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何て図々しいんだ
しおりを挟む「亮子さん、また急にお邪魔しまして申し訳ありませんでした」
祥太は、居間で黙って座っていた亮子に話しかけた。
「次はちゃんとお菓子を持ってきてお邪魔しますね。あれ、もうミシンは片付けてしまったのですか?」
祥太の言葉に、亮子はいつもの強気な態度はどこへやら、弱々しく言った。
「別に。迷惑かけてまでやるもんじゃないだろ」
「迷惑?」
「どうせ、また私の事で、息子と孫が喧嘩しているんだろう」
「いいえ」
祥太は、真面目な顔でキッパリと言った。
「亮子さんの事で、仲直りしているんです」
「何言ってんだよ」
亮子は不機嫌そうにそっぽをむく。
その手には、さっきまで作業していた何らかの布が握られていた。
「そう言えば、亮子さん、智紀に何か作ってくれてたんですね。何を作ってたんですか?秘密にしますから教えて下さいよ」
機嫌を取るように祥太が言うと、亮子はそっぽを向いたまま、ボソリと言った。
「智紀くんのじゃない。お前のだ」
「…………え」
祥太は、言われたことの意味を理解できずに動揺した。
「……すみません、亮子さん。聞き間違いですかね。私の……?」
「聞き違いじゃない。でもいらないだろう」
「そんな訳ないじゃないですか!」
祥太は勢いよく亮子のそばに座った。
「本当ですか!?智紀じゃなくて?」
「うるさい。近寄るな。いい、もう捨てるから」
「何で捨てるんですか!」
祥太は必死になる。
「勿体ない!せっかく作ってくれたのに、続きやってくださいよ」
「無理するな。気を使わなくてもいい」
亮子が頑なに謂うので、祥太は口を尖らせる。
「本当に気を使わなくてもいいんですか」
「ああ。あとで捨てられるものを作るつもりは無……」
「じゃあ、ファスナーと。あと外付けのポケットをつけてもらえますか?」
「は?」
思いがけないリクエストに、亮子はぽかんとして思わず祥太の方を向いてしまった。
「え、それ、前に智紀に作ったサコッシュと同じやつですよね?あれ、いいなと思ってたんですが、ファスナーついてたら更にいいなと思ってまして。あと、名刺入れを入れれたらいいなと思いまして、是非外付けでポケットを一つ」
「何て図々しいんだ!」
亮子は思わず呆れた。祥太は再度口を尖らせる。
「だって、気を使わなくてもいいってさっき」
「そういう意味じゃないよ!」
亮子は怒鳴りながらも、少し笑っているようだ。
「思ったよりも馬鹿なんだな、お前は。でも、すました言い方して、全然笑ってない目で笑っているよりも、そんな風に図々しく子供みたいにしている方がずっと男前だぞ。あと、その髪を直して、服装もちゃんとして……」
「それは聞けない話ですね。私の譲れない所なので。亮子さんが真面目な格好にこだわるのと同じように、私もこれなりにこだわりがあるんです」
祥太がきっぱりと言うと、「頑固者が」と亮子は吐き捨てた。
「……正直、私の事を可哀想に思ってるんだろう。仲の良い家族に囲まれたさち子さんに比べて、うちは情けないからね」
再度ミシンを取り出しながら、亮子は不機嫌そうに言った。
一応祥太のリクエストは聞いてくれるらしく、ポケットになるような小さな布を切り出していく。
亮子の作業を見ながら、祥太はぽつんと言った。
「比べるのもじゃないって言っても、比べちゃうものなんですよね。……茉莉花さんだけじゃ駄目ですか」
「茉莉花だけ?」
亮子は作業の手を止めた。
「茉莉花さんは結構いい子じゃないですか。人には相性ってもんがありますので、息子さんとはなかなか噛み合わないかもしれませんけど。でもあんないい子の茉莉花さんが一緒にいるなら、それで十分幸せでは無いですか?」
「私は茉莉花を大事に思っている」
「わかってます。多分茉莉花さんも」
わざと何でもないように祥太は言った。
「え、まだいたの?」
そんな酷いセリフがして振り向くと、茉莉花が居間に入ってくる所だった。
「お父さん帰っちゃったよ」
「ああ、そうなんですか。もっとゆっくりしていけばいいのに」
「家主ヅラしないでくれる」
茉莉花は祥太に呆れ顔をむけた。
「話し合いは出来ましたか」
「……まあ、ね」
茉莉花はそっぽを向きながら答えた。その仕草は、亮子によく似ていた。
「工事の件は一緒に考えてくれるって。その他の事も。まあ」
「良かったです」
祥太は心からそう言った。
「でも、話の大半は『あの詐欺師紛いの男は何だ』って事だったんだからね!男はちゃんと選べって、もううるさくて」
「娘が心配なんでしょう。ねえ」
祥太は亮子に同意を求めたが、亮子は知らんぷりしている。
「まあ、そろそろ帰ります。お邪魔しました。亮子さん、そのサコッシュ、出来上がったら是非ご連絡下さい」
そう言って、祥太は玄関にサッサと向かって茉莉花の家を出ていった。
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