55 / 58
キレイに撮ってくれる
しおりを挟む※※※※
それから、さち子の衣装作りが少しづつ始まっていった。
また、茉莉花が古着屋で見繕ってきた赤い浴衣に、 漫画の服に合わせるように裏地や刺繍を施していくのだ。
「ようやく終わったと思ったら、またこの作業か。こうなったらミシンでも買うか」
効率重視の祥太は、針と格闘しながら言う。
「ハンディミシンなんてものもあるらしいし。それならばあちゃんだって使えるんじゃないか。ちょっと調べてみよう」
「そうやってすぐに機械に頼るな。仕事じゃなくてただの趣味なんだから、ゆっくりやればいい」
さち子はそう言って、ゆっくりゆっくり、一針一針縫っていく。
「私はこうして祥太達と作るのが楽しいんだ。時間はいくらでもあるんだし、時間をかけてやっていこう」
「時間はいくらでも……?」
祥太は思わず、さち子の前よりずっと細くなった腕と、青白くなった顔色を見て言葉を途切れさせた。
明らかに最近声のハリも落ちてきた。嚥下機能もさらに低下してきて、食事も刻み食からミキサー食になってきている。
見ないふりをしようとしても分かる。時間は、有限だ。
しかし祥太は表情を作るのが得意だ。すぐに何でもないようにフッと笑ってみせた。
「そうだな。ばあちゃん、ゆっくり時間をかけてやろう。何ヶ月も、何年も時間をかけてやろう」
「そんなに時間はかけたくないね。早く写真を撮ってもらいたいんだ」
そう言ってさち子は少女のように顔を赤くした。
「おばあちゃん、食事出来たからそろそろ片付けてー」
母親の声がして、二人で急いで裁縫道具を片付ける。
母の代わりに智紀が食事を持って部屋に入ってきた。
「どう?進んだ?」
ドロドロの夕食をテーブルにセットしながら智紀はたずねる。
「お、結構進んだね。凄いよばあちゃん。そして、兄貴も成長してるじゃん」
「まあな。俺はいつでも成長期だ」
祥太は適当な事を言う。
「そう言えば、今日茉莉花さんの家に行ってウィッグの相談してきてさ。その時に亮子さんにと会ってきたんだけど」
智紀はそう言って、小さな摘み細工の花を取り出した。
「これ、亮子さんが作ってくれてたんだ。その赤い浴衣に合うんじゃないかって。なんか、布が余ってて暇だったから作っただけだって言ってたけど」
「可愛いねえ」
さち子は花を手に取った。
「確かに合いそうだ。髪飾りにしようか、ブローチにしようか」
ワクワクと花を見つめるさち子を、智紀は嬉しそうに見ていた。
「俺も兄貴もサコッシュ作ってもらっちゃってるし、ばあちゃんもお花貰うし。今度亮子さんにお礼しなきゃね」
「そうだね。亮子さんも、また遊びに来てくれればいいねぇ」
さち子は、花をふるふると振ってみせた。
食事の介助を終わらせて、二人でさち子の部屋を出た。
「亮子さんは元気だったか?」
ふと祥太はたずねる。
「うん、元気だった。なんか、今階段に手すりつけるバリアフリー工事が入ってて、毎日うるさくてたまらないって文句言ってたよ」
「はは、相変わらず元気なようで」
祥太は笑う。
「そう言えば、最近茉莉花さん、ウィッグやめて本当に髪金髪にしたみたいでさ、亮子さんがすっごく愚痴ってきたよ」
「まあ、色々世話になっているし。愚痴くらい付き合ってやれ」
「まあね」
智紀は愚痴られることをあまり気にしていないようだ。
「ばあちゃんのコスプレ、どう思う」
ふと、祥太はたずねた。智紀は問われている意味がわからずにキョトンとした。
「えっと、正直ばあちゃんが若い女の子になるのはなかなか難しいとは思うけど」
「まあ、そうだな。茉莉花さんにハリウッド級の特殊メイク技術が無いと無理だろう」
「でも、多分、茉莉花さんはキレイに撮ってくれると思ってる」
智紀はキッパリと言った。
「あと、ばあちゃん楽しそうだ。多分免疫力アップしてて、寿命も伸びてるよ」
智紀の言葉に、祥太は一瞬、明らかに前より老化しているさち子の身体が頭を駆け巡ったが、すぐにフッと笑った。
「そうだな。早くあの赤い衣装着たばあちゃん見たいな」
「そうだね。今度幸田さんも来て縫うって言ってるし、早く進めたいよな。あ、でもそうなるとまた俺達もコスプレしなきゃだめなんだっけ……」
智紀は苦笑いしながら楽しそうにそう言った。
……しかし結局、さち子がコスプレ写真を撮ることは無かった。
むしろ、その赤い衣装に袖を通すことすらできなかったのだ。
12
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる