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43 攻防?
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「ハルタカさん、あの‥」
とマヒロが話そうとしたその時、ノックもなしに扉がバン!と開け放たれた。そこからのしのしと部屋に入って来たのは黒髪のルウェンだ。焦ったような顔をしてつかつかとマヒロの傍までくると、横に跪いているハルタカをものともせずにマヒロの手を握ってぶんぶんと上下させた。
「マヒロ様!いや~!!よかったです御無事で!うちの領主が危ないところに間に合ったようで!は~ドキドキしました‥領地内で危ない目に遭わせてしまって申し訳ありませんでした。私たちも警戒はしていたのですが、龍人様がご一緒だという油断があったようで、本当に面目ない」
ルウェンはにこにこ笑いながらそう畳みかけるように言った。マヒロは呆気にとられて手を握られたまま茫然とルウェンを見ている。
ルウェンの言葉に潜んだ棘を、ハルタカは鋭敏に感じ取った。龍人がついていながら何というざまだ、と言外に匂わせているのだ。‥喰えないヒトである。
ルウェンはルウェンで内心冷や汗をかいていた。騎士から「何か‥伴侶の申し込みが始まりそうな雰囲気で‥」と聞いて慌てて駆け付けたのだ。ぎりぎりマヒロが返事をする前に滑り込めたようで、とりあえずほっとする。
『カベワタリ』には、アーセルと一緒にいてもらわねばならない。龍人の番いなどにされたらせっかくの好機が台無しになってしまう。
ルウェンは如才なく世間話をぺらぺらと話し続けながら、じっとマヒロを観察した。先日出会った時にも思ったが、この『カベワタリ』は随分と世間ずれしていなさそうだ。世の中の汚いものなどあまり触れたことがない、という雰囲気である。
龍人に先に保護されてしまったのは痛かったが、情に訴えればこの『カベワタリ』であれば自分たちに協力してくれるかもしれない。
協力、の内容はギリギリまで伏せる必要があるが。
「協力」の詳しい内容はアーセルにさえ伏せている。それを知れば必ずアーセルが反対することが目に見えているからだ。だがそれではアーセルに王位は転がり込んでこない。
この国の未来のためにも民のためにも、何としてでもアーセルに国王になってもらわねば。
そのために、何としてでもこの『カベワタリ』を手に入れる。
ルウェンは心の奥でそう固く決意すると、にこっと微笑んでマヒロを見た。マヒロはなぜ急に笑いかけられたのかを理解していないようで、不審そうな顔をしながらもにへらと愛想笑いをした。
ハルタカは跪いていた身体をぐっと起こしてマヒロが座っている長椅子に腰かけ、マヒロの肩を抱き寄せた。
そしてマヒロの手をいささか乱暴にルウェンから取り上げる。
「触るな」
「‥なぜですか?」
「マヒロは私の番いだ」
「まだ、番われたわけではありません、よね?」
ルウェンはハルタカの言葉を無視してマヒロの方に柔らかく問いかけた。「番う」イコール性交だった、という事を思い出したマヒロは、顔を赤らめながら否定する。
「ちっ、違います!」
「違うそうですが、龍人様?」
そう言ってルウェンは狡そうに口の端をくっと上げた。それを見たハルタカはぐらぐらと腹が煮えるのを感じた。
喧嘩を売られている。
そう感じる。この男は、何としてでもハルタカとマヒロが番うことを邪魔しようとしている。なぜだ。
‥‥そう言えば先ほど会った騎士も、マヒロの腕をハルタカから取り上げようとしていた。あの騎士も、マヒロを手に入れたいと思っているのだろうか。
急激にマヒロを狙うものが増えたことに、ハルタカは強い苛立ちを覚えた。一刻も早く番いたい。だが、マヒロは自分を選んでくれるだろうか。
横目でそっとマヒロを見てみる。困惑したような顔でハルタカの腕の中でもじもじしている。
かわいい。
こんなところにマヒロを置いておきたくない。
「おい、早く調書とやらを作成してくれ。できれば一刻も早く住処に帰りたい」
ルウェンは意地悪そうに黒い瞳をきらめかせた。
「いや~しばらくお待ちくださいよ。せっかくマヒロ様を助けた領主がいるんですから帰りを待っていただきたいですねえ。色々とお話もさせていただきたいですし。マヒロ様はほとんど外にも出られてないでしょ?これからすぐに帰ってしまったら、今度いつ街に降りてこられるかわかりませんもんねえ」
ルウェンがわざとマヒロの不安を煽ろうとして、このような物言いをしていることが感じられ、ハルタカはぎゅっと眉を寄せ顔を顰めた。
こんなところにもういたくない。
「マヒロ、行こう」
そう言ってハルタカは立ち上がり、マヒロの身体を抱き上げようとした、
ところがマヒロがそれを拒んだ。
「え、だめだよ。やっぱりさっきの‥えと、アーセルさん?戻ってくるまで待たないと。助けてもらったんだし」
ハルタカはマヒロに聞こえないように喉奥で唸った。ルウェンの思うつぼにはまっている。もともと優しくヒトを疑うことをあまりしないマヒロだから、仕方ないのかもしれない。ここでマヒロの嫌がることを強いてしまったら、番ってくれないかもしれない、と考えたハルタカはしぶしぶ再び腰を下ろした。
だが、マヒロの肩に回した手を離すことはしない。
もう、絶対に自分の傍からマヒロを離すつもりはなかった。
扉がコンコンと二度叩かれた。ルウェンが「はい」と返事をすると、アーセルが姿を現した。長椅子に腰かけてハルタカの腕の中にすぽりとおさまっているマヒロを見ると、わずかに顔を顰めたが、書類を持ったままテーブルを挟んで向かい側の椅子に腰掛ける。それを見てルウェンも少し離れたところに置いてあった簡易椅子に腰を下ろした。
「‥お待たせすることになってしまって申し訳ありません。マヒロ様、急な移動のようでしたが、お身体には障りませんでしたか?」
この騎士も、言葉に棘を含ませてハルタカに嫌味を言ってきている。マヒロの体に障るような移動の仕方をハルタカがするわけがないというのに。
「お気遣い無用だ。龍人の力を見くびるな」
強い口調でそう言うハルタカに、もはや遠慮のなくなったアーセルの鋭い言葉が飛んだ。
「私はマヒロ様に伺っているのですが」
とマヒロが話そうとしたその時、ノックもなしに扉がバン!と開け放たれた。そこからのしのしと部屋に入って来たのは黒髪のルウェンだ。焦ったような顔をしてつかつかとマヒロの傍までくると、横に跪いているハルタカをものともせずにマヒロの手を握ってぶんぶんと上下させた。
「マヒロ様!いや~!!よかったです御無事で!うちの領主が危ないところに間に合ったようで!は~ドキドキしました‥領地内で危ない目に遭わせてしまって申し訳ありませんでした。私たちも警戒はしていたのですが、龍人様がご一緒だという油断があったようで、本当に面目ない」
ルウェンはにこにこ笑いながらそう畳みかけるように言った。マヒロは呆気にとられて手を握られたまま茫然とルウェンを見ている。
ルウェンの言葉に潜んだ棘を、ハルタカは鋭敏に感じ取った。龍人がついていながら何というざまだ、と言外に匂わせているのだ。‥喰えないヒトである。
ルウェンはルウェンで内心冷や汗をかいていた。騎士から「何か‥伴侶の申し込みが始まりそうな雰囲気で‥」と聞いて慌てて駆け付けたのだ。ぎりぎりマヒロが返事をする前に滑り込めたようで、とりあえずほっとする。
『カベワタリ』には、アーセルと一緒にいてもらわねばならない。龍人の番いなどにされたらせっかくの好機が台無しになってしまう。
ルウェンは如才なく世間話をぺらぺらと話し続けながら、じっとマヒロを観察した。先日出会った時にも思ったが、この『カベワタリ』は随分と世間ずれしていなさそうだ。世の中の汚いものなどあまり触れたことがない、という雰囲気である。
龍人に先に保護されてしまったのは痛かったが、情に訴えればこの『カベワタリ』であれば自分たちに協力してくれるかもしれない。
協力、の内容はギリギリまで伏せる必要があるが。
「協力」の詳しい内容はアーセルにさえ伏せている。それを知れば必ずアーセルが反対することが目に見えているからだ。だがそれではアーセルに王位は転がり込んでこない。
この国の未来のためにも民のためにも、何としてでもアーセルに国王になってもらわねば。
そのために、何としてでもこの『カベワタリ』を手に入れる。
ルウェンは心の奥でそう固く決意すると、にこっと微笑んでマヒロを見た。マヒロはなぜ急に笑いかけられたのかを理解していないようで、不審そうな顔をしながらもにへらと愛想笑いをした。
ハルタカは跪いていた身体をぐっと起こしてマヒロが座っている長椅子に腰かけ、マヒロの肩を抱き寄せた。
そしてマヒロの手をいささか乱暴にルウェンから取り上げる。
「触るな」
「‥なぜですか?」
「マヒロは私の番いだ」
「まだ、番われたわけではありません、よね?」
ルウェンはハルタカの言葉を無視してマヒロの方に柔らかく問いかけた。「番う」イコール性交だった、という事を思い出したマヒロは、顔を赤らめながら否定する。
「ちっ、違います!」
「違うそうですが、龍人様?」
そう言ってルウェンは狡そうに口の端をくっと上げた。それを見たハルタカはぐらぐらと腹が煮えるのを感じた。
喧嘩を売られている。
そう感じる。この男は、何としてでもハルタカとマヒロが番うことを邪魔しようとしている。なぜだ。
‥‥そう言えば先ほど会った騎士も、マヒロの腕をハルタカから取り上げようとしていた。あの騎士も、マヒロを手に入れたいと思っているのだろうか。
急激にマヒロを狙うものが増えたことに、ハルタカは強い苛立ちを覚えた。一刻も早く番いたい。だが、マヒロは自分を選んでくれるだろうか。
横目でそっとマヒロを見てみる。困惑したような顔でハルタカの腕の中でもじもじしている。
かわいい。
こんなところにマヒロを置いておきたくない。
「おい、早く調書とやらを作成してくれ。できれば一刻も早く住処に帰りたい」
ルウェンは意地悪そうに黒い瞳をきらめかせた。
「いや~しばらくお待ちくださいよ。せっかくマヒロ様を助けた領主がいるんですから帰りを待っていただきたいですねえ。色々とお話もさせていただきたいですし。マヒロ様はほとんど外にも出られてないでしょ?これからすぐに帰ってしまったら、今度いつ街に降りてこられるかわかりませんもんねえ」
ルウェンがわざとマヒロの不安を煽ろうとして、このような物言いをしていることが感じられ、ハルタカはぎゅっと眉を寄せ顔を顰めた。
こんなところにもういたくない。
「マヒロ、行こう」
そう言ってハルタカは立ち上がり、マヒロの身体を抱き上げようとした、
ところがマヒロがそれを拒んだ。
「え、だめだよ。やっぱりさっきの‥えと、アーセルさん?戻ってくるまで待たないと。助けてもらったんだし」
ハルタカはマヒロに聞こえないように喉奥で唸った。ルウェンの思うつぼにはまっている。もともと優しくヒトを疑うことをあまりしないマヒロだから、仕方ないのかもしれない。ここでマヒロの嫌がることを強いてしまったら、番ってくれないかもしれない、と考えたハルタカはしぶしぶ再び腰を下ろした。
だが、マヒロの肩に回した手を離すことはしない。
もう、絶対に自分の傍からマヒロを離すつもりはなかった。
扉がコンコンと二度叩かれた。ルウェンが「はい」と返事をすると、アーセルが姿を現した。長椅子に腰かけてハルタカの腕の中にすぽりとおさまっているマヒロを見ると、わずかに顔を顰めたが、書類を持ったままテーブルを挟んで向かい側の椅子に腰掛ける。それを見てルウェンも少し離れたところに置いてあった簡易椅子に腰を下ろした。
「‥お待たせすることになってしまって申し訳ありません。マヒロ様、急な移動のようでしたが、お身体には障りませんでしたか?」
この騎士も、言葉に棘を含ませてハルタカに嫌味を言ってきている。マヒロの体に障るような移動の仕方をハルタカがするわけがないというのに。
「お気遣い無用だ。龍人の力を見くびるな」
強い口調でそう言うハルタカに、もはや遠慮のなくなったアーセルの鋭い言葉が飛んだ。
「私はマヒロ様に伺っているのですが」
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