46 / 58
あからさまに胡散臭い男②
しおりを挟む※※※※
車の中で、茉莉花は黙ってスマホを握りしめていた。一応亮子に電話をしたようだがやっぱり出ないらしかった。
その後、スマホの通知音が何度か鳴り、それを確認して、隣で運転している祥太に言った。
「ごめん、せっかくだけど、やっぱり行かなくてよさそう。さっきお父さん行けないって言ってたから行こうと思ったけど、やっぱり来てくれるみたい」
「ほう、そうですか」
祥太はそう頷きながらも、そのまま運転を続けている。
「だからその、いいよ、ここで下してくれる?」
「どうせだからちゃんとお送りします。俺も亮子さんのことが心配だし」
「ちゃんとあとでどうだったか教えるから」
「遠慮なさらずに」
「遠慮じゃないんだけど」
茉莉花はそう言いながらもすでに若干諦めていた。短い付き合いだが、この竹中兄弟のたまに出る強引さには敵わないことは完全に理解している。
「……じゃ、いいけど。お父さんに余計な事言わないでよ」
「俺が余計な事言いそうに見えますか?」
「すっげー見えるよ」
そうしているうちに、車は茉莉花の家に到着した。
「おばあちゃん?いる?」
茉莉花は家に入るなり、亮子を呼ぶ。
声は聞こえない。その代わり、何やらガガガガガ、と機械の動く音だけが聞こえる。
茉莉花は急いで音のある部屋へ向かう。祥太もそのあとをついていく。
「おばあちゃん?」
「おう、茉莉花か。なんだ、今日は遊びに行って遅くなるかもって言ってたんじゃないのか」
そこには、居間の真ん中でミシンをかけている亮子が、平然と座っていた。
「おばあちゃん!もー、見守りアプリ、通知来てなかったんだけど!」
「え?ああ、作業してたら忘れていた。ミシンの音で何も気づかなかった」
亮子はケロリとした顔で答えた。
「何も無くて良かったじゃないですか」
祥太も顔を出してそう言うと、亮子はバツが悪そうな顔をした。
「ほらな、そんなことだろうと思ったよ」
急に後ろから声がして振り向くと、真面目そうな顔のスーツをきた男の人が立っていた。
「お父さん!」
茉莉花がそう呼びかける。
――この人が茉莉花さんのお父さんか。
厳しい祖母にうんざりして家に寄り付かなくなったと聞いていたので、もっと茉莉花のようなチャラチャラしたギャル男風の人を想像していたが、思ったより真面目そうなサラリーマン風の人だ。
茉莉花の父は、わざとらしい大きなため息をついてみせた。
「人にはちゃんとしろだのなんだのうるさいくせに、自分はやることをちゃんとしないでこうして迷惑をかける。昔からそうなんだ。それで何してるかと思えば、またゴミにしかならないものを作っているんだろう」
「お前に作っているわけじゃない」
亮子は、茉莉花の父を睨みつけながら言った。
「そうだよ。おばあちゃんは智紀くん……、前に助けてくれた高校生の子のために作ってるんだよ」
茉莉花がそう言うと、茉莉花の父は呆れたように半笑いした。
「その子だって、迷惑だろうに。家族以外に迷惑かけるなよ」
茉莉花の父の言葉に、いつも強気な亮子が動揺した顔になったのがはっきりと見えた。
「ちょっと失礼」
祥太は、彼らの間に割って入った。
茉莉花の父は、祥太を見ると、胡散臭そうな者を見るような目になった。祥太は慌ててポケットから名刺を取り出す。
「私は、茉莉花さんの友人で、竹中祥太と申します」
祥太から名刺を受け取ると、茉莉花の父は丁寧にそれをしまった。
「弁護士さんですか」
「まあ、今は肩書きは関係ないですけどね。名刺先に渡さないと、不思議なことに、ホストだの詐欺師など言われちゃうんですよ」
「でしょうね」
茉莉花の父は素っ気なく応じる。
祥太は、亮子の手にある作りかけの品を見て、ニッコリと笑ってみせた。
「多分、うちの智紀が作ってくれと亮子さんに我儘言ったんだと思います。愚弟がご迷惑かけて申し訳ございません」
「ちょっと!」
茉莉花が鋭い声で咎める。
ああ、また見損なったと言われるだろうな、と祥太は思いながらも、目の前の仕事をこなすのに集中することにした。
「一度お話させていただきたいと思ってたんです。よろしければ、二人で話させて頂けませんか?」
祥太はにやりと笑う。
茉莉花の父は、あからさまに胡散臭そうな男に不信感満載の顔をしていたが、早めに渡した弁護士の名刺が功を奏したようで、「ええ」と硬い笑顔で頷いた。
なんやかんや言っても、祥太には茉莉花の家庭の事情に深く立ち入るつもりはなかった。
またそこまでの仲ではないことは自覚している。
祥太の今日の目的は、『お金で解決』である。
14
あなたにおすすめの小説
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる