【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
29 / 120

29 住処に戻って

しおりを挟む
食べ物や衣類など、随分な量の買い物をしてから龍人タツトの住処に帰ってきた。荷物をたくさん載せてもテンセイは全く意に介さず、行きと変わらぬ速度で空を飛んだ。もこもこの外套を買ってもらい全身をしっかり防寒されていたおかげで、帰りには少し目を開けて周りを見る余裕ができた。
青い空はどこまでも続いているようでとても美しかった。勇気を出して下を向けば、険しい山肌とそこを覆う森林地帯や人々が住む平地などが小さく見えた。
しかし寒いのと顔が痛いのには変わりはないので、すぐに目をつぶりハルタカの腕に顔を埋める。そこは温かくて安心できる場所だ。
程なく住処に着いて、テンセイから降りる。ハルタカはマヒロを慎重に下ろしてから荷物も下ろした。
「大丈夫か?気分が悪くなったりしていないか?」
「ありがとう、大丈夫」
そう言って降り立てば、足のふらつきはあるものの自分で歩くことができた。ハルタカは荷物を浮かせて運びながら、マヒロの肩を抱いた。
「少し休め。いつもの部屋にいろ。私は荷物を片付けてくる」
そう言われて、いつも寝ている部屋に向かう。あの部屋は本来ハルタカの居室なんだろうな、と思った。が、他に行く部屋もわからないので仕方がない。今回の買い物に寝台は入っていなかったし、このまま寝台ひとつでやり過ごすのだろう。
部屋に入って、大きな椅子に腰掛け一息つく。色々珍しいものが見れて面白かったし、こちらの世界の人々と話ができたのもよかった。

ただ、あの騎士たちのいう事には若干の不安を感じた。あの騎士たちには、街や市場にいた人々ほどハルタカを敬ったり大事にしたりしている様子がないように感じた。だとすれば、王が会いたがっている、という言葉はあまり無視できないものかもしれない。それでも自分の処遇について詳しいことは聞かせてもらえなかったし、王のもとに行ったからといって安心もできないような気がしてくる。
「‥なんか、心穏やかに過ごせる日って、来るのかな‥」
突然異世界に押し込まれ、戸惑う暇もないほど色々な違いに驚かされ、恋愛ごとにも疎いのに愛を囁かれ。
ひょっとしたら政治的なあれこれにも巻き込まれる可能性もあるのか、と思えば何だか精神的な疲労がどっと押し寄せてくるような気がした。
人と触れあう事はやはり大事だし、ずっとここに閉じ込められるのは辛いと思うが、今はあまりたくさんの人と触れない方が精神的健康にはいいのかもしれない。
そう考えていると、ハルタカがお茶を持って入って来た。
「飛んだから身体が冷えただろう。少し飲んで温まるといい」
そう言って出されたお茶は黄色で、つんと生姜のような匂いがした。こちらにも生姜があるのだろうか。
「これって生姜が入ってる?」
「ああ、身体を温めるからな」
「ああ、それは同じなんだ‥」
そう言えばなぜ言葉が通じるのだろうか。知らない言葉はすっと入ってこないが、ほとんどの会話は通じているし、私生活に使うものの名称も同じものもたくさんあるようだ。
「ハルタカ、きっと世界が違えば言語も違うって思うんだけど、なんで私はこっちの言葉がわかるのかな?」
ハルタカは椅子に腰掛け自分も生姜茶を飲んでいたが、少し考えてこう話した。
「恐らくだが‥‥カベワタリはこちらの世界に来ると身体も少しずつこちらに適応するように変化する。こちらの世界に順応しようとするのだと考える。だとすれば言語もわかるように脳内で変換されているのではないだろうか。マヒロの世界にあるものとこちらにあるものとで同じようなものはすぐに理解ができるようになっているのだろう。一方、子果やリキシャの事などわからないことはそのままの音で聞こえるからわからないのではないだろうか」
「‥なるほど」
異世界的ご都合主義か、と思ったがそこは口に出さないでおいた。ハルタカはカップを机に置くと、マヒロの顔をじっと見つめて口を開いた。
「マヒロ、さっきの話だが」
「さっき‥ああ、もし番いになったらってやつ?」
「ああ。‥何を訊きたかったんだ?」
マヒロは少し考えてから言った。
「もし、番いになったら‥私もあんまり人とは関係を持てなくなるの?ヒトと龍人タツトはあまり干渉しない、的なこと言ってたよね?」
ハルタカはさして表情も変えずに答えた。
「まあそうだな。基本的にはあまり接触はしない。時折、何か買い物をするか為政者の話を聞くかくらいだ」
「そうかあ‥」
改めて、やはりある程度の人づきあいがないと自分はだめだなと再認識したところだったので、その事実はマヒロには重かった。少しうつむき加減になったマヒロを見て、ハルタカが声をかける。
「マヒロは、やはりヒトの国の中で暮らしたいか?」
「う~ん‥今はちょっとまだ混乱しているからハルタカのところで静かに過ごしたい気がするけど‥基本的にはヒトの間に混じって暮らしたいかも」
マヒロが考えながらそう言うと、ハルタカは眉をきゅっと寄せた。唇を少し噛みしめて何か考えているようだ。
しばらく経って、マヒロが生姜茶を全部飲み終わったころにハルタカが言った。
「マヒロが番いになってくれるなら、少しはヒトの社会に関わってもいい。きちんと番いになれば、そうそう普通のヒトはマヒロに手出しはできなくなるからな。私が直接行かずにマヒロだけヒトの国に行く形にしてもいいだろう」
「そっか‥そういえば、どうすれば番いになれるの?はっきりした儀式みたいなのがあるの?」
マヒロが何の気なしに尋ねると、ハルタカは眉を寄せたまま少し不安げな顔を見せた。だが、少し躊躇うそぶりを見せながらもしっかりと答えをくれる。
「‥‥性交すれば、番いであるかはっきりする」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...