり怒ってやるべきだったんだろうか。

 亮子の、さち子をばかにするような発言を聞けば、顔に出やすい智紀なら絶対に不機嫌な様子を見せただろう。でも祥太は多分そういうことは出来ない。


「俺は、冷たいんだろうか」

 ボソリと呟いて、祥太はさち子のシワシワの頬に軽く触れた。



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