【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

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52 機工車に乗って

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そう言って笑い、後ろを振り返ってアーセルの顔を見た。アーセルは一瞬、顔を固まらせた。そしてふっと笑って‥優しくマヒロを抱きしめた。
「やはり、あなたは笑っている方がいい。その方が‥俺も嬉しい」
マヒロはアーセルの腕の中でその言葉を聞き、胸が苦しくなった。
ハルタカも同じようなことを言ってくれていた。喜ぶ顔が見たいのだと。二人とも自分を好きでいてくれて、自分を大切にしてくれている。
特に、アーセルのこの気遣いは今のマヒロにはありがたく心に沁みた。優しく腕の中に囲い込まれ、動悸が激しくなる。

‥ハルタカの腕の中にいる時と同じ、で、すごくどきどきする‥待って私こんなにちょろい奴だったの?‥ハルタカと喧嘩したからってすぐアーセルにどきどきするなんて尻が軽すぎない?

そう自分を心の中で叱咤する。だが、今は馬上でありアーセルの腕の中から抜け出すことができない。しかもアーセルは絶妙に優しく抱きしめていて、そこまで強く拘束されているわけでもないので、身をよじるのも不自然になる。
アーセルの優しさや接しやすさは、ハルタカとは違う種類のものだった。ハルタカはやはり、自分の気持ちを自覚してからマヒロにそれを伝えたいというのが先立っているようだったが、アーセルはただただいつもマヒロを見守っている、という感じだった。時折、自分の気持ちを口にしてマヒロにそれを忘れさせないようにしているくらいのものである。
そういうアーセルの態度が、マヒロの心の中に沁みるのは当然の成り行きでもある。ただ、やはりマヒロはハルタカに対する気持ちの方が大きいと思っていたので、そこまでアーセルを意識してはいなかったのだ。

でも、ハルタカと喧嘩したからってアーセルに甘えるのは、違う。だからここはちゃんと引かなきゃ。

マヒロはそう思った。
「アーセル、いつもありがとう。‥アーセルの、気持ちには‥多分答えられないけど‥ごめん」
アーセルは、そのマヒロの言葉を聞いて少しだけ腕に力を込めた。そしてマヒロの頭に悟られない程度に唇をつけてから腕を緩めた。
「‥‥俺は、いつでもマヒロ様をお待ちしているだけです。お気になさらずとも構いません」
「‥アーセル、優しすぎるよ‥」
マヒロは力なくそう呟く。アーセルは薄く笑って手綱をひき、馬の鼻を屋敷の方へ向けた。


翌日、貸し切りの機工車で王都カルロに向かった。機工車は路面電車のようなもので二両編成だった。日本の電車と同じような乗り物にマヒロは驚いた。
「え、どうやって動いてるの?電気ないよね?」
「でんき?は何かわかりませんが‥セキセイが二組乗っておりましてそれで動かしていますよ。マヒロ様の国では違うんですか?」
不思議そうにルウェンがそう訊いてきた。セキセイが何を指すのかわからないマヒロは重ねて尋ねた。
「セキセイ、というのはキリキシャとヨーリキシャの組の事を指します。二人でそれぞれのキリキとヨーリキを混じり合わせ、機工を動かすエネルギーを作るんです。ああ、そう言えばマヒロ様もヨーリキシャですよね?よかったら控えのヨーリキシャと話をしてみますか?」
人がエネルギーを作り出す?
マヒロは呆気にとられてその説明を聞いていた。それなら地球で問題になっていたエネルギー問題はこの世界には関係ないんだ。大気を汚したりエネルギーが枯渇したりすることもないのか。
どういう仕組みなのか、是非話を聞きたい、と控えのセキセイであるヨーリキシャに話を聞くことにした。
ヨーリキシャはバルハという、見た目は三十代半ばほどの女性に見えた。背は高く、目視でも170cmは軽く超えているように見える。燃えるような赤髪を太く編み上げ頭の上にねじり上げている。
「マヒロ様、おれに聞きたいことがあるそうですが?」
バルハは見た目美魔女、という感じなのに話し方や声は少し男っぽい。この世界に男女の区別はないのだということをいつもマヒロは忘れがちなのだが、こういう雌雄の入り混じった感じのヒトに会うとそれを思い出させられる。
「えーと、私はまだヨーリキ?の使い方があんまりわかっていなくて‥ものを触って分析というか解析はある程度できるんですけど、セキセイの方はどうやって動力に力を変えているのかなって‥」
バルハはふむ、と顎に手を当てた。
「マヒロ様はあまりまだ力の使い方がわかっていないんだね‥あ、いらっしゃらない、ですね?」
ぶっと思わず吹き出しながらマヒロは言った。
「いいです、普通に話してください!その方が話しやすいですよね?」
バルハは恥ずかしそうに頭を掻いた。少し頬を赤らめている様子は何だか可愛らしかった。
「いやあ、すんません。なかなか偉いヒトと話す機会もないもんで‥できたらマヒロ様も気安く話してもらえると話しやすいです」
「うん、わかった。教えて?バルハ」
バルハはニコッと笑ってマヒロに向かい合った。

「どんな力でも相性というのがあって、それがよくないと混じり合うことはできません。だからセキセイも速信鳥を使うリキシャも、伴侶や上下子きょうだいなどが多いんです」
「へえ‥」
バルハは片手をあげて掌をマヒロに向けた。そこがゆらっと揺らめく。蜃気楼が立ったような揺らめきが見えた。
「今のこれが、おれのヨーリキを具現化した状態です。力を具現化させるのも能力の内で、できるやつとできないやつがいる。マヒロ様もあとで試してみますか?」
「うん!」
なんかファンタジー映画みたいでかっこいい!魔法ではないけど、それに近いことができるということだよね?
久しぶりにマヒロは胸がわくわくするのを感じた。その様子をほほえましげに見ながらバルハは説明を続ける。
「この具現化した力を組のキリキを混じり合わせると反発して大きなエネルギーが生まれます。何もないところで混じり合わせるとすごい爆発とかになっちゃうんで、お見せすることはできませんけど‥」

え、こわ。
何か‥原子力発電ぽい?いや判らん、あまりそういうのに詳しくないし‥とにかくいろいろなもののありようが自分たちのいた世界とは違うんだ、というのはわかってきた。

「機工という、リキシャの力を入れることで動く仕組みが色々とあるんですが、機工車の入っている機工仕掛けは、ヨーリキとキリキの馴染みがいいんです。う~ん、なんていうか‥動力への転換効率がいい、ってのでわかるか?」
「あ~‥何となく、わかるかも‥」
「まあいい、とにかく機工車にはこうやってセキセイが乗り込んで時々力を具現化して注ぐんだ。それを動力にして機工車は走る」
「へえ‥」
「とは言ってもおれたちだってヒトだから無限に力を注げるわけじゃない。まあ大体二日がいいところだな。二日注いで三日休む。そんぐらいの調子で働いてるんだ」
「結構、体力使うんですねえ‥」
バルハは、厚い唇をくっと上げて笑った。
「そうだな、体力も精神力もだな。力の具現化や混じり合わせには神経を使うし。でも、おれは結構この仕事好きですね」
マヒロは素直に尋ねた。
「なんで?」
今度こそバルハはにやり、と意地悪そうな笑いを浮かべた。
「伴侶と離れずにいられる仕事だからだよ。‥おれは嫉妬深いんだ。おれの伴侶は、モテるもんでね」
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