憧れの世界は牙を剥く

奈倉ゆう

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3章 白髪の獣人

再度襲撃

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「とりあえずここに留まっていても危ない。ここから離れよう。」

 リーネに向かって手を差し出す。だがリーネは俯いたままで言葉を発しなくなった。

「リーネ、奴隷にされて自由を奪われてさっきの電撃みたいに理不尽な目にあって……もしも俺がリーネの立場だとしたら……心が折れてしまうかもしれない。ずっとこんなことが続けられているのか?」

 俯いたままのリーネに語りかける。返事は無いがそれでもさらに語りかける。

「もしもリーネがずっとこんなことに耐えているのなら、本当にすごいと思う。だけど昨日の話を聞いていたのなら……俺が今なにを思っているか分かるか?」

 リーネに問いかけると顔を上げてリーネは俺を見た。俺もリーネの目を見る。涙で濡れ、赤くなっている。見ているだけで胸が締め付けられる。

「俺よりも歳下でまだまだ色んなことができる歳だ。なのに酷い目にあって自由を奪われている。俺はリーネをこんな目にしたやつが許せない。」

「っ……」

 俺の言葉を聞いたリーネは目を開かせ俺を見ている。

「なんで……なんでお前がそんなことを言うの?私は獣人、お前達ニンゲンが獣人のことなんて気にするわけが……。」

「人間だろうが獣人だろうが関係ないだろ、俺達は対話できる、互いの意思を尊重することができる。魔物じゃなければきっと手を取り合うこともできるさ。俺は……俺達はリーネを助けたい。それが出来なくても一緒にいる間は辛い思いなんてせずに笑っていられるようにしてやりたい。」

 俺の言葉を聞いたリーネは歯を食いしばり、視線を逸らす。だが、まだ差し出した手を叩かれていないということはもしかするとまだ希望はあるのかもしれない。

「ニンゲンは……敵。」

「いままでリーネに関わってきた人間達の事は俺は知らない。どんな目にあわされてきたのかも、どんなことをされたのかも……。でも、リーネがそんなに恨んでる、恐れている、マイナスな感情ばかりが溢れ出すくらい嫌いだってことは……まだ知り合って少ししか経っていないけどリーネのことを見てたら分かる。それで俺達が信じられないのも分かるし、こうやって人間と話すことすら嫌なのかもしれないけど、少しだけ俺達のことを信じてくれないか?リーネの嫌う同じ人間だとしても、俺達はリーネを傷付けない、リーネのことをできる限り助けてやりたいんだ。」

「……ぁ……ぅ……」 

 リーネの逸れていた視線が俺と再び交わり、俺の心の底からの本音を聞いたリーネはまた視線を逸らした。でもさっきとは違う点が2つ。俺の目を見て視線を逸らし、また視線をあわせる。それをしているリーネの表情は憎しみなどではなくどことなく不安げな表情だ。そしてもう1つの変化は俺の手に向かって少しだけリーネは自身の右手を伸ばそうとしている。だがそれは中途半端で本当に信じてもいいのかと、こちらもリーネの今の感情が読み取れる。
 
 つまり今のリーネは今までとは違って俺を信じようとしている。でもまた酷い目にあうかもしれない、と今まで人間達にされたことを思い出し完全に信じることができずにいるのだろう。

「本当に……信じても、いい……の?」

 小さな、とても小さな声でリーネは独り言としても捉えられる言葉を呟いた。その問いは俺に問いかけられているものであるかもしれないし、自分自身に人間を信じてもいいのかと問いかけているようにも感じる。

「……。」

 俺はあえて何も言わない。リーネが自分に問いかけているのなら俺は口を挟まない方がいいと思ったからだ。だがリーネの問いに肯定するように、軽く首を縦に振る。

「わ、わたし、は……「ウォーン!」」

「なにっ!?」

 リーネの言葉を遮るようにグレイウルフが現れ、雄叫びをあげた。

「また魔物か、まあ森にいれば連続エンカウントなんて珍しくもないんだろうけどいまかよ!〈小さな火球よ〉!」

 『ファイア』を放ち、グレイウルフの顔面にヒットさせる。

「あ、あのグレイウルフ……」

 現れたグレイウルフを見てリーネは声を震わせる。

「リーネ?」

「昨日グレイトウルフと一緒にいた個体。もしかしたら――「ウォーン!」」

「なっ――」

 グレイウルフの雄叫びに応えるように森の奥からいくつものグレイウルフの雄叫びが木霊する。

「さっきのは仲間への合図ってわけか!
 『無よ』!〈更なる魔力纏いて・爆ぜよ魔弾〉、『無は有にマジックチェンジ』、〈不可視の刃よ・鋭く切り刻め〉!」

 とりあえず目の前のグレイウルフを倒そうと『マジックボム』を発動し、放物線を描いた魔力の球をグレイウルフ目掛けて放つ。グレイウルフはそれを見て回避しようとしたが、『無は有にマジックチェンジ』で風属性に変化した『エアブレード』を足に向かって放ち、移動を封じて『マジックボム』が直撃した。

「リーネ、とりあえず逃げるぞ。リーフは動けるか?」

「すみません、ある程度痺れは取れたのですが、直接噛まれたところがまだピクリとも動きません。」

 リーフの噛まれた箇所は右肩と左の太もも、肩の方はともかく左の太ももを噛まれているため左足を動かすこともそうそうできそうにないようだ。

「じゃあ俺が背負――っ」

 リーフを背負おうとすると若干めまいのようなものがして俺は立ち止まってしまう。体も若干の脱力感があり自身の体が万全ではないことが分かる。

「ユウキさん?大丈夫ですか!?」

「あぁ、ただの魔力の使いすぎだ。」

 さっきから魔法を連発し、中級魔法もかなり使用した。久しぶりの魔力の使いすぎで少し動揺したが、改めてリーフを背負う。

「グルァッ!!」

「ちっ、やっぱり来たか。」

 魔石を使う暇もなくグレイトウルフが現れる。口の周りに俺が昨日放った『ファイア』によって焼けた跡があり、俺が昨日相対したグレイトウルフで間違いないようだ。

「ガルァ!」

 ひと噛みで俺の腕を食いちぎることができるような口を開き、牙を見せ飛びかかってくる。

「〈青く輝け・水の盾よ〉!」

 半端な魔法では食い止めることができないため、今の俺に使える一番防御力の高い『ウォーターシールド』を目の前に出現させる。

「グルァ!」

 グレイトウルフは水の盾に牙を突き立て、水の盾は水を飛び散らせそこを中心として崩壊する。

「かはっ!」

「きゃっ!?」

 『ウォーターシールド』を強引に突破したグレイトウルフは俺に体当たりを仕掛け避けられなかった俺は吹き飛ばされその衝撃でリーフを離してしまう。
 地面に背中から叩きつけられ全身に痛みが走るが痛みを堪え起き上がる。

「リーフっ!〈不可視の刃よ・鋭く切り刻め〉っ!」

 俺よりも自力で動けないリーフをグレイトウルフは選び、リーフに向かって足を進める。俺は『エアブレード』でグレイトウルフに攻撃しようと詠唱しグレイトウルフに狙いを定めるがなぜか『エアブレード』は発動しない。

「ぐっ……魔力がもうほとんどないのか!」

 必要魔力量が少し足りない程度であれば、昨日リーフがブラックボアに『ライトソード』を使用できたように未完成な状態でありながらも魔法は使える。だが今の俺には『エアブレード』を発動するのに必要な魔力が全くと言っていいほど足りないようで発動する気配がなかった。さらに魔力減少による倦怠感が体中を襲い、膝をついてしまう。

「魔石――ぐっ!?」

 ポケットに入れておいた中級魔石を使おうと、ポケットから出し砕こうとすると、グレイウルフが突進し衝撃で魔石が飛んでいく。

「グルルルル……」

 周りを見ると10体は優に超えるグレイウルフが追いついており、もはや魔力の尽きた現状では生き残る手段はない。

 諦めかけたその時、目の前のグレイウルフになにかが飛来した。

「ガルッ!?」

「リーネ?」

 グレイウルフに飛来したのは俺の握り拳程の大きさの石だった。飛んできた方を見てみるとリーネが石をいくつか持ちながら再び石を投げつけている。

「グルルッ」

 石はグレイトウルフにも命中し、ターゲットがリーフと俺からリーネに移る。

「早く態勢を、立て直して!」

 グレイトウルフ達に囲まれながらも石を投げつける。
 だが持っている石はそれほど多くなく、ダメージもほとんど無さそうで早く助けないとリーネがやられてしまう。

「魔石っ……」

 倦怠感で動くことが困難な体を引きずり、僅かに残った魔力を使用して魔石を砕く。

「よしっ……」

 喉がからっからの時に水を飲んだ時のように満足感が体中に染み渡る。

「〈赤き炎を纏いし火矢よ・刺し射抜け〉!」

 リーネを囲っているグレイウルフの数体に『ファイアアロー』でちょっかいをかける。1本1本が当たったところでは倒すことが出来ず、中途半端に体力を削ることしか出来ないがこっちにターゲットを移すことくらいならできる。 

「〈不可視の刃よ・鋭く切り刻め〉!」

 『マルチターゲット』を使用し、『エアブレード』を放つ。5つに分かれた小さな風の刃がグレイウルフ達に命中する。しかし、やはり攻撃力が低すぎて僅かに怯ませる程度の効果しかない。

「くっそっ!」

 攻撃を受けながらも近付いてくるグレイウルフ達に俺の中で焦りが生じ、悪態をつきながらも魔法を放つが、いかんせん数が多く1体倒しても2体3体と襲いかかってくる。

「〈小さな火球よ〉!」

 リーフが体を木に預けながら動かすことのできる左手で援護射撃をしてくれるが、それでもかなり状況は悪い。

「っ、リーネ!」

 グレイウルフだらけの視界にリーネの姿が映る。石はもう手に持っておらず、1体のグレイウルフに体当たりされて吹き飛ばされ、木に激突し苦しげな表情をしている。

「ユウキさん後ろ!」

「え――」

 リーフの声に咄嗟に後ろを振り向く。そこにはグレイトウルフの大きな爪が映っていて俺に向かって振り下ろされようとしていた。世界がスローモーションになったかのように目の前の現実がゆっくりと流れていく。
 爪は俺の首を掻き切ろうとしていて確実に食らったら死んでしまうだろう。だが避けるだけの時間もなく、目の前に迫った爪を見ているだけしかできない。

 終わった――そう思い諦めかけた瞬間、横から衝撃が発生しグレイトウルフは吹き飛んだ。 
 

 
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