祖母孝行したいけど、兄弟でキスはできない

りりぃこ

文字の大きさ
53 / 58

皆で仲良く作った

しおりを挟む

 ※※※※

「ばあちゃん、これ、見てくれないか」


 その日、智紀と祥太は、二人でさち子の部屋にいた。

 前日のうちに、茉莉花から丁寧にラッピングされた写真集を受け取っていた。とうとうさち子にお目見えするのだ。

「本当は私もさっちんの最初の反応を見たいんだけど。でもこれは竹中家だけのものだし、最初だけは私が割り込むわけにはいかないと思う」

 茉莉花がそう言ったので、時間を作って二人で渡すことにしたのだ。



「なんだい改まって」

 さち子は少し体を起こすと、智紀からラッピングを受け取った。

 ゆっくりとした動作で、ラッピングを剥がす。

「本?悪いんだけど、これは何で書いてあるんだ?キラキラしてて読めない」

「for SACHIKO。さち子へ、って書いてある」

 祥太に言われて、嬉しそうにさち子はそのキラキラを撫でた。

「へえ、こんなキラキラで名前かいてもらったら、何だか照れるね」

 そう言いながら、1ページ目を開いた。


「あー……あー……ら、ら」

 さち子は目を見開いた。

「これは……ええ?これはどうなってるんだ?」

 本を近づけたり遠ざけたり、何度も見つめ、ようやく顔を上げた時には頬は真っ赤になっていた。

 体調は大丈夫だろうか、と、智紀が少し不安に思った時だった。

 さち子はホッと息をつきながら、目を閉じた。そしてゆっくりと呟くように言った。

「ハルとナツはいたんだねえ。それに、とっても祥太と智紀に似ている」

「似ているって言うか……」

 智紀がコスプレについて説明しようとする前に、さち子は次のページを開いた。

「あら、あらあら。あー、そう。ふふ」

 さち子は、今度は嬉しそうに笑う。

 2ページ目からは智紀も見ていない。

「ふふ。そうか。仲良く遊んでたんだね。ふふふ」

 2ページ目の写真を、何度も何度も撫で、そして何度も嬉しそうに笑う。

 1ページ目とは少し違う反応だ。


「ばあちゃん、ちょっとオレも見てもいい?」

 智紀が言うと、さち子は黙って写真集を渡してきた。

 2ページ目を開くと、後ろから祥太も覗いてくる。

「えっ」

 思わず智紀は声を上げた。


 そこに並んでいた写真は、コスプレ写真では無かった。着替えて服を直されている写真、祥太の化粧をマジマジと見つめる智紀、智紀にコンタクトを無理矢理つける祥太、そして、休憩時間に祥太の手からまんじゅうを食べる智紀……。

 多分、米村が撮っていたメイキング写真だ。

 これまで写真集に入れていたのか!と智紀は恥ずかしくなった。なんだか素を見られたようでどうもムズムズする。

「こんなに仲良く遊んでたんだね。いい顔してるいい写真だな。何度見ても飽きないよ」

 さち子はそう言って、再度写真集を渡すよう、手を伸ばした。

「最近、ふたりともイチャイチャしてくれてて嬉しいのに、こんなにいい写真まで。ふふふ」


 2ページ目を見ているさち子のその笑顔は、BLに萌えている表情とは少し違った。昔、智紀が小さい時によく見せていた表情だった。兄弟喧嘩した時、兄弟で一緒にいたずらした時、兄弟で一緒に遊んでいた時。
 さち子はいつも見守るような顔をしていた。


「別に、イチャイチャなんかしていないぞ」

 イチャイチャしている、と言ってやればいいものを、祥太はついそう言ってしまう。

 しかし、さち子はゆっくりと首をふった。

「してるじゃないか。私はここ最近、よく二人で一緒にいるところを見たぞ。それに、このナツの服だって、皆で仲良く作ったじゃないか」

「確かに仲良く作ったかもね」

 智紀は同意する。

「そうだ。この写真集、ばあちゃんも一緒に作ったんだよ。ほら、衣装のここの袖の部分、難しかったよね」

「ああ、そうだな。祥太は何度言っても違う所を縫ってなぁ」

「思い出さなくていいじゃないか」

 祥太は不貞腐れた。


「ああ、こんなの、寿命が伸びる。伸びるよ」

 そう呟いたさち子の目には、涙が滲んでいた。

「な、何で泣いてるの?」

 智紀は慌てる。喜んでもらいたかったのに、泣かせてしまった。

 さち子は目をこすりながら、首をかしげる。

「何でだろうね。涙が止まらないんだ。心臓もすごく……あ……苦し……」


「ばあちゃんっ、落ち着いて」

「まずい、ばあちゃん、前に俺がお前の耳を齧ったときみたいに動悸が止まらなくなっているようだ」

「ばあちゃん!寿命伸びるんじゃなかったのかよ!死ぬな!」

「ばあちゃん!!」


 二人の悲痛な声が響く……。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

処理中です...