52 / 58
ありがとうございます
しおりを挟む「あわよくば会えたらちょっと先行公開させてあげようかと思ったんだけど。大丈夫だよね?さっきの女子誰も付けてきていないよね?」
不安げにキョロキョロする茉莉花に、幸田は胸を張って答えた。
「大丈夫!うちの学校では、竹中くんをストーカーするのは校則で禁止されてるから。破ったら停学」
「ねえよ、そんな校則」
智紀はそうツッコみながらも、無いよな?と幸田に念のため再確認する。幸田はしれっとそれを無視している。
「本当はさっちんに一番に見せたいんだけど。でも私も正直これで大丈夫かどうか不安なんだ。だからちょっとだけ、感想聞かせて」
珍しく、茉莉花は自信なさげな顔をしている。
「本ができる時っていつも不安。作ってるときはアドレナリン、ドバーで楽しくて仕方ないんだけど、いざ出来上がったら、私の作品なんて、価値あるのかなっていっつも自問自答しちゃうんだ」
そう言いながら、茉莉花は丁重にその紙袋を智紀に渡した。
智紀も丁重に受け取った。
「あ、そういえば、俺だけで見てもいいの?兄貴は……」
「お兄様はいーの、いーの。とりあえず弟ちゃんだけで大丈夫」
祥太を放っておくような茉莉花の口調に、智紀は少し不安になった。
「え、いいんですか?あの、うちの兄貴が、茉莉花さんにフラレたのって関係あります……?」
智紀の言葉に、幸田が面白そうに目をギラつかせたが、とりあえず彼女の事は一旦放置しておく。
茉莉花は笑って首を振った。
「ぜーんぜん関係ないよ。お兄様から、もし事前チェックするなら弟ちゃんに全部任せちゃって、って言われてたの」
「俺に全部?」
無責任じゃないか、と智紀は少し憤慨した。そんな智紀の様子を見て、茉莉花は言い訳するように言った。
「お兄様は、弟ちゃんに決めてもらいたいみたいだよ。さっちんのお願い事をかなえてやりたいって言い出したのは、弟ちゃんだから」
「そうですか……」
そう言われると確かに自分が見るべきなのかも、と智紀は頷いて、紙袋の中身を取り出した。
ピンクと青の二色の表紙。
金色の文字で、『for SACHIKO』と書かれている。
1ページ目をちらっと開いて、智紀はふるふると頭を振るわせた。
「や、やっぱり恥ずかしい。ちらっと見えただけでもうはずかしくて見れねえ!怖い!」
チラリと見えた自分のコスプレ姿に、思った以上に羞恥心がこみ上げる。
「もー、ほら、竹中くん、手を握っててあげるから、頑張って確認作業しよう」
幸田に言われて、素直に手を握りながら情けなさそうな顔で再度写真集に手を伸ばした。
茉莉花は茶化すように幸田に言った。
「この情けない顔の弟ちゃん皆に見せれば、少しはファンが減るんじゃないの」
「母性本能破裂して何人か死ぬからですか?」
「違うよ」
勝手なことを言う茉莉花と幸田を無視して、智紀は再度ページを開く。
裏表紙には、初恋の杜の漫画絵、多分茉莉花が書いたものだろう。そして1ページ目に、祥太と智紀が、いや、ハルとナツが共に肩を寄せ合っている写真が載っていた。
「わぁ。凄い。綺麗」
覗きこんだ幸田が感嘆の声を上げる。
羞恥心をぐっと堪えて写真を見つめる。
「たしかに、うん、何かとってもいい」
知らない人が見たら、とても仲睦まじい写真に見える。撮影時は結構淡々と作業的にやっていたのに、お互いに笑った一瞬の切り取りで、仲の良い二人にしかみえない。
次のページを開こうとした時、茉莉花に手で止められた。
「ここから先はさっちんと一緒に見て欲しいかな。で、どうかな?」
「良かったと思います。なんかとっても、仲良さそうで。なんか実際よりも仲良さそうだ」
智紀は照れながら言った。
「ま、弟ちゃんの合格点は貰えたし、これであとラッピングして今度渡すね」
茉莉花は写真集を回収して、紙袋に戻す。
智紀はふと、気になっていた事を思い出した。
「そういえば。そのイベント?で売る?写真もこれなんですか?」
「売るんじゃないって。頒布だってば。……まあでも、頒布、やめようかなって思ってる」
「えっ」
茉莉花の言葉に、智紀は少し安心した一方で、罪悪感がつのった。
「せっかく頑張ったのに。もしかして、頒布に耐えられない出来なんですか?」
「いや、違うんだよね」
茉莉花は、写真集の入った紙袋をギュッと握って言った。
「これは、さっちんだけの写真だな、って編集してて思ったの。頒布して知らない人に見せるの、勿体ないって思っちゃったんだ」
茉莉花は困ったように笑う。
「ありがとうございます」
智紀は思わず茉莉花にお礼を言った。
そのお礼が何の意味だったのか智紀自身にも分からなかった。頒布しないでくれてありがとうなのか、そう思うまで真剣に取り組んでくれたことへのありがとうなのか。
それとも、さち子と出会ってくれてありがとうなのか。
分からなかった。
※※※※
「ねえ梨衣ちゃん」
智紀と公園でわかれ、茉莉花が幸田と二人で帰っている途中、何気なく問いかけた。
「下世話だけどさ。梨衣ちゃんって、弟ちゃんと付き合ってないの?」
「付き合ってるわけないじゃないですか」
一切赤くなることもなく、幸田はケロリと言った。
「じゃあ付き合いたいとかは?」
「んー無理かなぁ」
「やっぱりちょっと情けないとこあるから?」
「いや、そうじゃなくて」
幸田はふと、自分の手を見ながら少し恥ずかしそうに言った。
「お菓子をあげて、そのお菓子を『どうせばあちゃん宛だろ?あれ』とか言っちゃうタイプの男子を落とす手腕なんて、私みたいな底辺には無いんですよ。私も恥ずかしくて茶化しちゃうし」
「梨衣ちゃん……」
茉莉花は幸田を見つめ、そして何だか叫び出したい気分になったので、勢いよく空に向かって叫んだ。
「アホ兄弟めーっ!」
「どうしたんですかっ!急にっ」
混乱している幸田の頭を、茉莉花は黙ってくしゃくしゃに撫で回した。
14
あなたにおすすめの小説
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜
みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。
自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。
残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。
この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる――
そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。
亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、
それでも生きてしまうΩの物語。
痛くて、残酷なラブストーリー。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる