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57 談話室で
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食事が終わって、自室に引き取ろうとしたマヒロだったがハルタカに止められた。もう少し一緒に過ごしたい、というハルタカの申し出を断ることはできなかった。目の端にアーセルの顔が映り、そこに苦渋の表情が浮かんでいるのを見てマヒロは胸が苦しくなった。
だが、ここで自分が謝ったりすることは何か違うだろう。そう思ってマヒロはアーセルの顔は見ないようにして軽く会釈をしてダイニングルームを出た。
ハルタカは肩に手を回しているが、そこには何の力も込められておらずマヒロが避けようと思えば避けられるようになっていた。ハルタカの心遣いを感じる。
ハルタカが好きだ。
ずっと話せないと辛いし、会えなくても辛い。何か嬉しいことがあればすぐに言いたくなる。
ここまで自分の気持ちが決まってきているのに、アーセルのもとにいていいのだろうか。これがこのところのマヒロの悩みだった。
アーセルがまた優しく、いいヒトであることが余計にマヒロを苦しめた。ハルタカがいなかったらアーセルに惹かれていたかもしれない、と思う。
そんな気持ちを持っていることにも、少し申し訳ない気もしている。
自分がここにいることで何か役に立っているとは思えていなかった。『カベワタリ』が傍にいれば力が上がる、と聞いていたが、アーセルやルウェンの力が上がっているような気配は感じないし何も言われない。
役にも立たない上、アーセルを苦しめているのだと思うとマヒロはやりきれない気持ちになる。
考え事をしているうちに、ハルタカにあてがわれた一角に着いていた。その中の談話室に入って長椅子に腰かける。メイドのジャックがハーブティーのようなものを準備してくれた。
ハルタカは座るとすぐにマヒロに言った。
「何を悩んでいる?」
マヒロは顔をあげてハルタカを見た。金の瞳が優しくマヒロを見つめている。今なら話しても機嫌を損ねなさそうだ、とマヒロは思い切って言ってみることにした。
「‥私、ここにいる意味あるのかな、って‥。力が上がるって言われたけどそういう気配感じないし、何より‥‥アーセルに、悪くて」
ハルタカは少しだけ首をかしげた。
「悪い、とは?」
「‥‥アーセルは、私のことを好きだって気持ちを隠さないで、だけどそれを押し付けずに私に優しく接してくれるでしょ。今日だって‥ハルタカの事受け入れてくれてるし。本当は嫌かもしれないじゃない。でも全然そんな様子見せないし」
「‥‥なるほど」
「私、ずっとアーセルの事を傷つけているんじゃないかって思って‥だって、どうしても、私は‥ハルタカが好きだから」
マヒロがぽろりとそう呟くと、ハルタカが金の目を大きく瞠った。そしてゆっくり立ち上がり、マヒロの横に腰かけた。そっと肩を自分に寄せて、右手をマヒロの頬にあてる。
「ん、っ」
そのまま唇を押しつけられる。何度かちゅっちゅっと唇をつつかれ、その後する、と舌を挿し込まれた。
「んん!」
部屋にはメイドのジャックが控えている。マヒロはぐいっとハルタカの厚い胸を押し返した。ハルタカは素直に唇を離してマヒロを見つめている。
マヒロは荒い息をつきながらじろっとハルタカを睨んだ。
「ひ、人前でそういうことしないで!」
「なぜだ?」
‥‥これは、どうなんだ、ハルタカがわからないだけなのか、それともこちらの世界ではそういう事を人前で恥ずかしがらずにやるのか。そっとジャックの方に目をやると、ジャックはプロの顔で感情を殺した表情をしている。‥判断できない。
仕方なくマヒロは説明した。
「私はこういう‥あの、接触を人前ではしたくないの、恥ずかしいから」
「マヒロが嫌なら口づけはやめよう。抱きしめるのはいいのだな」
「え、なんで」
「それはこれまでも何度もしているだろう?マヒロから手を回してくれたこともあった」
あー。そっすね、そんなこともあったかもしれないっすね‥。
今さらながらに恥ずかしくなってきたが、まあこの辺りの事はそのうちすり合わせて行けばいい、と思い直す。
「それより、アーセルの事、どうすればいいと思う‥?」
ハルタカはまたそっと肩を引き寄せながら答えた。
「私はいつでもすぐにマヒロに帰ってきてほしいと思っている。『カベワタリ』がヒトの力を増幅させる、という話自体は私は知らぬのでな。それが事実かどうかはわからない。ただ‥」
「なに?」
何の気なく自分を見上げてくるマヒロの顔を見て、ハルタカはふっと笑った。
「あの領主はこれから厳しい『国王選抜』を戦い抜かねばならない。その期間にマヒロが傍にいるというのは、あの領主にとっては嬉しいことなのではないか。‥私は、マヒロがここに居続けることにあまり賛成ではないが。マヒロが傍にいてくれれば力が湧く、という気持ちは、理解できる」
「‥‥そう、なのかな‥」
では、自分はここにいる方がいいのだろうか。とりあえず最初に約束した期間は、一緒に過ごすべきなのかもしれない。
「う~ん‥どうすればいいかは、まだわからないけど‥ハルタカもそう思うのなら、もう少し様子を見てみる」
「私はいつでもマヒロを迎えに来るぞ」
「ありがとう」
そう話している二人に、ジャックがゆっくり近づいてきた。話が途切れたあたりを見計らって声をかける。
「龍人様、よろしければマヒロ様をお引き取りしてもよろしいですか?明日のための準備を致したいと思いますので」
「‥わかった。衣装は先ほどのもので頼む」
「かしこまりました」
ジャックはそう答えて会釈をした。そしてマヒロを部屋から出るように促す。何をするのかわからないマヒロは首を傾げつつもジャックの後ろについて出て行った。
だが、ここで自分が謝ったりすることは何か違うだろう。そう思ってマヒロはアーセルの顔は見ないようにして軽く会釈をしてダイニングルームを出た。
ハルタカは肩に手を回しているが、そこには何の力も込められておらずマヒロが避けようと思えば避けられるようになっていた。ハルタカの心遣いを感じる。
ハルタカが好きだ。
ずっと話せないと辛いし、会えなくても辛い。何か嬉しいことがあればすぐに言いたくなる。
ここまで自分の気持ちが決まってきているのに、アーセルのもとにいていいのだろうか。これがこのところのマヒロの悩みだった。
アーセルがまた優しく、いいヒトであることが余計にマヒロを苦しめた。ハルタカがいなかったらアーセルに惹かれていたかもしれない、と思う。
そんな気持ちを持っていることにも、少し申し訳ない気もしている。
自分がここにいることで何か役に立っているとは思えていなかった。『カベワタリ』が傍にいれば力が上がる、と聞いていたが、アーセルやルウェンの力が上がっているような気配は感じないし何も言われない。
役にも立たない上、アーセルを苦しめているのだと思うとマヒロはやりきれない気持ちになる。
考え事をしているうちに、ハルタカにあてがわれた一角に着いていた。その中の談話室に入って長椅子に腰かける。メイドのジャックがハーブティーのようなものを準備してくれた。
ハルタカは座るとすぐにマヒロに言った。
「何を悩んでいる?」
マヒロは顔をあげてハルタカを見た。金の瞳が優しくマヒロを見つめている。今なら話しても機嫌を損ねなさそうだ、とマヒロは思い切って言ってみることにした。
「‥私、ここにいる意味あるのかな、って‥。力が上がるって言われたけどそういう気配感じないし、何より‥‥アーセルに、悪くて」
ハルタカは少しだけ首をかしげた。
「悪い、とは?」
「‥‥アーセルは、私のことを好きだって気持ちを隠さないで、だけどそれを押し付けずに私に優しく接してくれるでしょ。今日だって‥ハルタカの事受け入れてくれてるし。本当は嫌かもしれないじゃない。でも全然そんな様子見せないし」
「‥‥なるほど」
「私、ずっとアーセルの事を傷つけているんじゃないかって思って‥だって、どうしても、私は‥ハルタカが好きだから」
マヒロがぽろりとそう呟くと、ハルタカが金の目を大きく瞠った。そしてゆっくり立ち上がり、マヒロの横に腰かけた。そっと肩を自分に寄せて、右手をマヒロの頬にあてる。
「ん、っ」
そのまま唇を押しつけられる。何度かちゅっちゅっと唇をつつかれ、その後する、と舌を挿し込まれた。
「んん!」
部屋にはメイドのジャックが控えている。マヒロはぐいっとハルタカの厚い胸を押し返した。ハルタカは素直に唇を離してマヒロを見つめている。
マヒロは荒い息をつきながらじろっとハルタカを睨んだ。
「ひ、人前でそういうことしないで!」
「なぜだ?」
‥‥これは、どうなんだ、ハルタカがわからないだけなのか、それともこちらの世界ではそういう事を人前で恥ずかしがらずにやるのか。そっとジャックの方に目をやると、ジャックはプロの顔で感情を殺した表情をしている。‥判断できない。
仕方なくマヒロは説明した。
「私はこういう‥あの、接触を人前ではしたくないの、恥ずかしいから」
「マヒロが嫌なら口づけはやめよう。抱きしめるのはいいのだな」
「え、なんで」
「それはこれまでも何度もしているだろう?マヒロから手を回してくれたこともあった」
あー。そっすね、そんなこともあったかもしれないっすね‥。
今さらながらに恥ずかしくなってきたが、まあこの辺りの事はそのうちすり合わせて行けばいい、と思い直す。
「それより、アーセルの事、どうすればいいと思う‥?」
ハルタカはまたそっと肩を引き寄せながら答えた。
「私はいつでもすぐにマヒロに帰ってきてほしいと思っている。『カベワタリ』がヒトの力を増幅させる、という話自体は私は知らぬのでな。それが事実かどうかはわからない。ただ‥」
「なに?」
何の気なく自分を見上げてくるマヒロの顔を見て、ハルタカはふっと笑った。
「あの領主はこれから厳しい『国王選抜』を戦い抜かねばならない。その期間にマヒロが傍にいるというのは、あの領主にとっては嬉しいことなのではないか。‥私は、マヒロがここに居続けることにあまり賛成ではないが。マヒロが傍にいてくれれば力が湧く、という気持ちは、理解できる」
「‥‥そう、なのかな‥」
では、自分はここにいる方がいいのだろうか。とりあえず最初に約束した期間は、一緒に過ごすべきなのかもしれない。
「う~ん‥どうすればいいかは、まだわからないけど‥ハルタカもそう思うのなら、もう少し様子を見てみる」
「私はいつでもマヒロを迎えに来るぞ」
「ありがとう」
そう話している二人に、ジャックがゆっくり近づいてきた。話が途切れたあたりを見計らって声をかける。
「龍人様、よろしければマヒロ様をお引き取りしてもよろしいですか?明日のための準備を致したいと思いますので」
「‥わかった。衣装は先ほどのもので頼む」
「かしこまりました」
ジャックはそう答えて会釈をした。そしてマヒロを部屋から出るように促す。何をするのかわからないマヒロは首を傾げつつもジャックの後ろについて出て行った。
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