【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

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4,えっ、そこから?

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ようやく泣き止んでいたのに、また喉奥から何かがこみあげてくる。うぐ、ぐ、と息が詰まって涙がぱたぱたと流れ落ちた。
何で。そんな理不尽な。別に異世界転移なんてしたかったわけじゃない。そんな小説や漫画が流行っていると聞いたことがあるだけで羨ましいなんて思ったこともないのに。
勝手に連れてこられて、もう帰れない?
何だよ、それ。
「や、だ‥」
ひくっひくっと痙攣したように喉が震え鼻が詰まってくる。涙がぽろぽろと零れ止まらない。泣きすぎてもう頭が痛い。
そうやって泣いている天尋マヒロを見ても、特に美青年は感情の揺れも見せなかった。近くのテーブルに置いてあったと見えるティーセットらしきものを引き寄せ、お茶を淹れている。天尋に勧めてでもくれるのかと思いきや、自分でごくりと喉を潤している。
そういえばこの青年は何者なのだろう。化け物を倒してくれたことからも、特に悪い人ではなさそうだがいい人というようにも見えない。現にこれだけ天尋が目の前で泣いているというのに全くそれを気にしたふうでもない。
喉が震え鼻が痛み声を出すのが難しそうだったが、その全く動じていない青年の様子を見ているとだんだん腹が立ってきた。何か言ってやらずにはおられない。
「な、によ。あんた、は、っく、誰なの?」
美青年は茶器をそっとテーブルに置いて、平坦な声で答える。
「私は龍人タツトのハルタカ。この龍人タツトの住処は私の家のひとつだ」
「‥っく、たつ、とって、なに」
「そうか知らぬか。龍人タツトはヒトとは違う生き物だ。帯壁内にごくわずかしか生きていない。だから滅多にヒトには干渉せぬ」
「人、じゃない‥」
「そうだ。だからお前をここに招き入れたのは例外中の例外だ。早く傷を癒して出て行ってほしい」
「‥‥」
自分はどうやら、招かれざる客だったようだ。何やら流行りの何たら召喚とかでもないらしい。‥ただ単に事故的にこっちに紛れ込んできてしまっただけのようだ。
だとすれば、この‥ハルタカの態度も納得できる。何の関係もない天尋を、見つけてしまったから仕方なく治療してくれただけなのだ。‥自分が怒るのは筋違いだったのだ。
「っく、ぐす、‥ごめん。‥できるだけ、‥早く、っく、出てく‥」
「身体が癒えたらで構わない。あまりここにヒトを置いたことはないのでな」
ハルタカはやはりあまりこちらを見ることもなく返事をしている。
‥この人?は本当に自分に興味がないのだろう。ただ、本当に通りすがりに自分を助けてくれただけなのだ。
だとしたら。
今自分ができることは、この人からこの世界の事をできるだけ聞き出すことかもしれない。‥だとしたら自分の態度はあまりにも悪かった。
「っく、たす、けて、ずっ、くれた、のに、ごめん」
泣きすぎてうまく喋れないが、何とか謝罪の言葉を繰り返す。ハルタカはちらりとこちらを見て、またお茶を淹れている。
薄く華奢で繊細な模様のついた茶器を、今度は天尋の方に差し出してくれた。おそるおそるその茶器を受け取って中身を啜る。程よく温かいそれは少し甘みのある、爽やかなお茶だった。
「あり、がどお‥」
そう礼を言う天尋の顔を見て、ハルタカがふっと笑った。薄い唇を少し開いたその笑顔は、えも言われぬほど美しかった。思わずその顔に見とれてぼーっとしていると、ハルタカはぽんと天尋の頭を叩いた。
「面白いヒトだな。‥早く癒えるといい。口づけても嫌ではないのなら、またあとでタツリキを流してやるが」
冷静になって考えてみれば。この超絶イケメンとキスは無理ゲーだ。いやしかしイケメンは早く出て行ってほしいのだった。それならお願いするべきなのか‥?
「え、っく、えーと‥」
ハルタカは天尋が話し出すのを待っている。これ、自分から色々言わなきゃいけないの地獄過ぎんか‥?そんなことを考えているとだんだん涙も引っ込んできた。息も少しずつ整い始める。ふーと大きく息を吸って吐いてをして、ハルタカの方に身体を向けた。この人は、人じゃないって言ってたし、なんか感情とかが色々違うのかもしれないからちゃんと言った方がいいかも。
「私に、早く出て行ってほしい、ということは、あの、早く治ってほしいですか?」
「そうだな」
「‥あの、私、キス・・口づけとかしたことが、なくて、男の人と、えー、そういうことするのにちょっと抵抗があるというか‥」
ハルタカはまた少し首を傾げた。
「おとこのひと、というのは何だ?」
えっ‥?
「ハルタカさん、男の人じゃないんですか?」
「私は龍人タツトだ」
「それはわかってます、それって種族とかの名前ですよね?性別です」
「せいべつ?」
ちょっとちょっと待って、マジ待って。
性別から説明しなくちゃいけないの?男女分かれてるんじゃないの?だってハルタカさんってめっちゃイケメンだし筋肉あるようだし背もめっちゃ高いしこれで女の人だったらそれはそれで衝撃なんだけど。
「えーと、子どもを産むのが女の人で産まないのが男の人じゃないんですか?」
ん?という顔をしてハルタカは答える。
「子どもは誰でも産めるだろう。龍人タツトは産まないが。産めないヒトというのはわからんな。ヒトは子果を授かれればほとんどの場合子を産めるはずだ」
待って異世界謎過ぎる。また知らない言葉出てきたし。しかってなんだよ~。
「しかってなんですか?」
「子果もないのか。‥お前の国ではどうやって子をなすのだ」
マジか。女子にそんなこと説明させるのか。いや女子とかないんだっけ?
天尋の頭の中はもう混乱を極めていて恥ずかしいという感情さえ湧いてこなかった。とにかく淡々と説明して、こっちに情報をもらうしかない。
「男女がセックスして子どもができます。女の人が産みますけど」
「せっくすとは何だ?」
そこからか~。そこ説明しないといけないのか~このイケメンに。私が。何の罰ゲームだよ。
「えーと!男性についている生殖器を!女性の生殖器に入れる行為です!」
もうやけくそで答えた天尋の言葉を聞いて、ハルタカは顎に手を添えてふむ、と考え込んだ。‥そんな恰好も絵になる。マジイケメン。いやイケメンっていう言葉では足りない感じだ。
「ああ、性交の事か。‥では陰茎があるものとホトがあるものが分かれているということか?」
‥陰茎って、男の人のあれだよね。ホトってよくわからんけど話の流れ上女の人のあれよね‥?
「‥多分、そうです」
ほう、と納得したような顔をして、ハルタカは説明をし始めた。
「では、この世界にはお前の言う『おとこのひと』というのは私たち、龍人タツトしかいないな。龍人タツトには陰裂レムがない。陰茎しか持たない。そしてヒトは皆陰茎とホトを持っている。お前はどうなのだ?」
とりあえずこの人は男の人で間違ってなさそう。
そして‥‥私に男の人のあれがあるかないか訊かれてるっぽい。こんな美形に。泣きそう。
「とりあえず、陰茎、はないです‥」
「ほう、龍人タツトの逆だな。お前もヒトではないのか?」
「人だと思って生きてましたけど‥」
もうここに来たら自分の常識は通じないのかもしれない。人じゃないのかな?‥‥私。
「‥ん?と、いうことはお前と私は、お前の言う『せっくす』ができるということか?」
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