祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

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「違う」

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「さっちんお久しぶりー!元気だった?」

 明るくさち子に声をかける茉莉花に、亮子は渋い顔をした。

「茉莉花、バカな態度はやめなさい。年上の人に何たる挨拶だ!」

「いいんだよ。彼女は私の友達だから」

 さち子は優しく執り成す。

「亮子さんも、わざわざ来てくれてありがとうね」

「いえいえ、おたくの息子さんには大変お世話になりまして」

 丁寧に挨拶し合う二人を見ながら、智紀は何となくホッとして、お茶を入れに台所へ向かった。


 お茶を用意しながら亮子の持ってきてくれたお菓子の箱を開ける。

 きれいな砂糖菓子だったので、智紀は思わず写真を撮った。

「綺麗でしょ。これ、うちのイチオシのお持たせ」

 後ろから現れた茉莉花がそう言って、自分もカメラで写真を撮った。本格的なカメラを持参してきたらしい。

「緑茶と一緒に撮ると映えるんだよねー。あ、私も手伝うよ」

「ありがとうございます」

 智紀が茉莉花と一緒にお茶を持って行くと、話題は幸田になっていた。


「さち子さん、娘さんもいたのか?」

「いや、あの子は智紀のガールフレンドだよ」

「女友達、という意味ではガールフレンドで間違いないですね」

 幸田は笑顔で胸を張っている。

「真面目で賢そうな子だね。智紀くんにピッタリだ」

「え?賢そう?やっぱりわかりますー?」

 英語の再テストも控えているくせに、幸田はドヤ顔で照れている。

「亮子さん、適当なことを言わないでください」

 智紀はお茶を出しながら苦情を言う。

 亮子はその言葉を無視して茉莉花に叱るように言った。

「こんな真面目な子が、ちゃんとしたボーイフレンドを作れるんだぞ、茉莉花もチャラチャラしてないで見習え」

「余計なお世話!」

 茉莉花が面倒くさそうに怒鳴る。


「茉莉花さんも結構真面目ですよねー。ちゃんとした大人ーって感じですし」

 幸田は差し出されたお茶を一番に飲みながら言った。

「なんか基本的な事がちゃんとしてるっていうかぁ、上辺だけのマナーじゃなくて、ちゃんとした常識が身に付いてるっていうか……。ちゃんとした教育されてきたんだなーってわかるっていうか。ま、こんな小娘が何言ってるんだって感じですけどねー。わぁ、このお菓子キレイー美味しそうー」

 一切の遠慮なくお菓子を食べる幸田を見ながら、亮子は何とも言えない、しかし嬉しそうな顔をしていた。


 ――何だろう、この台詞臭い言い回し……。

 智紀には違和感があった。

 ちらりと祥太を見ると、満足気な顔をしている。


 智紀はこっそりと祥太に近づいて小声でたずねた。

「兄貴があれ、幸田さんに言わせただろ。茉莉花さんを褒めるように」

「亮子さんは俺の言う事はちゃんと聞いてくれないからな。俺の気持ちを幸田さんに代弁してもらった。俺の気持ちは伝わるし、亮子さんの中での幸田さんの評価も上がる。一石二鳥だ」

 祥太は飄々と言ってのける。

 自分の評価は上げなくていいのか、と智紀は一瞬思ったが、祥太にとっては多分それが合理的だと思っているのだろう、と思い直す。

 実際に、亮子の態度はさっきより柔らかくなり、さち子と最近痛む節々の話で盛り上がり始めている。


「さて、本題本題。じゃ~ん、こちら、弟ちゃんのサイズにお直しした浴衣でーす」

 茉莉花が大きな袋から浴衣を取り出した。

 サイズだけじゃなくて、袖の長さなど、形も若干変わっているようだ。

「うわぁ、大変だったんじゃないですか?」

 智紀は浴衣を手に取りながら言った。亮子は素っ気なくお茶をすすりながら答えた。

「こんなもの、そんな難しくないよ。それにしても本当に古臭い布だよ。これじゃあ昔の普段着だ」

「だから、それがいいの!!」

 茉莉花は文句を言いながら、智紀に着るように促した。


「そういえば、いつの間に俺がこの服を着るナツ役になってたんだろう」

「お兄様に浴衣合わせてみたら全然合わなくてさ。必然的に」

「それはあの髪色だからじゃ?」

「それはあるかもー」

 若干適当な茉莉花に言われながら、智紀は浴衣を着てみる。

「どう?」

 浴衣を着て、みんなの前に出てみる。

「いいね!昔って感じ!」

 幸田が適当に相槌を打った。茉莉花は智紀の浴衣写真を何枚か取っている。

「智紀の姿、ちょっともう少し近くで見たい」

 さち子が言うので、智紀はさち子のベットに近づいた。祥太はさち子の体を少し上げてやる。

「ああ、これは……もしかして……ああ」

「へへ、さっちん、わかっちゃった?」

 茉莉花が笑いながら、智紀を見つめるさち子の写真も撮る。亮子は険しい顔をした。

「これ、勝手に人様の家で写真を撮るんじゃないよ」

「いいんだよ、亮子さん、いいカメラで遺影を撮ってもらえて助かるよ」

 高齢者ジョークをかましながら、さち子は智紀の浴衣に触れた。

「ナツ、だね。これは」

「あ、うん……あの」

 さち子にすぐに当てられて、何となく智紀は恥ずかしくなる。さち子はマジマジと智紀の浴衣を見つめて、そしてキッパリと言った。


「違う」

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