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こんなこと前もあったね
しおりを挟む休憩を終えたとき、茉莉花はあっと声を上げた。
「ごめん、お兄様のリクエスト忘れてたね。さっちん手作りのハンカチを写真に入れてほしいんだったよね」
そう言って、茉莉花は祥太から預かったハンカチを取り出した。
「まあ、無理しなくても大丈夫ですよ」
「いやいや、せっかくさっちんが縫ったんだから。えっと、ちょっと待ってね、ハンカチきれいに見せるために、ちょうどいい置台になるもの……」
茉莉花が自分のカバンを漁る。
その時、ふと、カバンに入っていたスマホを見て、顔をしかめたのが見えた。
「どうかしました?」
祥太が尋ねると、茉莉花はパッと顔を明るくした。
「ううん。大丈夫」
「何かあったならそっちを優先してください」
「ううん。いや、またおばあちゃんの見守りアプリが通知なしで来ててさ。ま、でも今日はお父さんが対応してくれるって約束だったから、多分お父さんが行ってくれてると思うから」
そういいながらも、茉莉花の顔の端にはうっすらと不安の色が浮いてる。
「一応、お父さんに、どうなったか連絡してみたらどうですか?何もなければそれで安心できるし」
智紀が言うと、茉莉花は頷いた。
「じゃごめん。ちょっとだけ電話入れてくる」
そう言って、茉莉花は部屋の外に出て行った。
智紀と祥太は、心配になって茉莉花の様子をのぞいてみる。
「うん、そう、アプリで。……え?何で無視してんの。電話もしてみてないの?……いや、そうだけど、前は本当に転んでたし……。は?今日は対処してくれるって約束じゃん。いや、だめでしょ。いいよ、もういい。もういい!!」
怒ったような茉莉花の声。
智紀と祥太はあわて部屋に戻った。
茉莉花も部屋に戻ってきて、笑顔で言った。
「ごめん。ちょっとやっぱり私おばあちゃんの様子見に行かないと。お父さん行けなくなったみたいでさ。ま、ある程度撮れたから、これで編集作業入らせてもらうね。お兄様、ハンカチの件はできなくてごめん」
「いえ。それは別にいいですが」
祥太は、サクサクと片付けの準備をする茉莉花を見て、自分も慌ててウイッグを取り、着替え始める。
「送って行きます」
「いいよ。大丈夫」
「いいえ。荷物も多いですし、それに亮子さん、見守りアプリ通知なしなんですよね。俺も心配です」
祥太はそう言ってその場にあった化粧落としシートでドーランを落としながら、自分も出かける準備をする。
「いいってば!」
茉莉花は強い口調で祥太を睨む。
「これはうちの問題なの!関係ないでしょ!」
「ないわけないでしょう」
祥太は言い切り、逆に茉莉花を引っ張っていくように歩いていく。
そんな祥太に、米村がだるそうに、しかし少しきつく言った。
「なあ、ホストのお兄さん。気持ちはわからないでもないけど、人には立ち入って欲しくないことだってあるんじゃねーの」
その言葉に、祥太はフッと笑って答えた。
「俺は立ち入りたいんです。茉莉花さんも亮子さんも愛していますから」
「は、はあ!?」
完全に茉莉花がドン引きしているすきに、祥太は茉莉花を連れて行ってしまった。
「……おい、聞いたかさっきの言葉」
米村が、同じく完全にドン引きして言葉を失っている智紀と幸田に話しかけた。
「やっぱホストってあれくらい恥知らずじゃねーと駄目なんだろうな」
「あの、前も言いましたが、うちの兄貴はホストじゃないんです……」
「いや、竹中くん、やっぱりお兄さんはホストだったんだよ」
幸田は完全にそう納得してしまっていた。
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