【完結】酒は飲んでも飲まれるなー市中警邏隊副長の場合ー

天知 カナイ

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‥頭、痛い。割れそう。ていうか全身が重怠い。

俺はゆっくりと目を開けて、恐ろしいほどの頭痛に顔を顰めた。確かに昨夜、窃盗団検挙の打ち上げで、普段行かないような飲み屋に行ったのは覚えている。何か、初めての酒飲んだ、か?結構強い奴だったのかな‥。あんま、酒で記憶飛ばしたことないんだけど。
とにかく頭が痛すぎて億劫だ。頭の中でだれか知らんやつがぐわんぐわん銅鑼を鳴らしているような、重痛さ。正直枕から頭を上げるのも躊躇われるくらい、酷い頭痛がした。
だが、いい加減起きた方がいいだろう。今日は休日だが寝たままだと頭痛は回復しない。仕方なく重い上半身をゆっくりと起こした。

ん?
どこだ?ここ。
俺の部屋じゃない‥宿?何で?
‥‥‥ちょっと待て。今俺の腕にさわっと触れた、のは、何だ‥?髪の毛、の感じがしたけど‥
俺は恐る恐る隣を見た。
そこには、艶やかな黒髪を顔の前に色っぽく垂らして眠っている男前の姿があった。
「いえッ?‥え、‥え?」
思わず声を上げそうになって頭痛を刺激してしまい、すぐに声を低くした。
誰‥? え、マジで誰‥?

待て、俺、裸だ。
‥横の男前も、裸だ。

おいおいおい。
昨日の俺、何しやがったんだ。
まさか、まさかの野郎相手に一夜の過ち‥?
一夜の過ちなんて、十五の時以来なんだが‥。しかもあの時は色っぽい未亡人からのハニートラップだったから不可抗力だった、と思ってるが‥。
俺は頭痛をなだめつつ隣で眠っている男を観察した。前髪がぱさりと顔にかかっているせいで少し幼く見えるが、きりっとした男前だ。睫毛が長い。鼻筋も通っていて、少しだけ開いた唇はそこまで厚くなく、中から赤い舌が覗いていて‥エロい。
布団から少しはみ出している肩にはしっかりと筋肉がついていて、ちゃんと男だというのがわかった。

俺‥この男前に入れちゃったの‥?
だよな、自分の尻には違和感ないからな‥
身体のだるさはあるが。

え、とりあえずどうすればいいんだ。こいつの名前も顔もわからねえんだけど、飲み屋で意気投合したのか?意気投合して男をナンパしたことなんかない筈なんだが。
俺が考えをまとめ切らないうちに、隣で寝ていた男前が「ん‥」と艶めかしい声を上げて身動きした。思わず身体が強ばる。
男前はゆっくりと長い睫毛を持ち上げた。おお、綺麗な青い瞳だ。‥そしてやっぱり男前だ。
そいつはしばらく瞬きを繰り返していたが、ふと俺と目を合わせると顔を真っ赤にしてがばりと起き上がった。そしてすぐに「痛っ」と腰に手を当てる。‥やってるよ。俺、ばっちり入れちゃってるよ‥。
男前は少し腰をさすってから、真っ赤な顔のままこちらを見上げてきた。少し目が潤んでいて‥色っぽい。
「‥ザンダー副長、結構‥激しいんですね‥」
男前はそう言ってうつむいた。耳まで真っ赤にしている。

待って待って待って~!この男前俺の名前知ってる~!
でも俺この男前の名前知らない~!!まだ頭がぼんやりしててわからない~!

「でも‥嬉しかった‥」
男前は顔を伏せたまま、そう呟いた。


その後、どうやってそこから出て行ったか覚えていない。とにかく日の光の下に出なければ、と謎の使命感で身支度をして外に出た。建物の出入り口から外に出れば、気持ちのいい晴天が広がっていた。
‥どうすればいいんだ‥。そう思っていると後ろから声をかけられた。
「ザンダー副長は今日非番ですよね。俺はもうすぐ、昼からの出勤なんで、行きますね」
振り返れば、男前は俺と同じ市中警邏隊の制服を着ていた。制服は男の魅力を三割増しにすると言うが確かにそうだ、と思った。身体の均整の取れたスタイルの良さを制服がいかんなく発揮している。
‥俺、同僚に手を出したのか‥。ええと、んん?ん~‥制服着てると、ちょっと見おぼえあるような。ぐわんぐわんと頭の中で鐘を鳴らされてるような頭痛の中で必死に考える。
そうやって必死に記憶の糸を手繰っている俺の前で、男前は長い前髪をかき上げ、ぐっと全体に後ろに流しオールバックにした。

あ。
ああああああ!
知ってるやつだった!
第二分隊長のユラール=ハザルインだ!
すごい腕の立つやつで無口で無愛想で、『氷結のユラール』ってあだ名付けられてる!

多分、その時の俺はかなり間抜けな顔をしていたに違いない。ユラールは訝しげな顔をして俺を凝視していたからだ。立ち尽くしている俺の傍まで来たユラールはそっと俺の手を握りしめた。
「あの‥明日の夜、一緒に夕食を食べたい、と思うんですが‥いいですか‥?」
また顔が真っ赤だ。ユラールは身長がほとんど俺と変わらないので顔は横にある。うつむき気味だが赤くなって目が潤んでいるのもよく見える。
俺が口をパクパクさせつつ、かろうじて頷くとユラールはふわっと笑った。
「嬉しい‥夢みたいです、副長の‥恋人になれたなんて」
では失礼します、と言って走り去ったユラールの後ろ姿を、俺は長い間突っ立って見つめていた。

ほぼ太陽が真上に上がった頃、ようやく俺は脳の活動を再起動させ近くのレストランによろよろと入った。猛烈に腹が減っている。‥ははは~だろうなあ、だって俺昨夜激しかったらしいもん!
がくりとテーブルに突っ伏した。
何があったんだ昨夜。
何を言ったんだ昨夜の俺。
恋人。こいびと。‥恋人になれたってユラールは言っていたな。
つまりユラールの中では、恋人になったから‥ヤッたという見解?

‥‥いや、ヤッたから恋人だよね?のパターンもあるな。
いずれにせよ俺は全然覚えてないから確かめようもないけどな!
二十六にもなってこんな事態を招く羽目になろうとは。いい加減落ち着いてきたつもりだったのに。
男‥いや経験がないわけじゃないが、男をナンパしたことはないんだこれまで!
ユラールの真っ赤になった顔や耳、そしてふわっと笑った顔を思い出す。
あんな顔で笑ってくれた男に、すみません全然君との一夜を覚えていませんていうのか?‥ショック、受けちゃうよな‥
だって、夢みたい、って。嬉しい、って言ってたもんな‥。
俺はユラールのことを知っていたし、何なら結構いいやつだという認識もしていた。それなのに酒に飲まれて何という失敗をしてしまったのだろうか。


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