【完結済】龍人に救われた女子高生が、前提条件の違う異世界で暮らしていくには

天知 カナイ

文字の大きさ
62 / 120

62 心の行方

しおりを挟む
ハルタカは自分に与えられた居室へマヒロを連れて行き、きちんとドアを閉めてからマヒロに口づけてきた。
(‥約束守ってる、けど‥)
急に与えられる口づけにはなかなか慣れない。ハルタカはぎゅっと左手でマヒロの身体を抱きしめ、右手でマヒロの頬を押さえて唇を押し当ててくる。マヒロの唇をハルタカの舌が何度もつつく。開けてくれと言っているようだったが、マヒロは思わず、ぐっとハルタカの身体を押しのけた。
ハルタカはマヒロに拒絶され、不可解、かつ不満そうな表情を浮かべる。
「マヒロ?」
ハルタカの顔を見て、マヒロは何と言おうか迷った。

今、なんで自分は嫌だったのだろう。
‥嫌、だった?
好きな人からキスされてるのに?
‥‥なぜ?

「ハルタカ‥あの、あんまりキ‥口づけばっかりするのはちょっと嫌かも‥」
「そんなにしていないと思うが」
「‥‥‥舌、とか入れないでほしい‥」
「なぜ?」
ハルタカが真っ直ぐな目で見てくる。
何で嫌なのか。
わからない。
「わからない、んだけど‥なんかドキドキするし、どうしていいかわからなくなるから‥」
ハルタカがそっとマヒロの肩に手をのせた。そして少しかがんでマヒロの顔を覗き込んでくる。
「‥マヒロ。領主騎士が、気になるのか?」
「!‥違うよ、好きなのはハルタカだよ!」
ハルタカの問いに、跳ね返すように返事をする。その速さが、ハルタカの眉を顰めさせた。
ハルタカは少し顔を伏せて何か考えるようなそぶりを見せ、それからマヒロの両肩をそっと掴んでマヒロの目を見た。
「‥マヒロ。私はお前を愛している。それは変わらない。‥お前が私の手元にいないこのひと月余り、たまらなく辛かった」
「うん‥」
「だが私も色々と考えた。私はお前が幸せであることを願う。お前を愛しているし私のもとにいてくれればそれは嬉しい。‥だが、お前の心を偽ってまで私とともにいてくれなくてもいいのだ」
「そんなこと、そんなことないよ!‥好きだよ、ハルタカ‥」
マヒロは涙がじわりと浮かんでくるのを感じたが止められなかった。

自分が中途半端な気持ちを持っているせいで、アーセルもハルタカも傷つけてしまうのかもしれない。
ハルタカを好きだと思う気持ちに偽りはないはずなのに。
ただ、ハルタカの接し方が性急で、その先に性交セックスがあることを示されているようで怖くなるのだ。
「ハルタカがいないと寂しいし、会いたいと思うんだよ」
「そうか‥嬉しいな」
「でも、ハルタカにキス‥口づけされたり、あの‥ちょっとえっちな感じになると、怖いっていうか」
「えっち?とは?」
久しぶりの答えづらい質問に、マヒロはうーんと涙顔で思案した。ハルタカはそのマヒロの顔を見て、そっとマヒロの身体に腕を回し、軽く抱きしめた。
「私の接し方が、時々怖いのだな。‥私が早く番いたい、と思う気持ちがマヒロを怖がらせているのだろう」
「ハルタカ‥」

何でこんなに怖がりで意気地がないんだろう。マヒロは自分が嫌になった。自分の心は決まったと思っているのに、ハルタカに対して怖いという気持ちもある。そしてアーセルに対する申し訳なさが、‥違うものになるような気がしてそれも怖い。
なんだよ。私、何様だよ。
平凡で何の取柄もない、何の能力もない自分を、たまたま保護してくれた縁で好きだと言ってくれたハルタカ。
最初は『カベワタリ』だからということで接していたが、マヒロを委縮させぬよう気を配って接してくれたアーセル。
二人とも素晴らしいヒトで、自分が天秤にかけていいようなヒトじゃない。そして自分は、そんなたいそうなヒトじゃないのに。

ハルタカの厚い胸に額をこつ、とつけた。背中をそっと支える手が優しい。
「‥ハルタカが好き、だと思ってる。ハルタカが触れてくれたら嬉しいし、一緒にいられないと寂しい。‥でも、番いになること、にはまだ怖さがある‥」
「うむ」
「ごめんね、ハルタカ‥こんな中途半端な私で」
うっとしゃくりあげるマヒロの髪を、ハルタカはゆっくりと撫でた。

マヒロの言葉を聞いても、ハルタカの心に嵐は吹かない。以前であれば、このような言葉を聞けばすぐにでもこの場所からマヒロを連れ去って住処に閉じ込めてしまっていたかもしれない。だが、アツレンの街でヒトと共に暮らすマヒロはとても生き生きとしていて、話している時も楽しそうだった。そのマヒロの話を聞くのがハルタカは好きになった。
だが、前回自分のつまらない悋気でマヒロを怖がらせた。
ハルタカはあの時、初めて自分の言動を深く後悔した。なぜあんな狭量なことを言ってしまったのか。か弱いマヒロをなぜあんなに強く掴んでしまったのか。
住処で、ハルタカは自問自答を繰り返した。
そして出た結論は、マヒロの幸せを第一に考える、ということだった。
領主騎士の言動を見ていれば、マヒロの気持ちを第一に考え自分の気持ちを押しつけるようなことを一切していないことがわかる。それに比べ、長く生きているくせに龍人タツトである自分の言動を振り返れば恥じ入るばかりだ。

もし、マヒロが自分を選ばなくても。その時は黙って、手を、離す。
そう考えるのは、胸が潰れそうに辛い。目の前にいればマヒロを抱きしめたくなるし口づけたくなる。
だが、もう少し、引くべきなのかもしれない。
腕の中で震えながらしゃくりあげているマヒロを見て、ハルタカはそう考えた。
「マヒロ、私はこれから住処へ帰る」
「えっ」
マヒロが涙で汚れた顔をあげた。ハルタカの目は優しかった。
「もうすぐアツレンに帰るだろう?次は、ひと月後くらいにアツレンの屋敷を訪ねる。‥それまでマヒロも元気で過ごせ」
「ハルタカ‥」
ハルタカはマヒロの顔を見つめ少し逡巡する様子を見せたが、マヒロの額にそっと唇を押し当ててマヒロの身体を離した。
「元気でな。いつでも腕輪に話しかけろ。私はいつでも応える」
「うん、ありがと、ハルタカ、本当にありがとう」
「泣くな‥私はマヒロの笑った顔が好きだ」
ハルタカはそう言って、そっとマヒロの涙を親指で拭ってやった。そしてマヒロの頬をすり、と撫でる。
「マヒロ。‥お前の心によく耳を傾けろ。私や領主騎士に遠慮をしたり申し訳ないと思ったりするな。お前の気持ちがどこにあるのかを、よく見極めるといい」
「‥ハルタカ‥」
ハルタカは最後に、マヒロの頭にそっと唇を触れさせてから身体を離した。
「ではな」
「‥色々ありがとう、ハルタカ。ごめんね」
「謝るなマヒロ。また来る」
ハルタカはそう言い置いて部屋から出て行った。

玄関へ向かう途中にアーセルとかち合った。ハルタカは立ち止まって声をかけた。
「領主騎士、私は住処へ帰る。マヒロを頼む」
これまで、個人的にはほとんど口をきいていなかったハルタカにそう言われて、アーセルは不思議そうに眼を瞬かせた。その顔を見て、ハルタカはふっと笑っただけでその場を足早に立ち去って行った。
龍人タツト様とマヒロ様との間に、何かあったのだろうか‥)
アーセルはそう思ったが、今日はマヒロも疲れているだろうと思い、声をかけることはしなかった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。

和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。 黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。 私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと! 薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。 そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。 目指すは平和で平凡なハッピーライフ! 連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。 この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。 *他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

蝋梅
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...