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アコクの森のロレアント
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朝早く、寒さで目が覚めた。春先ではあるが朝晩はまだ冬の寒さが戻ってくる。毛皮にくるまり火を熾して、簡単な温かいスープを作って飲んだ。身体の中から少しずつ温まってくる。
嫌なものは未だに地面からロレアントをめがけて絡みつこうとしてくる。それを魔法力の障壁で切り払い、火の始末をして馬に乗った。道なき道を馬を励まし進んでいく。気難しい悍馬もこの空気感がわかるのか、ロレアントが御すままに進んでいった。
ある一点についてから急に嫌なものの濃度がぐんと濃くなった。これは目的の地に近い、とロレアントは気を引き締め直し、自分と馬の周りに魔法力を展開する。魔法回復薬を一瓶ぐっと呷った。
馬が進むのをかなり嫌がるようになった。仕方なく、近くの樹にゆるく手綱を結んでやった。足跡がきちんとつくように魔法を展開しつつ先に進む。
すると急に開けた場所に出た。黒い土がぼこぼこと盛り上がっていて草が生えていない。何か所かに水が溜まっている。
ぶわっ!と陰の気が濃くなった。ウッと口を覆いながら自分の周りに障壁を展開する。かすむ目を森の奥の方に向けた。
そこには、大きな卵のようなものが浮かんでいた。黒と乳白色の混ざりあったような半透明の卵で、中に何か入っているようだ。‥‥人、のように見える。
(まさか、リオ!?)
よくよく目を凝らしてみてみると、中に浮かんでいるのは真っ白い肌と髪色の少女のようだった。混ざりあう模様の合間からなのでよくは見えないが、リオーチェではないようだ。
そう思った次の瞬間。
少女の白い髪がふわりと変化し、赤毛に変わった。顔立ちもリオーチェのものに変わる。
「リオ!」
ロレアントは思わず苦しさも忘れ走り寄った。その時、ぶわあああと陰の気が立ち上った。
漆黒の衣に漆黒の髪。
常夜が現れたのだ。
その異形に思わず立ちすくんだロレアントだったが、常夜が卵を守るようにして立ちふさがっているのを見て、あの卵の中にいるのはリオだとなぜか確信できた。
「‥お前は、常夜の精霊か」
<そうだ、ヘイデンの者。相変わらずこの森を荒らしに来たのか。常日を四散させただけではまだ足りぬか>
地の底を這うような、恐ろしい声で常夜は言った。ロレアントは素直に返事をする。
「俺の先祖がしてしまったことは、かなり酷いことだったと聞いた。その者に成り代わりお詫び申し上げる」
常夜は馬鹿にしたようにふん、と鼻で嗤った。
<お前に詫びてもらったところで常日は帰らない。‥‥だがもういい、あの娘の中で常日が肉を得るのを待つ>
常夜はそう言って卵の方を見た。
卵の中では白髪の少女と赤毛の少女が時折ふわふわと色を変えながら浮かんでいた。目はつむっていて眠っているように見える。
ではあれはやはりリオなのか。
「頼む、常夜の精霊、何でもする!俺にリオを返してくれ!ヘイデン家に恨みがあるならリオは関係ない、リオはクラン家の者だ!」
常夜は冷たくロレアントを見下ろした。人間風情がこの精霊である私の指図をするとはおこがましい。
<お前などに指図は受けぬ>
そう言ってふわりと浮かび上がり卵のそばに飛んでいくと、愛おしそうに卵を撫でた。
<もう何年か何十年かすれば、この娘の肉が常日の肉になる。そうすれば常日は戻ってくる>
嬉しそうにそう言いながら常夜は卵を撫でた。
ロレアントは愕然とした。それでは・・リオの身体は常日に乗っ取られてしまう!
ロレアントはがばりと大地に身を伏せた。
「頼む、お願いだ!リオをリオを離してくれ!‥常日の精霊の肉が要るというのなら‥俺の身体をやる!だから、だから頼む‥リオを、助けてくれ‥‥」
そう言ってロレアントは下を向き、ぽたぽたと涙を流した。黒い土の上にロレアントの涙が零れ落ち、吸収されていく。
常夜は黙ってロレアントを見ていた。‥この男の言葉に嘘はない。本気で常日が入っている人間の代わりになろうと言っているのだ。命を捨てて。
この男が、常日が入っている人間を心から愛していることも、常夜にはわかった。その気持ちは常夜が常日を想う気持ちに似ていて、常夜は胸がつきりと痛んだ。
だが、もうこの卵の中に入れてしまったら肉を得るまで取り出すことはできない。
<ヘイデンの者よ、お前の言葉に嘘がないのはわかった。‥だがこの卵に入れてしまった身体を入れ替えることはできぬ。お前の頼みは、聞けぬ>
その、厳しいだけではない常夜の声を聞いてロレアントは絶望した。
ここまで、ここまで追ってきて、ようやく見つけたというのに。
ようやくこの腕に抱きしめられると思ったのに。
もう、遅いのか。
もう、リオは戻ってこないのか。
ヘイデン家の呪いのために、リオは犠牲になったのだ。
何の関係もなかったのに。
絶望が、ロレアントの心を引き裂いた。
無意識のうちにロレアントはゆらりと腰の剣を抜いていた。はっと常夜が硬い表情を作り卵の前に出る。
ロレアントはただ、卵の中のリオを見つめた。
「‥リオ。ごめん。守れなくてごめん。リオには、何も関係ないことだったのに、巻き込んでごめん‥愛してるよ」
そういうや否やロレアントは迷いなく自分の胸に剣を突き刺した。
嫌なものは未だに地面からロレアントをめがけて絡みつこうとしてくる。それを魔法力の障壁で切り払い、火の始末をして馬に乗った。道なき道を馬を励まし進んでいく。気難しい悍馬もこの空気感がわかるのか、ロレアントが御すままに進んでいった。
ある一点についてから急に嫌なものの濃度がぐんと濃くなった。これは目的の地に近い、とロレアントは気を引き締め直し、自分と馬の周りに魔法力を展開する。魔法回復薬を一瓶ぐっと呷った。
馬が進むのをかなり嫌がるようになった。仕方なく、近くの樹にゆるく手綱を結んでやった。足跡がきちんとつくように魔法を展開しつつ先に進む。
すると急に開けた場所に出た。黒い土がぼこぼこと盛り上がっていて草が生えていない。何か所かに水が溜まっている。
ぶわっ!と陰の気が濃くなった。ウッと口を覆いながら自分の周りに障壁を展開する。かすむ目を森の奥の方に向けた。
そこには、大きな卵のようなものが浮かんでいた。黒と乳白色の混ざりあったような半透明の卵で、中に何か入っているようだ。‥‥人、のように見える。
(まさか、リオ!?)
よくよく目を凝らしてみてみると、中に浮かんでいるのは真っ白い肌と髪色の少女のようだった。混ざりあう模様の合間からなのでよくは見えないが、リオーチェではないようだ。
そう思った次の瞬間。
少女の白い髪がふわりと変化し、赤毛に変わった。顔立ちもリオーチェのものに変わる。
「リオ!」
ロレアントは思わず苦しさも忘れ走り寄った。その時、ぶわあああと陰の気が立ち上った。
漆黒の衣に漆黒の髪。
常夜が現れたのだ。
その異形に思わず立ちすくんだロレアントだったが、常夜が卵を守るようにして立ちふさがっているのを見て、あの卵の中にいるのはリオだとなぜか確信できた。
「‥お前は、常夜の精霊か」
<そうだ、ヘイデンの者。相変わらずこの森を荒らしに来たのか。常日を四散させただけではまだ足りぬか>
地の底を這うような、恐ろしい声で常夜は言った。ロレアントは素直に返事をする。
「俺の先祖がしてしまったことは、かなり酷いことだったと聞いた。その者に成り代わりお詫び申し上げる」
常夜は馬鹿にしたようにふん、と鼻で嗤った。
<お前に詫びてもらったところで常日は帰らない。‥‥だがもういい、あの娘の中で常日が肉を得るのを待つ>
常夜はそう言って卵の方を見た。
卵の中では白髪の少女と赤毛の少女が時折ふわふわと色を変えながら浮かんでいた。目はつむっていて眠っているように見える。
ではあれはやはりリオなのか。
「頼む、常夜の精霊、何でもする!俺にリオを返してくれ!ヘイデン家に恨みがあるならリオは関係ない、リオはクラン家の者だ!」
常夜は冷たくロレアントを見下ろした。人間風情がこの精霊である私の指図をするとはおこがましい。
<お前などに指図は受けぬ>
そう言ってふわりと浮かび上がり卵のそばに飛んでいくと、愛おしそうに卵を撫でた。
<もう何年か何十年かすれば、この娘の肉が常日の肉になる。そうすれば常日は戻ってくる>
嬉しそうにそう言いながら常夜は卵を撫でた。
ロレアントは愕然とした。それでは・・リオの身体は常日に乗っ取られてしまう!
ロレアントはがばりと大地に身を伏せた。
「頼む、お願いだ!リオをリオを離してくれ!‥常日の精霊の肉が要るというのなら‥俺の身体をやる!だから、だから頼む‥リオを、助けてくれ‥‥」
そう言ってロレアントは下を向き、ぽたぽたと涙を流した。黒い土の上にロレアントの涙が零れ落ち、吸収されていく。
常夜は黙ってロレアントを見ていた。‥この男の言葉に嘘はない。本気で常日が入っている人間の代わりになろうと言っているのだ。命を捨てて。
この男が、常日が入っている人間を心から愛していることも、常夜にはわかった。その気持ちは常夜が常日を想う気持ちに似ていて、常夜は胸がつきりと痛んだ。
だが、もうこの卵の中に入れてしまったら肉を得るまで取り出すことはできない。
<ヘイデンの者よ、お前の言葉に嘘がないのはわかった。‥だがこの卵に入れてしまった身体を入れ替えることはできぬ。お前の頼みは、聞けぬ>
その、厳しいだけではない常夜の声を聞いてロレアントは絶望した。
ここまで、ここまで追ってきて、ようやく見つけたというのに。
ようやくこの腕に抱きしめられると思ったのに。
もう、遅いのか。
もう、リオは戻ってこないのか。
ヘイデン家の呪いのために、リオは犠牲になったのだ。
何の関係もなかったのに。
絶望が、ロレアントの心を引き裂いた。
無意識のうちにロレアントはゆらりと腰の剣を抜いていた。はっと常夜が硬い表情を作り卵の前に出る。
ロレアントはただ、卵の中のリオを見つめた。
「‥リオ。ごめん。守れなくてごめん。リオには、何も関係ないことだったのに、巻き込んでごめん‥愛してるよ」
そういうや否やロレアントは迷いなく自分の胸に剣を突き刺した。
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